::Call by the first name. 7
キリバン【33333】をとってくださった、makomama様のリクエストにお応えして書かせて頂いています。

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「カメラマン…?」

モデルとは真逆の仕事を将来的にやっていきたいという、誠の意外な科白に琴子は唖然とした。その様子に誠は「おかしい?」と尋ねる。

「ううん、驚いたけど…。だから最近モデルの仕事減らしてたの?」

琴子は幹からLE CIELで聞いた話を思いだす。



― アタシ、どっちかといえばノブヒロよりYUKIの方がタイプなのよね。まさかこんな所で会えるだなんてって喜んでたら…結局アンタが持っていっちゃうんだから…。

恨めしげに溜息を吐いていた幹は、こうも言っていた。

― YUKIはノブヒロに負けず劣らずの人気モデルよ。でもここ最近明らかに露出が減っているの。ノブヒロは俳優のお仕事も増えていて確実に活動の幅を拡げているのに、どうしてこんな違いが…ってアタシ、どうにも解せないのよね……。


「へぇ、琴子さんがそんなこと知ってるなんて意外だな」

「あ、違うの。これは聞いた話で・・・。あたしはあの時まで誠がモデルって事も知らなかったから」

「ふっ 琴子さんってほんと…嘘がつけない人だよな。素知らぬ顔して適当に合わせれば、相手にはばれないのに」
馬鹿正直に答える琴子に誠は苦笑する。

「あ…そうね、その通りよね…ってあれ?これもまた……?」

「「「プッ……!!」」」
3人は顔を見合わせて噴き出した。



「あーあ、琴子さんと話してると、おれってまだまだ無名だなぁって思い知らされるよ。…それでも気が付いてくれているファンもいるなんて嬉しいな。モデルの仕事、まだまだ続けるつもりだから頑張るよ。それからカメラの方だけど、実はもう少しずつ紙面の写真も撮らせてもらってるんだ。その人に伝えておいて。『結城 誠』でクレジットされているから探してみてって」

「うん、分かった。そっかぁ、こっちは本名なんだね」

「カメラは実名で活動したいと思って。モデルの仕事と区別しておきたかったしね」

そう言いながら誠はパイプ椅子にドサッと腰を下ろす。琴子も促されて、真琴のベッドの縁に腰を下ろした。


「どんな写真撮ってるの?」 琴子に尋ねる。

「仕事としては何でも。静物でも人でも風景でも必要とあれば撮る。でもやっぱり一番撮りたいのは人、かな」

「そっか。人、かぁ…。うん、素敵だと思う」

「あたしも撮って貰ったのよ、仕事で」

「え、そうなの!?」 琴子は真琴を振り返る。

「うん。見た事あるかな…?『sweetly』でノブヒロと撮ったの。映画のプロモートで」

「あ…。うん、知ってるよ、あのセミヌードの…だよね――?」
琴子は瞬時にその写真を思い出した 。

「…どう思った?」
誠 が尋ねる。琴子は少し考え込むように黙ると、やがて口を開いた。

「上手く言えないけど…、目が離せなかった。凛としていて、でもなんだか脆うくて切なかった。あたし、あの真琴ちゃんを見た時まさか17歳だとは思わなかった。あ、今は18歳なんだよね」

「うん。撮影はクランクアップ直後だったからまだ17だったの。ライターさん、さすがに誕生日までは把握してないから間違ったまま掲載されちゃった。ま、17の方がインパクトあるからワザとだったのかもしれないけれど。ありがとう、琴子さん。感想、嬉しい」

「あたしの方こそ。あの写真のモデルとカメラマンがここに居るなんてなんだか凄いよ。公開、楽しみにしてるね」
真琴の朗らかな笑顔に琴子も自然と顔が綻んだ。



「―あっ、あたしそろそろ行かなきゃ、また主任に怒られちゃう…!」
ふと時計を見て、琴子は慌てて腰を下ろしていた真琴のベッドから立ち上がる。

「空、急に暗くなってきたね。あたし、今日傘持ってくるの忘れちゃったから、降り出す前に仕事終わらせて帰らなきゃ。じゃあまた明日ね。あっ、何かあったら遠慮せずナースコールしてね」

そう言うと琴子はパタパタと出て行った。

「ほんと、午前中はあんなに良い天気だったのに…。やっぱり梅雨だね」
真琴は鼠色の空を見て呟く。誠も同じように静かに空を仰いでいたが、やがて真琴に目を向けた。

「―真琴。おれ、決めた。例の事、琴子さんに頼んでみようと思う」

「え……?」 真琴は誠を凝視した。

「なんで…!?だって、それはあたしがって言ってたじゃない!!」

「もともとお前は駄目だって言ったはずだ」

そのいつになくきっぱりとした誠の口調に、真琴は一瞬口を噤んだ。しかし一層強い視線で誠を見据え尋ねる。

「じゃあ、なんで琴子さんなの…?」

「少し前から考えていたんだ。で、さっきのあの写真の感想を聞いて決めた」
誠は怯むことなくその視線を受け止めていった。

「…もし琴子さんが断ったら――?」

「最終的に決めるのは琴子さんだけど、おれの意志は変わらないから。説得できるように精々努力するよ――」



―― バンッ!!
静かに閉じられたドアに真琴は枕を投げつける。

「…なんで言えないのよ、言わせないのよ……!!」

はらはらと零れる涙をそのままに、真琴は声を押し殺して泣いた。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *


「あ~、やっぱり間に合わなかったかぁ…」
ロビーを通り過ぎて開いた自動ドアの先に見えた無数の透明の糸に、琴子は溜息を漏らした。

「送っていこうか?」
「ひゃっ……」
背後から突然聞こえたその低い声に琴子はガクッと膝をつきそうになる。が、すぐに差し延べられた腕によってかろうじてそれを免れた。

「…大丈夫?」

「は はいっ、大丈夫…って、あ、あれ…、誠?ど、どうかしたの…?面会時間、もう随分前に終わったよね…?」
振り返った琴子は驚いて尋ねる 。そこに居たのは、とうに病院を後にしているだろうと思っていた誠であった。

「ん?確か琴子さん、傘持ってないって言ってたな~ってね。おれ、車だし送ってやるよ」

その唐突な申し出に琴子は一瞬ポカンとしたが、ハッと気づいて首をぶんぶんと横に振った。

「い、いいよそんな!売店に戻って傘買えば済む事だし、だいいち悪いよ。遠回りになるでしょ」

「琴子さん家、どこだっけ?」

「世田谷だけど…」

「あ、それなら全く問題ない。おれの家、広尾だから通り道。さ、行こう」
誠は琴子の手をとるとさっさと歩きだした。

「ちょ、ちょっと待って…!どうしたの?急に」

「もういいじゃん。おれ、カメラをトランクの中に入れてきたから気が気じゃないんだよ。だからさっさと歩いて」

カメラの事を言われると琴子も思わず口を噤む。そのまま誠に引っ張られるように地下駐車場に降りると、促されるままに助手席に座った。

「はい、じゃあ出発な」
誠は小気味よいエンジン音を鳴らし、アクセルを踏み込んだ。



「あ、あの…。ほんとに―― ごめんね…?」
琴子は誠の横顔を見て車中で何度目かになる言葉を繰り返す。

「琴子さん、気使い過ぎ。寧ろおれが謝らないと駄目でしょ。これなら電車で帰った方が良かったよな。さっきから全然動かないまま信号変わっちまった。ここの信号長いんだよな……」
誠はハンドルに上体を軽く投げ出す様にして凭れかかりながら、琴子を見てフッと笑う。

車窓に映る外の景色は激しい雨に遮られて良く見えない。ワイパーが休む間もなくせわしく動いている。遠くの空で小さく稲光が見え、雷鳴も轟いていた。

「ううん、濡れなくて済んで実は助かったかな、なんて。それにしてもひどい雨ね。朝は梅雨の中休み?って感じの良いお天気だったのに」

「まったくだよな。でも良かったよ、夕方からで。今日はロケだったから、雨降られるときつかったんだ」

「ああ、だからこんなに沢山の機材積んでいるんだね」
琴子は後部を振り返って納得する。

「まぁね。でもカメラはいつも最低1台は持ち歩いてるんだ。どこにシャッターチャンスがあるか分からないからね」

「そっかぁ、さすがプロ」

「そのダッシュボードの下、開けてみて」

「ここ?あ…」 
琴子が言われるままに物入れを開けると、そこには1台の一眼レフが入っていた。

「ほんとだ。こんな所にも」

「貸して」 誠は琴子からカメラを受け取ると起動させ、すっとそれを構えた。

「こんな雨じゃ何も撮れないんじゃない?」

「そう…?」
笑う琴子に、誠はふと笑い返すとレンズを琴子に向けた。

「ま、誠?」

「いいからこっち見て」
そう言ったが早いか、ピピっとシャッター音と共に車内に光が焚かれる。共鳴するように、車窓からは一層強い稲光が射しこんだ―――。



スキマ未設定(長編)  コメント(1)  △ page top


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::拍手コメントありがとうございます!
繭様

再びこんにちは!(もう一回いいますよ?(笑))
真琴の中の不穏な空気がちゃんと伝わっていて良かったです。
誠が真琴の気持ちに気が付いているかどうか…ここはあと2回位で辿りつく…かな?
誠は琴子にモデルの依頼をするのか?というのも正解だった訳ですが、もう一人ヤキモチ妬く人が…も、その通りですよね。はぁ、やっとここまで来れましたよ(苦笑)
最後の描写に次回の暗示を汲んで頂けて嬉しいです。続きが気になるってお言葉は本当にやる気の源になってます(^^)
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