::That night of winter solstice


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「ほんと、こいつだけは・・・信じられねえな」

つい1時間前、口にした科白を思わずもう一度呟く。

俺は今、琴子を背中から抱きかかえるようにしたままの状態で時計の長針が1周した事を確認し溜息をついた。
俺の腕の中で、琴子は無垢な子供のように小さく口を開けて幸せそうな顔をして眠っている。
まるで、幼児が父親の腕の中でうたた寝しているかのように。

「俺は、お前のパパじゃないぞ・・・」

少し大きな声で言ってみるが、全く起きる様子はない。


ふぅ、と溜息をついて体勢を変え、琴子を横抱きにして立ち上がった。
リビングを後にし、階段を上って2人の寝室に入り、琴子をベッドに寝かす。
顔にかかった髪を払ってやり、そのままその絹糸のような髪をクルクルと指に絡めて弄ぶ。

琴子の鈍感は、今に始まった事ではない。

その鈍感さを逆手にとって、自分の気持ちもつい最近まで気付かれる事なくやって来た。
当時はその鈍感さに助けられたが、今のこの状況は正直有難くない。


おい、俺だって、普通の男だぞ?
新婚で、つい最近まで連日徹夜で仕事して、やっとひと段落して、今日は賑やかなこの家に2人きりなんだ。
何も期待しない方が可笑しいだろう。


今日の琴子は、あいつにしては珍しく全ての家事を率なくこなした。
冬至に因んだ柚子湯は、湯温も適度で香りも良かったし、飯も美味かった。

――シチューの具は殆ど溶けかかってはいたが。

素直に褒めたら、照れて顔を真っ赤にするもんだから可愛くて、1杯位なら酔わないだろうとワインを飲ませた。
それが、どうやら失敗だったらしい。

風呂から上ってきた琴子は、俺以上に柚子の香りを身体に纏っていた。

その香りは琴子の淹れる、俺の口に合うコーヒーの香りよりもはるかに、俺の嗅覚を刺激した。

思わず琴子を抱き寄せ、誘ってみたのだが・・・あいつには分かり辛かったのか。何を思ったのか、ゲームをしたいと言い出した 。

内心琴子の鈍感さに拍子抜けしたのだが、夜はまだまだ長い。少し琴子に付き合うか、という気持ちになって了解した。

案の定、琴子がゲームをクリアする気配は全く無い。
暫くは黙って様子を見ていたが、だんだん痺れが切れてきた。


「ったく、それじゃいつまで経ってもクリアできねーよ」

堪らずコントローラーを奪う。己の欲望を少しだけ補完するべく琴子を後ろ抱きにする形で。

「すごぉい・・・。どんどんクリアしていく!」

琴子が小さく歓声をあげる。

――当然。俺がプログラムしたゲームなのだから。

最短で終わらせる方法で次々とクリアしていく。どうやら俺は今、凄く急いているようだ。


漸くエンディングまでクリアし、ゲームに向けていた集中を腕の中に戻す。

そして、琴子が静かになっている事、そして俺に寄りかかる圧力が始めより強くなっている事に気付いた。

「っとに、こいつだけは信じられねえよな」

覗きやると、琴子は幸せそうに眼を瞑っていた。スースーと寝息を立てている。

その寝顔が余りにも安心しきった顔で、まぁこんなひと時もいいかと思った。
少しすれば目が覚めるだろう。

そう思って胸に伝わる温かさを感じていたんだ。
ところが、まぁ琴子らしいと言えばそれまでだが・・・その眠りは1時間後より深いものに移ったようだ。

ワインがきいたか・・・

琴子の髪の毛は柔らかくて、指に巻きつけてもサラサラと流れ零れていく。
ふぅ、と再度溜息をつき、ベッド脇のサイドテーブルにふと目を向けた。

そこには、それほど大きくない紙袋が置かれていた。

「なんだ、これ・・・」

袋を手に取り中身を出してみる。
中には陶器でできたポットのようなものと、小瓶が数種類、そして一冊の本が入っていた。

俺は小瓶手に取り、ラベルを読み上げる。続いて本をパラパラとめくり、口角を上げた。
どうやら今夜は本当に長いらしい―――。




11巻スキマ  コメント(1)   トラックバック(0)  △ page top


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::はじめまして!
初投稿された作品を読んでから、ぴくもんさんのファンになりました!サイトを開設されたと知って、さっそく訪問させていただきました。ぜひぜひパスワード教えて欲しいです!
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