::Call by the first name. 11
キリバン【33333】をとってくださった、makomama様のリクエストにお応えして書かせて頂いています。
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「こんにちは、真琴ちゃん。気分はどう?」
直樹は病室に入ると、真琴に近付きながら優しく声を掛ける。

真琴は微笑むと
「こんにちは先生。大丈夫です、特に気分が悪い事は無いです」と答えた。
美麗な2人の姿はまるでドラマのワンシーンを見ているようで、幹は小さく感嘆する。

「今日は琴子が休みなので、代わって担当させて頂くアタシ、桔梗と言います、宜しくね」
幹が声を掛けると真琴もお願いしますと会釈をした。
華やかな業界に身を置きながらそれを鼻にかける様子なく、礼儀正しい真琴の振舞に幹は好印象を持つ。

「じゃあ真琴ちゃん、Tシャツあげてくれる?」
直樹の言葉に真琴は静かに従う。直樹は包帯を取ると創傷被覆材を外した。そうすると、ほぼ全体がピンク色に変化している肌が表れる。直樹は手際よく処置を進めた。

「だいぶ良くなってきているね。何か気になっている事は無い?」
再び新しい創傷被覆材に替える前に、直樹が真琴の顔を見て尋ねる。

「…いえ、特にないです」

「そう…?些細な事でもいいんだよ。心配事・聞きたい事、思い出したら何時でも気にしないで言ってくれて良いからね」

「はい。ありがとうございます」

直樹はもう一度真琴の表情を確かめたが、やがて静かに傷跡を覆った。

「…じゃ、今日はこれでおしまい。もう服下ろしていいよ」

真琴は言われたとおりにTシャツを下ろす。直樹は徐に椅子から立ち上がると、部屋を出るためドアに手を掛けた。が、最後にもう一度真琴の方を振り返る。

「…今日は少し残るつもりだから。いつでも呼んでくれていいからね」
そう言うと、静かに出て行った。

真琴はいつも以上に自分の事を気に掛けている様子の直樹に気が付きつつも、何故そんなに気を使われているのか理由が分からず、呆然とそれを見送った。ただ、今日は琴子が誠の撮影モデルをしているはずなので、直樹はその事を何も思わないのだろうかと、ぼんやり考えていた 。

「真琴ちゃん、無理しなくていいのよ」
器具の片付けを行っていた幹は真琴に声を掛ける。

「無理…?」

真琴が不思議そうに尋ねるので、幹は静かに頷いてみせた。処置の一部始終を見にしていた幹には、直樹の言葉の意図がよく伝わっていた。

「…真琴ちゃん、さっき入江先生が仰ったとおり、あなたの傷跡はアタシの目から見ても間違いなく快方に向かっているわ。きっと琴子の目にも、ね」

「…はい。分かってます」

「でも、いくら人にそう思われたって言われたって、たとえ入江先生が優秀なお医者様だと皆が口を揃えて言ったからといって、傷を負ったあなたから見れば、なかなか全てを鵜呑みには出来ないわよね」

「桔梗さん…」
真琴は幹の言わんとする事が漸く分かってきた。

「本当に完治するのか、それにはあとどれくらいかかりそうなのか、他にも……。気になる事があるのなら遠慮せずに言っていいの。聞いても良いのよ。入江先生は、それを望んでいらっしゃるわ」

「・・・・・っ、うっ・・・・・・・」
今まで堪えていたものが剥がれおち、堰を切ったように真琴の目から涙が零れ落ちる。幹は静かに真琴の背中を擦ってやった。

「ありがとう、桔梗さん…。入江先生に、聞いてみようと・・思います……」
真琴は切れ切れの声でそう言う。幹は「それがいいわと」と優しく髪を撫でた。

「あの…ひとつ、桔梗さんにもお願いしてもいいでしょうか……」

「ええ。アタシで役に立つ事ならば」 幹は優しく笑い掛ける。
真琴はそれでも少し躊躇していたが、やがて願いを口にした。


「―真琴ちゃん…。それは、どうしてもなの……?」
幹は動揺しながら真琴に尋ねる。真琴はさらに泣きじゃくりながら頷いた。

「はい…、この・・ままじゃ……、あたし…っ、琴子さんは…何も悪くないのに…っ」

「そう…分かった。ただ、少し時間をもらう事になるわ。師長に相談して、後任の調整をしないといけないから」
そう言って幹は溜息を吐いた。

… 一体どうなってるのか良く分からないけれど、早く琴子に知らせなければ…。その前にまず、入江先生に――。
幹は病室を出ると、急ぎ足で直樹が居るであろう医局へと向かった。



********************************


―誠が真琴ちゃんを好きだったなんて。そして、まさか真琴ちゃんも誠を好きだったなんて…

誠と別れた後、琴子は急ぎ足で斗南病院へと向かっていた。

結局あの後、撮影は行わないまま誠とは別れた。誠は、時間はまだあるからまた今度と言っていたが、それを受けていいのかさえ、琴子にはもう分からなくなっていた。 誠の気持ちを立てれば真琴を傷つけ、真琴の気持ちを汲めば誠を失望させることになるだろう。
とにかく、真琴と話さなければならないと思った。
琴子は道すがら、誠が話した事を反芻する。

―おれ、琴子さんはどこか他人とは思えないんだよな……
誠は懐かしげな目をして真琴への思いを語っていた。



「一目惚れだったんだ、おれも。事務所で初めて真琴を見た瞬間目が釘付けになった。名前も一緒で、柄でもなく運命とか思ったよ。そしたらまさかこんな運命の続きがあるなんてな」

「それは、ご両親の再婚のこと…?」

「ああ。…まさか一目惚れした相手が次に出逢った瞬間兄妹になるなんて、誰が予想する?」
琴子の問いに誠は自嘲の笑みを浮かべる。

「でも、恋愛は自由でしょう?」
琴子は尋ねる。連れ子同士の恋愛は漫画や小説でも常套手段の話だ。なぜ誠がここまで躊躇するのか、琴子にはよく分からなかった。

誠は少し考え込むように黙っていたが、結局琴子の問いに返事はせず、逆に質問を返す。

「…琴子さん、琴子さんが入江先生と入籍した時ってどんな気分だった…?」

「入籍…?」

「そう、役所に出しただろ?婚姻届」

「うん…」
琴子は懐かしい記憶に思いを馳せる。
どこへ行くとも告げられず、直樹に連れられて行った区役所。手が震え、書き損じをした末に出来あがったその薄い紙を窓口に提出した時、ただの紙切れ一枚が心を、絆を、そして現実的な繋がりをも生む事を知った。
区役所を出てからバス停までの短い道すがら感じた頬に当たる風の冷たさ、直樹と繋いだ手の温もり、そしてこっそり交わした一瞬のキスは一生忘れないだろう――。

「…なんなんだろうな、法律とか手続きとかって。ただの薄っぺらい紙だと思うのに、必要以上に気持ちを拘束する」

「…?」
その苦々しげな声で思考を引き戻された琴子は、誠の科白の意味が理解できず無言で意味を尋ねる。

「いいよなぁ…、琴子さんと先生が家族として表記される戸籍は、婚姻によって出来あがったものだもんな。それに引き換え、おれ達を結び付ける戸籍は養子縁組で出来あがったものだ」
誠は嘆息しながら呟く。

「養子縁組?」
聞いた事はあるが、縁のない言葉で琴子には意味が良く分からない。

「真琴の母さんがおれのおやじの戸籍に入る時、真琴はおれの親父と養子縁組しているんだ。これをする事によって真琴と親父には法的な親子関係が成立して、例えば将来的に相続なんかの手続きをする時におれと真琴は平等な権利が生まれるらしい。再婚するに当たって、家族として真琴と真琴の母さんを大切にするための手段として話し合って決めた事なんだ」

「う、うん…」

「難しい?」
曖昧な返事をする琴子に誠は笑い掛ける。琴子は恥ずかしそうにコクリと頷いた。

「俺もさ、初めて説明された時にはチンプンカンプンだったよ。たださ、出来あがった戸籍抄本を見せられた時、おれの母親でもある訳だけど、真琴の母さんに言われたんだ。『これから、真琴を宜しく』って。兄妹として、仲良くって――」


はっきり言及はしなかったが、誠と真琴が互いを殊更『兄妹』だと主張するのはこの為だと琴子にも分かった。
しかし誠は初めから、真琴は何時からは分からないが誠の事を特別な存在として意識していたのだ。ちっぽけな紙切れが人を幸せにすることもあれば不幸にする事もあるという事を琴子は初めて知った。
そして先日、自分が真琴にモデルの件を報告しに行った時の真琴の異変はこの所為だったのだと琴子は漸く合点した。

― もしも…、入江くんが純粋な気持ちであれ、他の女性と一時を過ごしているとしたら……?

琴子は首を振る。
自分は無意識に真琴を傷つけていたのだ―――。



―― もう一つ、おれが琴子さんを他人と思えない理由があるんだ。
ふと、誠が別れ際に言った言葉が蘇った。

「おれも4月1日の話、知らなかったんだ、真琴に出逢うまで。法律ってホント色々ややこしいよな!」
誠はそう言って諦めにも似たような乾いた笑顔を見せた。


********************************


「琴子!!」
太陽が沈み、昼間より寒々しさを感じるロビーを抜けて入院患者の病棟に繋がる廊下を歩いていたその時、聞きなれた声がして琴子はそちらを振り返った。

「モトちゃん……!」

「もう!何度も携帯にTELしたのよ!気がつかなかった!?」

「う、うん、ごめん。マナーモードで鞄に入れっぱなしで…。ずっと早足で歩いていたの」
いつになく激しい剣幕で詰め寄る幹に驚きながら琴子は答える。

「そう、でも丁度良かった。病院に来られないか連絡するつもりだったのよ」
幹は自らの気を落ち着かせるように一度深く息を吐き琴子を見据えた。

「…今日、撮影だったのよね?」

「うん。でも、撮れてないの」琴子は短く答える。

「そう……」
それで良かったかもしれない、幹はそう思いながら頷いた。

「あたし…、気がつかない間に真琴ちゃんを傷つけていたの。誠には悪いけど、あたしはモデルを引き受けるべきじゃなかったんだよ。まさか、まさか真琴ちゃんが誠を好きだなんて思わなかったの……!」

そう言ってはらはらと涙を零す。琴子は道中ずっと自分を責めていた。幹は火傷の件と合わせて、何故真琴があんなに苦しそうに泣いていたのか漸く全てを理解した。

「琴子…、しっかり聞くのよ」
幹は琴子の両頬に手を添えると真剣な眼差しで琴子を見つめた。

「どうやら真琴ちゃんたち兄妹には複雑な事情があるようね。琴子は鈍感だし、二人もきっと隠していたんでしょうから気がつかなくてもある意味無理ないと思う。でもね、琴子は看護師として気がつかなきゃいけない事があったはずよ」

「看護師、として…?」
琴子は丸い目で幹を見つめる。幹はそう、と頷いた。

「琴子。アンタ、真琴ちゃんが火傷の傷跡を気にしているの、ちゃんと気が付いてた?」

「え……」 琴子は回想する。

回診の時も清拭の時も、真琴はいつも明るく振舞っていた。しかし、たとえば急に琴子が病室の扉を開けた時、真琴はいつも鏡に自身の姿を映していた。着替えだとか、体型のチェックだと言っていたがそれは建前で、本当は傷を確かめようとしていたのだとしたら――、琴子はハッとした。

「思い当たる事があったようね…」

「モトちゃん、どうしよう!?あたし、本当に最低だ……!」
「―しっかりなさい!!」
半狂乱になりそうな琴子を幹は一喝する。

「今、琴子が出来る事はなに?泣く事じゃないでしょう!?さっきアタシ、入江先生にこの事お伝えしにいったわ。入江先生も彼女の様子をとても心配しているご様子だったから。多分今、彼女の病室に居ると思う。琴子、アンタも―――」

幹が話している途中で琴子は走りだした。
幹が最後に捉えた琴子の横顔は、先程まで彼女の顔に蔓延っていた迷いや葛藤が抜け落ちていた。

― これできっと大丈夫・・・・・・

琴子は普段はドジで頼りないが、いざという時はそのパワーで誰よりも人の心を捉えて見せる。きっと真琴の心にも届くはずだ。幹は多少安堵すると共に、事が良い方向に収まるよう強く願った。


「琴子さん?」
再び後方から自分を呼ぶ声がして琴子は振り返った。

「ま、誠!?」
そこには先程別れたはずの誠の姿があった。

「ど、どうしたの!?」

「ん…、ちょっと顔が見たくなって。面会時間過ぎてるけど見逃して!」
誠は手を合わせて請うようなポーズをとる。

「いいけど…。でもやっぱり―――」
琴子がどうしようか迷っている間に、誠は気にせず足を真琴の部屋へと進める。そして軽く2度ノックをした後、すぐに扉を開いた。

「もうっ、勝手に行っちゃ駄目だよ―――」
追いついた琴子が部屋の前で身じろぎひとつしない誠を嗜めようと近付く。と、その向こうに部屋の中にある二つの影に気が付いた。

「真琴ちゃん…、入江くん………」
琴子はその光景を誠同様呆然と見つめた。

部屋の中では、真琴が直樹の胸の中で涙を流していた―――。



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藤夏様

おはようございます♪
この度はお詫びを…(笑)
そうです、藤夏さんの仰る通り、血がつながってない兄弟なんで何も問題無いんです(^_^;)
もう今日upした話でネタバレしたので、やっとお返事書いてます…(^^)

誠のキャラを密かに(?)おバカさん設定にしていたので、真琴が大好きだから、将来を色々考えた末に勘違いで不幸スパイラルに陥れていました。う~ん、無理あり?(苦笑)
でも、色々なサイトでこのような関係の記事を読みましたが、出来ないと勘違いされている記事もあったので、「ま、いっか!}と話にさいようさせて頂いたんです^m^;

そして、この回は『モトちゃんのイイとこ見せる』が裏設定(笑)
藤夏さんをはじめ、コメント下さった方にお褒めの言葉を頂けて嬉しかったです♪
さて、ほんとに大詰めです。「終わって欲しくないような気もする」なんて…めっちゃ嬉しいです。ありがとうございます~~!!

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makomama様

こんにちは!そうです~、やっと出口が見えてきました。
ずっと温かい目で読んでくださってありがとうございます。あと少し、よろしくおねがいします!!
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::
chan-BB様

こんにちは!はじめてのコメント欄からの投稿ありがとうございます^^
実はコメント欄の方が書きやすくないですか?(笑)最近私もコメント欄を良く使うようになって密かに思っているんですよww

さて、もうあとがきに自分の文の稚拙さを嘆いても仕方ないと思って、何も書かなかったのですが、実はなんと読みにくい文なんだ・・・orz、と思っていたので、スムーズと言って頂けて凄くほっとしています^^

そして・・・そのマンガ名は何なんでしょうか!?妙に気になっちゃいました(笑)
chan-BB さんをしてそこまで嵌らせるとは・・・(笑)
そして、大人になれば「もっとやれ!!」・・・!!ぷぷっ鬼!!
でも、そこに恋愛感情が無くても直樹にこんな風にしてもらったら私もキュ~ンとなります(きゃっ!)前回がお子様だっただけにww(笑)
今回の話、どうもWマコトに食われているので(なんの創作だ!?)、最後くらい直樹らしいところを書きたいなぁ・・・と思っております^^;


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繭様

こんにちは。
色々想像を働かせながら読んで頂いてありがとうございます。
今まで誠の心情は放置していたのですが、ココに来てやっと書けました。がんじがらめ・・・確かに。次で色んな所解決しますので!場合によってはそれだけで終わってしまうかも^^;そうなると連載続行です(苦笑)
そして、モトちゃん素敵でしたか?モトちゃん贔屓の繭さんにお褒めいただけ嬉しいです。もう少しお付き合い下さいね。

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まあち様

こんにちは!お返事が遅くなって申し訳ないです。最近謝りっ放しですが、前回の件不快とは感じてないとの事、ほっとしました^^
そして・・・分かっていただけましたか?うふふ~良かった♪
そしてそうなんです。今回はモトちゃんが大人ですよー。ガッキーも活躍してくれていますが、モトちゃんはそれ以上です!
琴子は大丈夫ですよ、ただでは立ち上がらないですもの♪
そして、Wマコト・・・。これも何とか転がしますので。法律関係の事、ネットで調べつつ書いております。素人なので間違った解釈かも・・・。そこは皆様の広いお心でスルーしていただければ(笑)
中毒なんてwwありがとうございます!!今夜辺り、頑張りたいと思います♪
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うわ~っ!いよいよ佳境ですね~。続き、楽しみにしています。
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