::Blessing to you 2


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あの日から一週間が経った。

時は無情に流れてゆく。あれから直樹とは、会っていない。琴子も最近はクラブに出てこない。

・・・ここ、テニスコートは直樹との思い出がありすぎるから。

裕子は休まずコートに出る。それは彼女の元来の性質なのだろう。


裕子は後輩と20分間のストロークを終え、交代・休憩のためコートからでる。
ふと空を見上げると、厚い雲がたちこめていた。
もうすぐ 雨が降るだろう。

・・・今日は早めに上がったほうが良さそうね。

思っていると、同じように感じているテニス部員が部長の須藤に掛け合っている声が聞こえてきた。

「何を言っているんだ!我がテニス部は雨が降ろうが槍が降ろうが休んだりしないぞ!!」
須藤はラケットを振りかざして吠えている。

――あぁ、相変わらず暑苦しい人。

裕子が溜息をついたところに、ふと懐かしい声が聞こえた。

「相変わらずですね。須藤さん」

・・・入江君?

声のする方向、フェンス側を振り返ると、大学に来るのはいつぶりだろう、直樹がフェンス越しに立っていた。

裕子は自然にそちらに足を向けた。

直樹は須藤と世間話をしている。しかし、目はコートの隅で球拾いをしている下級生たちの方を向いている。

「・・・今日は煩いのが居ませんね」直樹が須藤に言う。

――やっぱり、ここでも相原さんを探しているんだから。

裕子はそっと苦笑し、直樹に声をかけた。

「ずいぶんランク下げたわね、相原さん。今日も食堂の彼とデートかしら」

言外に琴子がここに居ない事を告げる。

直樹は自嘲気味に笑い、裕子に声をかける。

「元気?」

「ええ、入江君に振られてもこの通りよ。お見合いの彼女とは上手くいっているみたいね。私、あの女嫌いよ。文句の言えない女なんてつまらないわ。正直、相原さんとくっついてくれた方が良かったわ。そしたら、『私の方が良い女よ』って言えるもの」

裕子は小気味よく答える。直樹はそれに声をたてて笑う。

――なんて乾いた声で笑っているの?心が枯れているわよ?本当にそれでいいの?入江君・・・

裕子は辛くなる。このまま話なんて出来ない。

「誰かの男になってもかっこいい入江君でいてね。じゃーね」

精一杯の笑顔で別れを告げる。

――どうか気づいて。“誰かの”っていうのは、あのお見合いの彼女じゃないのよ?
入江君の隣に居ていいと私が認めるのは、相原さんだけなのだから・・・


後輩に次の練習のために呼ばれたのをきっかけに、裕子はコートに戻る。

スマッシュを打ち込む後輩のために緩やかなロブの球出しをする。
後輩の打ち込むスマッシュがハードコートに気持ち良く響く。とそこに、騒々しい声が聞こえてきた。

「あー!入江君!!」

「どうしてここに居るの!?」

「大学やめたんじゃないの!?」

琴子の友人達だ。やっぱり琴子は大学内には居ないらしい。

彼女らは直樹に何やら話しこんでいる。直樹の表情は遠くて良く分からない。直樹はまだ何やら話しこんでいる琴子の友人達を残して離れて行ってしまった。


もう、手遅れなのかしらね・・・

裕子は諦めの溜息をつき、練習へと意識を集中させた。





予想通りの夕方からの激しい雨の翌日、裕子は全くもって予想しなかった展開に驚くことになる。

3回生の後期ともなり、受講数の減った裕子はその日、午後からの授業だった。

つまり直樹と琴子に纏わる一連の騒動に出遅れたことになるのだが、それでも掲示板にはまだまだ人だかりができていた。

――こんな風景、久しぶりね。ほんの少し前まで、ここには入江君と相原さんの根も葉もない噂話がしょっちゅう貼り出されていたのよね。

そんな事を思いながら通り過ぎようとした裕子だが、その掲示板を見ながら噂をする学生達の会話で足をとめた。

「えー!入江君と相原さんが結婚?」

「またそんな事、きっとデタラメだよ~」

――え?何、どうゆう事 ・・・・?

裕子は掲示板を振り返った。

そこには見慣れた絵、文字で【祝!!ついにウワサのカップル入江直樹・相原琴子、華も嵐も踏み越えゴールイン!!】と描かれたポスターが貼られていた。

もうどうしようもないと悟った翌日に、青天の霹靂。

裕子には訳がわからない。



考え込みながら学内を歩いていると、昨日コートで見かけた琴子の友人達を見つけた。思わず声をかける。

「今日は相原さん、学校に来ていないの?」

「あ、松本さん。琴子、今日はもう帰ったのよ」

「そう。で、あなたたちなら掲示板のポスターの真相、知っているかしら?出来れば教えて欲しいのだけど?」

「あ、今回は本当らしいのよー。私たちは今朝、琴子本人から聞いたから。ほんとびっくりしたわよねぇ。何がどうなってこんな展開になったのやら、私たちにはさっぱり」

「でも、琴子を問い詰めたら『なんか私じゃなきゃダメというか…あの雨の中キス・・・』とか言ってニヤニヤしていたわよね~。でもそれ以上は頑として教えてくれなくてさっ」

キス・・・裕子はぼんやりと遠い春の日のことを思い出す。

その様子に、先程まであっけらかんと話していた琴子の友人達は、裕子もまた直樹を真剣に好きだった事を思い出し口を噤んだ。

「あ…。私たち無神経だったかな。ごめん」

「いいえ、私が聞いたのだから。どうもありがとう。ところで、相原さんはどうしてもう帰ったの?」

すると、友人はさらに辛そうな顔で答えた。

「金ちゃんにちゃんと話さないといけないからって…。金ちゃんには悪いことしちゃったね。私たち、もう入江君の事はいい加減諦めて、金ちゃんの事ちゃんと考えなって唆したんだもん。」

「琴子の事を思ってのつもりだったけど、元からそんなことで解決する話じゃなかったんだよね・・・」



結局、その日はそれ以上の有力な話は聞き出せなかった。

元々噂ばかりが先行していた2人である。本人達が顔を出さない今、事態は収拾のつかない状況だ。

翌日も、その翌日も2人は大学には現れなかった。

休学届を出して、父の仕事を手伝っている直樹は別として、どうして琴子まで大学に来ないのか。本人からきちんと話を聞きたいのに。

やきもきしながらも、自宅に帰らざるを得ない裕子。ところが、そこにはさらに驚かされる物体が到着していたのだった・・・。




10巻スキマ  コメント(3)   トラックバック(0)  △ page top


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::コメントありがとうございました。
おかきさん

ふたたびこんにちは!
そうですよね。あの辛い秋を経て、晩秋、初冬に向かう頃には結婚をしたなんて、改めてこの辺りは本当にドラマチックで素敵ですよね♪

そうなんです。こちらは水玉さんの素敵なお話を呼んでついつい書いてしまった私の初めての作品です。
当初は水玉さんに強引に贈ってしまい(^^;)その後投稿サイト様で数件書いた後、このブログを開設しました。年の瀬にバタバタと、しかしワクワクしながら作業したのを覚えています(^^)

そういえばこのコメントを頂いた日、過去作に沢山拍手を頂いたのですがおかきさんが押してくださったのでしょうか?とっても励みになり嬉しかったです。重ねて御礼申し上げます!
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::拍手コメントありがとうございます
v-20n様
はじめまして。お越しいただいてありがとうございます!
水玉様のお話、本当に直樹の涙が衝撃的で、とても切ないお話ですよね。
そして、そんなお話に、恐れ多くも肉付けをしてしまった私ですorz
がっかりさせてしまったら、本当に申し訳ないです(>_<)
宜しければ、片目は瞑って見る感じでお願いします・・・・!!
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