::A Midautumn Night's Dream ④

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別荘に戻ってくると琴子は、早速夕食作りに取り掛かり始めた。


「材料は沢山あるし、うんと豪華な料理を作るから。入江くん、期待しててね!」

ヒラヒラとふんだんにレースがあしらわれたエプロンを身に付けながら、琴子はご機嫌な様子で笑いかけてくる。
一方未だ釈然としない気持ちを抱えたおれは緩慢にソファに腰をおろすと別荘へやって来るまでの道中に買っていた新聞を開きながらチラリと琴子に目を遣った。


「あとで運動しようってのに、そんなに沢山食えるかよ」

「あは、それもそっか」

おれの冷たい反応なんてもう慣れっこの琴子は、おれの嫌味の本意には気付かず自嘲気味に頭を掻きペロっと舌を出す。そして
「じゃあ遅刻しないようにチャチャっと作るね」と、さらにおれの気持ちを逆撫でするような事を言う。


「・・・おまえさ、ところでなんでそんなにテニスがしたいわけ?」

とうとうおれは、努めて平静に質問する。
今さら約束を反故にする気は無いにせよ、休暇中は2人きりでゆっくり過ごしたいと言っていた琴子が他人も交えて過ごす選択をしたのがどうもおれには腑に落ちなかった。


「あぁ、それはね」

すると琴子はにっこり笑い、未だまるで荷解きをしていないボストンバッグに駆け寄るとゴソゴソと中を探り出した。そして目的の物を見つけ出すと、
「これが着たかったの」とどうやら新調したらしいテニスウェアをぴらりと自分の身体にあてがうようにしてみせる。


「実は今日の為に買っちゃったの。だからどうしても入江くんに見てもらいたくって」

はにかむように笑ってみせた琴子は、浮き立つ心を表すようにクルリとその場でターンする。
薄いスウェット生地で作られた淡いブルーのワンピース型のテニスウェアが、琴子の動きに合わせてひらりと揺れた。



「ねぇ、どうかな?変じゃない?」

琴子はおれの顔を覗き込むと少し不安そうに、然し期待を込めてこちらの反応を窺ってくる。


「おまえは形から始めるところ、昔からちっとも変わんないよな」

やや気を取り直しながらも素直に褒められないおれは、皮肉を言いつつ「ま、悪くないんじゃない?」と語尾に付け足す。

どうやら琴子がムキになってテニスをしたがっていたのは、詰まるところテニスウェア姿の自分をおれに褒めてほしかったからだったという訳だ。
こうして理由が分かるとおれも、無下に琴子を責める事は出来ない。



「本当?やぁん、嬉しい!」

とことん前向きな琴子は、おれのこんなひねくれた褒め言葉でもとても嬉しそうに顔を綻ばせる。
そしてツツツとこちらに擦り寄ってくるとおれの隣にちょこんと正座をし、更に期待に満ちた目でおれを見上げてくる。



「・・・なんだよ?」


おねだりする子犬のような琴子の表情におれは言葉を促さざるを得ない。
すると琴子は「あの、あのね・・・」ともじもじしながら身体をくねらせる。


「その・・・、このウェア見て入江くん、何か思い出すことって無い・・・?」

「はぁ?」


要領を得ない琴子の質問に、おれは怪訝に思いながらも取りあえず未だテニスウェアを身体に合わせている琴子をもう一度ざっと見る。が、特に何も思い出すことなど何も無かったし、それは当然の事だと思った。何故ならそのウェアは新品なのだし、おれ達には勿論琴子にだって思い出なんて無いはずなんだ。


「別に何も」

おれは短く答える。

「もう、もっとよく考えてみて」

琴子は食い下がってきたが、本当にそのウェアを見て思い出すことなど何も無かったおれは
「無いものは無いんだから、考えようもない」と議論の余地はないというようにまた新聞に目を戻した。
不服そうな琴子の視線が未だこちらに注がれているのが分かる。仕方なくおれは琴子の思考を逸らせる為に話題を変えてやる事にした。


「それより早く飯作ったほうがいいんじゃない?約束に間に合わなくなるぞ」

「あっ、そうだった!」


単純な琴子はぴょんと立ち上がるとソファの背に手にしたままだったテニスウェアをパサリと引っ掛け、慌ててキッチンに戻って行く。その姿を見送りながら、おれはもう一度そのウェアを注意深く眺めた。



― これが何だっていうんだよ・・・?


暫く考えてみたけれど、やはりおれは何も答えを導き出せそうもなかった。
ただ、今明確に分かっている事は、折角2人きりで居られる時間に琴子の顔を曇らせたくはないという事。
そう、ただでさえその時間は短くなってしまったのだから―。




「貸せよ」

おれはキッチンに入ると琴子から包丁を奪い、まな板を用意すると「今日の献立は?」と尋ねた。
そしてどうやら琴子が作るつもりだったらしい料理のレシピ本の付箋のついたページを捲るとざっとそれに目を通す。


「あ、いいから入江くんはゆっくりしてて!」

驚いたように琴子は俺を止めようとする。

「2人で用意した方が早く出来るだろ?」

おれは構う事無く頭に叩き込んだ手順通りに野菜を切っていく。



「でも、入江くん今日は少しも休んでいないし・・・」

「平気だよ」

申し訳なさそうなその声に、おれは短く答えると琴子を振り返って少し口を歪めて笑ってみせる。


「それにおまえに任せていたら、試合の前に腹壊すかもしんねーだろ?」

「・・・イジワル」

少し紅潮した頬の琴子は、小さな子供のようにプゥっと唇と尖らせるとおれを軽く睨んだ。

「ほら、さっさと用意するぞ」

おれはその少し突き出された唇に一瞬のキスを落とす。
そして少し目を見開いた琴子の頭をポンポンと軽く撫でた。







「ふぅ~~、もうお腹いっぱい!」

琴子が両手を合せ、満足気な笑顔をこちらに寄越してくる。


「ほんと、すっごく美味しかった~。ご馳走様、入江くん!」

「そりゃどうも」

同時に食事を終えたおれは、フォークを皿に置くと口元をナフキンで拭う。
テーブルに並べられた皿は、何もかもが見事に綺麗に完食されていた。



「ごめんね。結局入江くんに全部作ってもらうことになっちゃって」

「もう慣れたよ」

「そ、そっか。エヘへ・・・」

笑って誤魔化す琴子におれはやれやれと苦笑する。
2人でキッチンにたてばこうなる事など、おれも琴子ももう十分に分かっている話だ。

・・・とはいえ、まさかオードブルから展開するちょっとしたレストランのコース料理のようなメニューを作る羽目になるとは思っていなかったが。
ま、なんだかんだ言いながらも琴子の計画のまま料理を作ってしまったのはおれなのだから仕方がない。



「それにしても琴子。おまえ、無理して全部食ったんじゃねーか?」

おれはあらためてすっかり空になったテーブルを眺め尋ねる。
いささか自棄になって全ての材料を使い切るように作った料理は、運動前の軽食どころか一体何人前の食事だったことか。


「う・・・ん、でも折角入江くんが作ってくれたんだもん。 それにきっとなんとかなるよ。だってほら、まだ約束まで2時間以上あるし」

琴子はやや言葉を詰まらせたが、すぐににっこり笑うとテーブルから立ち上がる。そして

「そうだ入江くん、デザート切ろうか?」

とまたキッチンに向かおうとした。


「・・・まだ食うつもりかよ」

もはや呆れるよりも感心の目でおれは琴子を眺める。
この期に及んでその発想が浮かぶのは寧ろ賞賛に値するのではなかろうか。


「フルーツだもん。それに、デザートは別腹よ」

琴子はけろりと答える。


「別腹ねぇ・・・」

おれはしみじみとその言葉を繰り返しが、もうこれ以上腹に何か詰めるのは御免だった。

とその時、ふと別の欲がおれの中をスッと過ぎる。
それは連鎖的にあるもうひとつのおれの望みかなえるかもしれない欲求だった。



「待てよ」

おれは椅子から立ち上がると、キッチンに向かおうとする琴子を引き止めた。


「なぁに?どうしたの?」

「デザートはこれがいいな」


おれは背後から琴子を抱きしめると首筋に唇を這わせる。そしてエプロンのスキマから手を差し入れ、胸の膨らみを触れると揺らすように揉んだ。



「や、やだぁ入江くんってば・・・っ///」

琴子はたちまち肌を火照らせたが、ひどく甘ったるい声を漏らした。


「食事してる時に思ったんだけど」

「・・・ん・・・///?」

「ワンピースの上からしているとこれ、素肌にエプロンをしているように見えるよな」

「そ、そんな事思ってたの・・・?エッチだよ入江くん」

「いいだろ?いい運動にもなると思うぜ?」

「もう、バカ・・・」


琴子はきゅっとおれの手を掴んで抗議してくるが、その力は酷く弱い。
一方おれは、こんな時だけおれを馬鹿呼ばわりしてくる琴子を思い切り苛めてやりたい衝動に駆られる。


「― きゃぁっ」

ワンピースが身体から滑り落とされる感触に、琴子は不意を突かれたような声をあげた。おれはニヤリと笑って琴子を見下ろす。
下着に過剰なレースが付いたエプロン姿でこちらを見上げる琴子は、まるで主の為なら何でも奉仕してくれるメイドのように見える。



「いい眺めだ」


おれは露になった琴子の太腿を下から上に撫で上げるようすると尻をギュッと掴む。そしてそのまま琴子を持ち上げると、傍にあったソファに乱暴に落とした―。










まだまだ続きそうな入江くんの独白(苦笑)
ここでオマケとして入江くんの天敵ガッキーによる『入江くんの過ちPart①』の解説♪
(え、要らないとか言わないでっ!)


******


いや~、入江はまったく女の心理を分かってないよね。

あのドジッコ萌えナースの琴子ちゃんプリティテニスウェアを披露しているっていうのに、なーにが
『悪くないんじゃない?』だ!!このムッツリが~~!!

ほんとは『おれにだけその姿は見せればいいんだよ。なんなら着替えさせてやってもいいぜ?』とか思ってるんだろうな。はっ、いつも気取りやがって!!


そのうえ裸エプロンプレイを強要するなんてどんだけだよ!?羨ましいじゃねーか。このドスケベ!!
さしずめこれをしたいが為に料理だって手伝ったんだろ?そうなんだろ!?


しかもまだ何か仕出かした覚えがあるようだしさ。こんな事ばっかしてたから、あのきゃわゆい琴子ちゃんだってお前のエロエロな本性に気付いてお前に距離をおきたくなったのさ。ふーんだザマーミロ!!



******


どうも失礼しました・・・!なんかふと書きたくなってしまったんです(^^;)


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::くーこさん、ありがとうございます。
くーこさん

再びこんばんは。レスが前後してすみません(^^;)
そうなんです~。今回は描写こそしませんがこんな内容ばっかです(笑)
強引な入江くんも好き!と仰っていただき嬉しいです!!私も好きです。むしろ常に強引であってほしい(←何言ってんだろ?私(^▽^;))
そうそう、いつもとは違うシチュなんですよねww ここ、今後の展開で密かにポイントだったりするんですよ!アップした時にクスっと笑っていただけるといいなぁ♪
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::吉キチさんへ♪
再びこんばんは♪
あれあれ、私のレスが分かりにくかったですかね?すみません(><;)

ちゃんとコメント届いておりましたよ~~(^^)ムフフな表現、楽しませていただきました♪
テニスウェアの件は次回に書かせていただきますね!!
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::chan-BBさん、ありがとうございました
chan-BBさん、こんばんは。
ひえ~、毎日お忙しいんですね・・・!でも新学期ですから仕方ないんですかね~。私も来週は学校行かなくちゃ・・・。

chan-BBさんには泣き言のようにずっとくだらないと連呼している今回のお話ですが、この展開に萌えを感じていただけて本当に嬉しいです~♪調子に乗って書いたものの、『ここまで書いたらやり過ぎ?』と思い直し削除・修正を繰り返すって感じでなかなか進まず・・・。一緒にするなんて恐れ多いですが、chan-BBさんが雨宿り系をUPする時に緊張されるというのが今回本当に良く分かった気がします(;´▽`A``

料理をする入江くん!
そうそう、結婚してから入江くんが料理をするシーンってないですよね!?私も入江くんがなんだかんだ言いながらも料理する姿は好きなので、一緒にキュンとしてくださって本当に嬉しいです♪

それから後半にダダダと羅列した入江くんらしからぬ科白のオンパレード(笑)
悩みに悩んでやはり書いちゃえ♪とやってしまったのですが、こうしてツッこんでいただけてホッとしました~~。なんていうか、スルーされるほど悲しいものは無いのでガッキーに登場してもらった感もあります(苦笑)
特に「いい眺めだ」はひどいですよね!?殺意・・・同感!!!
でもでも、仰るとおりニヤニヤとしながら書いておりました(`∀´)

次回の展開、見えないですか?今回はリク内容を完全に伏せさせていただいてますもんね♪
その辺の理由は最後まで読んでいただけたら納得していただけると思います(^^)とにかく、そこに早くたどり着けるようがんばりたいです!
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::管理人のみ閲覧できます
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::吉キチさん、ありがとうございます
吉キチさん、こんばんは。
もうもう、吉キチさんったら比喩が上手すぎる~♪
そうですよね。豪華な料理でお腹がいっぱいになったところでエロスイッチが入っちゃったんですよね~(笑)
食材は目の前。どんな風に仕上げていくのかは料理人の腕の見せ所というところでしょうか(^m^)
って、私もおかしな妄想スイッチ入りそうです~。いや~ん。

そしてすみません!天敵さんをまたまた出してしまいました~~。
吉キチさんの怒りのお言葉、ごもっともです!入江くんと自分を一緒にしちゃだめですよね!なんて、オマエガカイタンダロ…!!(^▽^;)
造語に吉キチさんの天敵さんへの気持ちが溢れています(笑)でもこれこそが天敵さんなので、いつまでもこうであってほしいです♪
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::あけみさん、ありがとうございました。
あけみさん、こんばんは。
あはは!ほんと入江くん、こっち方面にもっていくの上手ですよねww
そしてそうなんです!テニスの約束が無ければこのまま朝までコースだったはずなんですよね( ´艸`)その辺りを踏まえて次回はまた展開させていただきたいと思っておりますので♪

それから裸・・・いえ、素肌にエプロンは男のロマン・・・って!フフ、どうなんでしょうね~!?でも入江くんまでそれを喜ぶなんて、ちょっとショックですよね・・・・(書いたのは私なんですが)
こういうネタが好きでない方にはほんと申し訳ないですが、今回はこんな感じの入江くんにまだお付き合いいただくことになると思います。笑ってお許しいただけたらありがたいです(^^;)
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::hirominさん、ありがとうございます!
hirominさん、こんばんは。こちらこそいつも労っていただいてありがとうございます!

そうなんです。琴子も入江くんと2人きりで過ごせることを喜んで、それこそ色々と準備したりしているんですが、実は入江くんのほうが楽しみにしているんですよね♪
珍しく琴子の意図する仕掛けが分からず困惑する入江くん。それが何であったかは次回に書かせていただきますので(^^)
なかなかテンポ良く書けなくって読者の皆様をやきもきさせてしまっていると思うのですが、2人の心の機微を楽しんでくださっていると仰って頂けると大変ありがたいです!おそらく最後までこんな調子になるかと思いますが、のんびりお付き合い頂ければうれしいです。

最後に、hirominさんにもガッキーの解説を楽しんでいただけてホッとしました~~。もう、今回は色んな意味で読者の方のご反応にガクブルしておりまして(^^;)おバカなオマケでしたが書いて良かったです(笑)
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::紀子ママさん、ありがとうございます。
紀子ママさん、こんばんは。

体調お気遣いくださってありがとうございます~。大丈夫です、無理はしてないですよ!実はこちらは先週既にほぼ書き終わっていたんで修正のみだったんです♪

そうそう、取りあえずパート①でございます(笑)入江くんにしては珍しく何かを忘れているんですよね~。その答えは次回に出てきます。(やらかしたことパート②も★)またまたくだらないですよ♪今回はとにかく真面目にくだらないがテーマなのです!!(←なんじゃそりゃ)
でも仰るとおり、入江くん優しい部分もしっかりあるんですよね(^^)お料理自らかって出てくれるなんて、ほんといつもより何割増しで優しいんだろう?って思いますよね~~。でもそこは無自覚な入江くんなのですww

最後にガッキーの解説、紀子ママさんにも楽しんでいただけて良かったです(≧▽≦)
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::藤夏さん、ありがとうございます。
藤夏さん、こんばんは。こちらも続けてのコメントありがとうございました♪
しかしロスタイムと続けてこちらを読まれたなんて、本当に入江くんのギャップがどんだけ激しかったことでしょうww いえ、でも結構それを狙っていた部分もありました(笑) 
なんていうか・・・、今回の入江くんはかなり入江くんらしくないので(苦笑)お好みの方を読んでください、みたいな(^▽^;) 個人的にはイっちゃってる入江くんも好きなんですが、やはりこの話はマニア向けだと思っております。

それにしてももう!藤夏さんったら!!
裸エプロン=鉄板
デザートはおまえ←お約束
仰るとおりでございます!!しかしこんな科白でイキイキしている入江くんってどうなんだ・・・!?

ガッキーのツッコミが藤夏さんのお気持ちを代弁していたとの事、なんだかホッとしました~。こんなオマケだけど書いて良かった~~♪そう、私もこんなガッキーが好きだったりするです(^m^) しかしパート①とか書いたけど、次はあるんだろうか・・・?(笑)

最後に花粉症の心配してくださってありがとうございます~。今週は結構大丈夫です!でも薬の副作用で毎日勤務中に睡魔が・・・ヽ(;´Д`)ノ早くこの季節は過ぎてほしいものです~。
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