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A Midautumn Night's Dream ⑦

皆様GWは如何お過ごしでしょうか?
きっとお忙しく過ごしておられることと思います(‐^▽^‐)

その中こんな僻地に遊びに来てくださった方はありがとうございます!
今回、最後に進むに連れて入江くんの様子がおかしくなっていますが、失笑しつつ見守って下さいませ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



翌朝、目覚めたおれの右隣に琴子はもう居なかった。

「・・・ん・・・」

窓に差し込む眩しい太陽の光で目が覚めたおれは、少し目を擦るとベッドから下り外の景色を見た。そしてその角度から、今が遅い朝だということを知る。
窓を開けると秋の避暑地の朝は清々しく、何も身につけていない肌に涼しい風がひんやりと当たるのが心地良い。

持参した意味があまりなかった寝間着代わりのスウェットを取りあえず履いていると、ふと琴子が畳んで置いたらしいテニスウェアが目に入った。数時間前まで続いた情事の抜け殻。

― それにしても・・・。

おれは首を傾げる。
琴子は一体いつおれの腕をすり抜けたのだろうか。
それに気が付かないほど、おれは深く寝入っていたのだろうか。



階下に下りるとキッチンから気配がした。
どうやら琴子は朝食作りに取り掛かっているらしく、中からはジューと何かを焼いたり食器の重なる音が聞こえてくる。きっと昨日おれが作った夕食の代わりにと、不器用な腕を振るうことに躍起になっているのだろう。

「きゃあ~~!」

また何をやらかしたのか、叫び声の響く部屋の中を覗く事無くおれはそのままバスルームに足を向けた。シャワーを浴びるのは、この別荘にやってきてから実はこれが初めてだ。
丸一日――、しかもあれほど汗をかいた一日に一度たりとシャワーを浴びなかったというのは、普段ではありえないことだ。元来の性質もあるが、出逢ってから今までずっと家族と同居しているおれ達の生活は基本的にきっちりとしている。

が、昨日のいつそんなタイミングがあったというのか。夜更けか明け方、どちらで表現すべきか定かでない時刻、情事を終えたおれ達に汗を流すなんて選択はもはや無かった。そりゃそうだろう。この一日、早朝東京を出発して那須まで車で移動し、散歩や料理、テニスと休みなく動き回ったおれ達はどれだけ活動的だったことか。その上まるでその甘い味を覚えたばかりのカップルのように、昼も夜もなくセックスに明け暮れたのだから、これでまだ余力が残っていれば、おれ達はもう底なしの体力の持ち主だろう。

だいいち此処へは2人きりで来ているのだから。
いつもは多少はその目を気にする必要のある家族の目―、おれと琴子の仲をつぶさにチェックしているお袋や、シャイな入江家の男達の目が、此処にはない。誰に気兼ねしなくてもいい。
とにかく昨夜、何度目かの果てを迎え漸くあちこちにしわのいったシーツの海に身を沈めおれに、睡魔はなんなく下りてきたのだった。そしてとろとろに溶けてしまいそうなおれの耳には、「寝ちゃ駄目」を繰り返す琴子の声がぼんやりと聞こえていた―。


「入江くん・・・、寝ちゃ駄目」

今にも眠りに落ちていこうとしているおれを、琴子はそう言って引き止めたはずだ。

「・・・なんで」

瞼をすっかり重くさせる眠気とその日一日の疲れの所為で、おれの声は我ながら随分不機嫌に響いたと思う。
が、琴子はそんなことで怯んだりはしない。おれの頬を掌で包んだり、指で摘んで引っ張ってみたりする。そしてまた「ねぇ起きて」と繰り返した。

「ねぇ、お風呂入らなきゃ。だって今日あたし達、一度も入ってないんだよ?こんなに沢山、色々としたのに」
「・・・色々ってなんだよ?」
「い、色々は色々よ・・・///」

この期に及んで、琴子はまだ言いよどみ顔を赤らめる。

「・・・とにかくもう今は寝かせろよ。どうせこれから入っても、朝起きて入るのと変わらないよ」
「あっ、ちょ、待って入―・・・」
「・・・お前ももう寝ろよ」

既に眠りの入口に差し掛かっていたおれは、いささか面倒臭げに琴子の言葉を遮るとその細い首の下に右腕を差し入れ、一方左腕は滑らかな曲線を描く腰を抱いてぐいと引き寄せた。
引き寄せた琴子はもう何も身に付けてはいない。何度と抱き合う間に邪魔者になったコトリンのコスチュームはもうベッドの下に落とされてしまっている。おれはまるで抱き枕のように琴子の脚に自分のそれを絡ませた。

「やぁん、入江くん・・・///」

遠くで琴子の甘ったるい声がしているが、勝った睡眠欲はおれを怠惰な誘惑へと導いた。
おれは早々に腕に込めていた力を弛緩させると意識を手放していった―。






まだ幾分濡れた髪のままダイニングに入ると、琴子は薄めの化粧を終え身支度も整えていた。
昨夜最後に目にした乱れた髪は、打って変わって隙なく結われていた。

「おはよう、入江くん」

椅子から立ち上がり朝に似合う爽やかな笑顔を向ける琴子の肩の向こうには、形のややいびつな朝食たちが並んでいる。ガスコンロでは火にかけられた薬缶が湯気を少し出し始めていた。
おれは「おはよう」と返すと琴子の手元に目をやった。

「お前がそんなの読むなんて珍しいな。それ、昨日おれが買ったやつ?」
「あ、うん。朝食の準備も終わったし手持ち無沙汰だったから」

琴子の手には、おれが昨日買って読んだ新聞が拡げられていた。

「階段を下りてくる音は聞こえたのに、なかなかこっちに来なかったね?」
「先にシャワー浴びたんだよ。お前こそ随分きっちり支度終えてるみたいだけど、いつ起きたんだ?」
「う~ん、わりと早かったかな。夜中に熱いシャワーを浴びた所為で目が冴えてしまったのかも」
「・・・。あの後入ったのか?」

予想外の返事に思わず眉根を寄せるが、新聞を畳んでいた琴子はおれの様子に気付かない。呑気な様子でうん、と頷く。

「大丈夫だよ、帰りの車で寝たりしないから。ちゃんとナビするから安心して!」
「カーナビ付いてるんだから要らねーよ。だいいちお前にナビなんて頼んだら、一生家に帰れない」
「もう、そこまで言わなくたって」

琴子は少し口を尖らせたが、直ぐに気を取り直すと「コーヒー飲む?」とっすっかり沸騰した薬缶の火を止めた。そしてインスタントコーヒーの粉をササとマグカップに入れると湯を注ぐ。

「はい、どうぞ」
「ああ」

おれはカップを受け取るとコーヒーを一口口にに含んだ。
琴子の淹れるコーヒーは不思議だ。丁寧に淹れたドリップは勿論、インスタントでさえも旨い。特に計っている様子もないのに、何故かおれの好む味に粉と湯の量を調整してみせる。朝の小さな憂鬱は湯気と共に昇華し、不思議と心に少し余裕が出来た気がする。


「・・・なんだよ?じろじろと」

テーブル越しに視線を感じ、カップを口に付けたまま目を上げた。すると琴子はフフと笑い、さらに覗き込むような目でこちらを見てくる。

「入江くん、髪が濡れててちょっと可愛いな~って。そんな風に上目遣いすると尚更」
「可愛い?おれが?」
「うん。だってこんなリラックスした格好で髪の濡れている入江くんってちょっと少年ぽいなぁ、なんて。なんだかギャップがあってキュ~ンってしちゃう」
「夜とはえらい違いって?」

おれは口端を少し上げると髪を摘みツンと引っ張った。指先に水滴がたらりと流れて落ちてくる。

「や、やだ、そんな事言ってないじゃないっ」
「でも比べてたんだろ?」
「それはその・・・す、少しだけ///」

琴子は昨日のあれこれを思い出したようで顔を赤くさせた。が、それを鎮めるように自分の頬を擦るとまたおれの顔をじっと見つめた。

「入江くん、その・・・。身体、大丈夫?まだ疲れていたりしない?」

質問する琴子の目は真剣そのものだ。
おれは腕を擦ると僅かに顔を顰めてみせた。

「ああ。そういえば腕が少し痺れたようになっていて思うように動かないな」
「う、嘘っ!?」
「やべーな。暫くはまともに動かせないかも」
「や、やだ、どうしよう・・・」

オロオロと椅子から立ち上がった琴子は、おれの腕を取ると「どの辺り?」と擦ってきた。

「・・・ プッ」
「・・・え・・・?」
「嘘だよ。ったく、お前ってほんと騙されやすいよな」

おれはニヤリと笑うと腕をぐるりと動かして見せた。腕はどこに痛みを覚える事もなくすいすいと動く。

「もう、入江くんの意地悪!」
琴子がポカポカとおれの胸を叩いてくる。

「明日からまた仕事なのに、手術も早速入っているのに入江くんの腕に何かあったらどうしようって本気で心配したんだよ!?」
「バーカ。お前に心配されなくてもそれくらいちゃんと考えてるよ」

おれは琴子の腕を容易に受け止めると琴子の目を覗き込んだ。

「けどまぁ・・・、もう少し痩せてくれたらおれも何かと楽になるかもな。昨日もお姫様抱っこで階段を上がるのは大変だったしな~」
「そ、それは入江くんが勝手にしてきた事じゃない!」
「さぁ、そうだったっけ?」
「もう!」

琴子はまた顔を赤くし頬を膨らませる。

― ほんと面白いやつ。

笑ったり恥じらってみせたり、心配したり怒ったり、ほんの少しの間にもこうしてクルクルと表情を変える琴子を見ながらおれは思う。
けれど琴子は分かっていない。おれがこんな思ってもいない小さな意地悪を言って琴子をからかう本当の理由を。

― 身体の心配より、なんでこんな事に気が付かないかな。

そう、今、琴子の目に恐らく意地悪く見えている笑顔の裏で、おれは実はまだ子供のように少し拗ねていた。
朝目覚めた時、琴子が隣に居なかった事を。
夜、抱き寄せたおれの腕をすり抜けて一人シャワーを浴びてしまったことを。

琴子はきっと分かっていない。
眠る時、隣に琴子の重さや匂いを感じながら眠ることが、おれの心にどれほど安らぎを与えるかという事を。


が、一方でそんな思いは口に出さなければ伝わらない事をおれはとうに知っていた。
どれほど言葉を尽くしても(尽くした事は殆どないが)、いつまでもおれの気持ちはほんの数分の一程度しか琴子には伝わらないのだろう。

― さ、そろそろ“本当の所“を話すとするか。

ひとしきり琴子をからかったところで、その時おれは何時になく素直な気持ちを伝える気になっていた。
もしおれが此処で『ずっと傍にいてほしい』と素直な気持ちを伝えれば、琴子は次はどんな表情を見せてくれるのだろう―?


「琴子」
「入江くん」

その時、2人の声が重なった。

「あ・・・、何?入江くん」
「いや、琴子から言えよ」

おれ達は互いに譲り合った。そしてまず琴子が先に話すこととなった。
琴子は話すのを躊躇していたが、やがて少し俯くようにして口を開いた。

「ねぇ入江くん、もうこれかは無理しなくていいからね?」
「・・・え?」
「あの、抱っことかもう無理しなくていいよ?たとえ今回は冗談だったとしても、重かったのは事実でしょ?それに入江くんだってもういつぎっくり腰になるか分からないし」
「・・・お前なぁ・・・」

― 何を言い出すかと思えば・・・。

おれは溜息をつき頭に手をやった。なんだかすごい年寄り扱いされた気分だ・・・。

「それから、もう腕枕もしなくていいからね?」
「・・・は?」
「だって腕枕もすごく負担掛かるでしょ?痺れて仕事に影響があったらいけないし」
「・・・。」

珍しく冷静な判断で配慮の言葉を口にする琴子を目の前に、おれは先に話すのを譲った事を内心後悔する。このタイミングで本当の気持ちを話すのはいささか格好が悪くなってしまった。然し、「はい、そうですか」と簡単に受け入れるわけにもいかない。

「なんで急に?」
「ううん、急にって訳じゃないの。ただ、さっき入江くんが腕が動かないって言ったから改めてそう思ったというか・・・」
「だからそれは冗談だって。だいたい今までどれだけこうしてきた?それにおれがこんな事言うのも初めてじゃないだろ」
「うん、だそれはそうだけど・・・」
「なんだよ?正直に言えよ」

そう、琴子はきっと遠慮しているだけ。
ただおれが医師としてきちんと腕を揮えなくなるなる事を心配しているのだろう。
おれは高をくくって言葉を渋る琴子の返事を待つ。すると漸く琴子が口を開いた。

「あのね、入江くん。その・・・、実はあたし、腕枕って苦手だったの。・・・今まで言い出せなかったけど」
「・・・・・・。」

思いも寄らぬ琴子の告白はさながら青天の霹靂だった。おれはくらりと眩暈を覚えながらでくの坊のように琴子を見つめた。
一方琴子は堰を切ったようにどれほど腕枕が苦手だったかを語り始めた。


ほら、腕枕ってやっぱり枕よりも安定しないでしょ?
近ごろ首を動かすと毎回ボキボキ音が鳴るの。
最近ニューアンメルツヨコヨコが手放せないの。


何やら色々口走る琴子の言葉が、耳に右から左へと次々通過していく。おれは聞くに堪えなくなり声をあげた。

「もう分かった。お前がそんなに言うならもう腕枕はしない」
「そ、そう?分かってもらえたなららそれでいいの」

これでもうお互いに無理する事もないね、という琴子の言葉には答えず、おれはテーブルに置いたカップを手に取り再びコーヒーに口をつけた。冷めかけたインスタントコーヒーは酸味ばかりがやけに舌に絡んだ。



その後食事を済まし部屋を片付け、また少し辺りを散歩したおれ達は、その間ごく普段どおりに会話― 琴子が思い浮ぶままに話す色々な話題におれが相槌を打つ― をした。そして荷物をまとめると車を自宅に向かって走らせ、途中のインターで那須とはまるで関係のない土産を選んだ。

家での夕食時、お袋は別荘での様子をあれこれ質問してきた。おれは琴子が余計な事を言わぬよう話せる部分だけを掻い摘んで話し(お袋はおれと琴子がペアで試合する様子をビデオに撮りたがっていた)、早々食事を切り上げた。疲れているから余り食欲がないというと、お袋は「でしょうね」とやたらと嬉しそうにしていた。

寝室に入ると翌日は日勤、そしてなによりも実際旅疲れしていたおれ達は、明日の支度を済ませるとベッドに入った。
いつものように幾つかの会話を交わし、電気を消す。
数分後、早くも寝息をたてる琴子の枕はいつもと変わらぬ位置にあった。が、それは無性に遠く感じられる。おれは琴子に背を向けると無理矢理目を瞑った。

これが、おれ達の慌しかった2日間の休暇の全容だ。



*************************************************



パアアアアアン―――


乗り込んだ電車がカーブを曲がるための警笛を鳴らして減速体勢に入った。
この先の駅で停車すると、次の停車駅が自宅の最寄り駅だ。

車内は相変わらずそこそこに混んでいた。少し離れた場所では、おれと同い年かあるいは少し年下らしい女が2人、周囲の迷惑も省みず大きな声で話しこんでいる。

「― オヤジってさ、どうして臭いんだろうね~」

その気が無くても聞こえてくる言葉に、おれは心中で悪態を吐いていた。
加齢臭よりも、お前たちのつけすぎの香水の匂いや甲高い声のほうが余程はた迷惑だと。

が、そんな場合ではない。
西垣に言われるがまま休暇中での出来事を始から思い出したおれは、あらゆる事に気がついた。
そう、琴子は多少はおれの腕を心配したのもあるかもしれないが、やはりそれはおれへの小さな抵抗を試みて腕枕を拒否していたんだ。

思い返せば、休暇中のおれはとんだ色欲狂いに思われても仕方が無い。
その時の言動を振り返り、おれは今さらながら我に返る。順に挙げるとこうだ。


① まず、テニスに出掛ける前の情事。

これはその本心が2人きりで過ごしたいと琴子に言わせたいが故にした行為だったが、ついひらひらのエプロンをつけた琴子を前に、ついそれ一枚にさせてみたい衝動に駆られてしまった。
広めのソファとはいえ、ベッドに比べて狭いその場所でしたあらゆる行為は本当に琴子を良くさせてやれていたのだろうか?結果的にテニスはすることになったのだし、ただ疲れさせてしまっただけの気がする。

② テニス中の一件。

適当にプレイすればいいのに、負けず嫌いな性分が災いしてつい全力でプレイしてしまった。付き合わされた琴子は堪ったものじゃなかっただろう。なにせアイツはただおれにウェアを見せたかっただけなのだから。
そうだ、テニスウェア――。これに気が付かなかったのはまずかった。仮にもおれが琴子に似合うとイメージして描いたそのコスチュームを忘れていたなんて、琴子はさぞかしがっかりしたことだろう。

③ そして別荘に帰ってから。

この時は素直に自分の気持ちを言ったつもりだった。コトリンの姿を他の奴になど見せたくないと。2人で過ごしたかったと。
然し思い起こせば、おれは一つ目の言葉は口にしたが、2人きりで過ごしたかったとは言ってないのだ。寧ろ誤解されるような事を言っていたのではないか?

『コトリンとしたい―』

いや、これはあの時の正直な思いだったんだが・・・、琴子は純粋におれにウェアを見せて気付いて欲しかっただけであって、まさかおれがそこに発想を持っていくとは思ってもいなかっただろう。無理矢理以前の夜の出来事を持ち出して琴子をベッドに連れて行ったのは、琴子には不本意だったかもしれない。
ましてやこの日、おれは既にエプロンをつけた琴子を愉しんでいたわけで、考えてみれば一晩に2種類のコスプレをさせたことになる。琴子の目に、おれは変な嗜好があるように映ったのではないか―?

そしてそんな一日を過ごした翌日、何も悪びれもせず遅く起きてきて、冗談とはいえ『腕が動かない』だの、『もう少し痩せたら』だのと言われたら、さすがの琴子もおれに一矢報いたくなったのかもしれない。
ただ、これだけでは腑に落ちない部分がおれにはあった。


― でも、腕枕は琴子も好きなはず・・・。

そう、腕枕はおれも好きだが琴子だって好きなはずなんだ。
一緒にそうして横になったり眠ったりする時、琴子はいつもとても幸せそうな顔をする。
腕枕を拒否するという事は、琴子にとっても辛いことなのではないか――?


・・・その時、女たちの声が聞こえてきたんだ。


「・・・あのさ、レイコって彼氏の匂いが我慢できなかったことってない?」

肩までの髪を軽く巻いた女が尋ねた。レイコと呼ばれた女はクスクスと笑いながら吊革を反対の手に持ち替えた。

「な~に?ノゾミったらそんな事思ったことあるの~?」
「あ、今の人じゃないよ?元彼に、ちょっとね」

コンパに行ってたはずだが、この2人どうやらちゃっかり男がいるらしい。女たちは先程よりやや声を潜めた。

「ほら・・・、あの後に腕枕ってよくするじゃない?」
「ああ、うん。そうね」
「その時にね?なんかいや~な臭いがしたのよ」
「え、でも元彼って2つ年上だったでしょ?」
「でもしたのよー。なんかね?疲れが溜まると男の人ってそうなっちゃったりするみたい」

そう言うと女は「実はそれが何度か続いて、元彼とはもう駄目だって思ったの」と付け足した。
「確かに臭いは厄介だよね」 レイコは苦笑する。


ま、まさか・・・・・・。
おれは愕然とした。琴子が腕枕を拒否した理由は・・・、もしやそれが原因だったのか―!?

勿論自覚は無い。考えたくもない。
けれど可能性はある。なにせ俺だって男なのだし、この職業はハードワークだ。
そのうえあの日、おれはシャワーを浴びなかったのだ。あんなに動き回ったというのに!!しかも、その中で腕枕をした――。

― これは・・・、一層しっかり琴子と話をしなければならない。

若干血の気が引くのを感じながら、それでもおれは決意した。もしそうならば、然るべき処置をしなければならない。


電車が最寄り駅についた。
下車してホームを歩いていると、背後から声をかけられる。

「あの、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

先ほどの女たちだ。

「ええ、大丈夫です」

おれは返事をするとまだ何か言おうとする女たちを無視し、急ぎ足で改札に続く階段を下りた。


― まず、休日でのあれこれについてもう一度きちんと話する。
  そして・・・、臭いについてきちんと聞き出す。


外に出て見上げた空は満月だった。9月に見えるそれは中秋の名月。
琴子はまだ起きているだろうか。アイツのことだ、きっとうっとりとそれを眺めているに違いない。
おれは口をきつく結び自宅への道を急いだ。背中を月の光に照らされながら。








さぁ皆さん思ってらっしゃいますよね?『どうした!?入江くん!!』って!!(爆)
いつもの理知的な姿はどこへやら、冷静にどんどん可笑しな方向へ思考を巡らせっていっています(;´▽`A``
でも、これこそが吉キチさんのリクエストなのです。(そうですよね!?吉キチさん!!)
詳しい事は次回、最後まで書ききった後に~♪ああ、やっと出口が見えてきた・・・。


テーマ:二次創作:小説
ジャンル:小説・文学

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shinoさん、ありがとうございます。

こんばんは。はじめまして♪
(先日「Swinging Heart」に拍手コメントをくださったしのさんとは別の方でしょうかね?もし別の方でしたらいきなり失礼しました)
私もコミックは勿論、台湾版や韓国版のイタキスの入江くんが大好きです!
今書かせていただいている入江くんは、こうした原作や公式とは一味違う入江くんですが、琴子ちゃんが大好きが故に悩んでいる、琴子ちゃんが大好きで堪らないという事だけは一貫しています(‐^▽^‐)
こんなHな入江くんもいいと仰っていただけて良かったです。ありがとうございます♪
続き、頑張りますね。また遊びに来てやって下さいね(^^)

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藤夏さん、ありがとうございます。

藤夏さん、こんばんは。
本当~、連載時期もほぼ同時期でしたが、『パニックD』の入江くんもひたすら悶々と思い悩んでいますよね~~(^m^)
この妙なリンクが私、なんだか非常に楽しかったりします♪
大真面目だからこそ芽生える萌えに私も大いに賛成です!!
とにかく入江くん、頑張れ!!ですねww

いつもは冷静沈着な入江くんが、顔面蒼白で他人(しかもやや軽薄な若い女子)に心配される始末の今回のお話(苦笑)
こんな入江くんはリクエストがなければ本当に生まれなかったかもしれないです。
そう考えるとやはりリクエストしてくださった吉キチさんには感謝です♪

最後にお絵かき♪ありがとうございます~~。藤夏さんに褒めていただけるなんて嬉しいです~~(^^)/
藤夏さんのダッフィーちゃん、見てみたいです♪物体って~~、またまた~~(笑)
そうそう、話が逸れますが、先日某遊園地に出掛けた時に藤夏さんの元祖お好きなドナルドくんのパチものみたいなキャラを発見し思わず写メしちゃいました。藤夏さんに送り付けたい~~と思ってたりしました(^m^)

続き、お言葉に甘えてじっくり取り組みたいと思います。いつもお気遣いありがとうございます!


あけみさん、ありがとうございます。

あけみさん、こんばんは。いえいえいえ、とんでもないです!!才能なんてまるで無いですよ!!

でも褒めて頂けるって単純に嬉しいです~~(^^)「
これなら入江くんも・・・」と思っていただけてよかった★ありがとうございます♪

水玉さん、ありがとうございます。

水玉さん、こんばんは。毎回楽しみにしてくださってありがとうございます!
さていきなりで恐縮ですが、今回の話にこっそりと書いた「ニューアンメルツヨコヨコ」に反応してくださったのが水玉さんだったことが、めちゃくちゃ嬉しいです! 
というのも実は私、つい最近水玉さんのブログの「日々の出来事」を読ませていただいてたので、ニューアンメルツヨコヨコが水玉さんの愛用品だという事を存じておりました♪たしかGW中に池袋に買い求めに行こうとされたんですよね?(笑)お母様とのやりとりについついプッと吹きだしておりました。

バンテリン・・・。たしかにこちらの方がよく効くような気はしますね。
だってパッケージから本気度が違いますもん!まるで理科の準備室の人形を思い起こさせるあの怖い絵・・・、今もあのパッケージなんでしょうかね?というか、私の脳内イメージが加速しているだけですかね?あれあれ、なんだかどんどんよく分からないレスに・・・。(と、水玉さんにはしょっちゅう言っている気がします)

お絵かき褒めてくださってありがとうございます!
娘と一緒に・・・、とはいっても、娘は娘で違う好きなものを書いていました(笑)これって一緒に遊んでいると言えるのか!?
えへへ、ゆる~い仲の親子なんです(笑)

吉キチさん、ありがとうございます。

吉キチさん、こんばんは。2度に渡ってコメントしに来てくださってありがとうございます~♪
まず回を追うごとにリク内容が色濃く出ていると思っていただけた事にほっとしています。
でもまさか、こんな下らない理由で思い悩む入江くんが出来上がってくるとは吉キチさん、思っていらっしゃらなかったのでは?(;^_^A
それでもいつも心優しいコメントを下さり、本当に感謝しています。

さて、まだまだお口にチャックというわけでなかなか上手にレスができないのですが、こんな悩みを持つ入江くんもたまにはよし、と仰って頂けてよかったです♪
しかし本当に・・・、吉キチさんのリクの内容をもう予想出来ていらっしゃる方ってどれくらい居られるんでしょうね~?
とにかくあと1話でダダダっと最後のリクまでお応えしたいと思います★
休息どころかハードなH三昧の色欲狂いの入江くんの反省タイム、どうぞお付き合いくださいね(o^-')b


chan-BBさん、ありがとうございます。

chan-BBさん、こんばんは。あ~毎回このお話を楽しんで頂けてほんとすごく嬉しいです~(^^)
そうそう、入江くんの回想シーンは敢えてこんなバカ丁寧な文章にしていたりします。そうすればこんなに下らない事で悩んでいる入江くんとの対比が出てくれるのでは、と(笑)入江くんの憐れ感が伝わっていて「よし!」って気分です。

琴子ちゃんについて論説文を書く入江くん!!
もうもう、いいですね~それ!!ほんとどれだけ琴子ちゃんが大好きで深く理解しようとしているんだかww
妄想爆裂、大歓迎です(≧▽≦)

今回chan-BBさんにお話を要約していただいて(笑)、私も内容を改めて復讐させてもらった感じなんですが、我ながらプルプルプル・・・。
コスプレさせすぎたと反省したり、やりすぎの疲れすぎでシャワー浴びずに寝て臭い・・・。ああ、こうして羅列するとなんて酷い話なんだろう(;´▽`A``
そのうえ「大丈夫ですか?」とな!?いやぁ、マジ可哀想な入江くんです・・・。

でも最終回ではもうひとふん張り入江くんを憐れな目に合わせたいですね~~。こうなるととことんソッチに陥れてやりたくなります(`∀´)
最後まで満腹感を感じていただけたらいいな~~♪

hirominさん、ありがとうございます。

hirominさん、こんばんは。そうですよ~~、入江くん、無駄に悩んでいますよ~~(笑)
しかしこんな憐れな雰囲気漂う入江くんに、hirominさんはとっても優しいなぁと思っちゃいました(^^)
そうですね。入江くんは理知的だからこそ自分の考えの範疇であれこれ考え分析してしまうのかもしれないですね~。(って、hirominさんの思いやりのある分析にすっかり便乗する調子のいい私)
こんな入江くんも新鮮だと受け取っていただけてホッとしています。

でも最後に突き放したように「結構勝手に一人でドツボにはまってたりするんじゃ~」というお言葉に爆笑!!hirominさん、天然Sだわっ!
最終話、楽しみに待っててくださると本当に嬉しいです。がんばりますねー!

まあちさん、ありがとうございます。

まあちさん、こんばんは。ああ~~、すっかり失笑してくださってありがとうございます(^▽^;)
そうですよね。入江くんに臭いなんてありえないですが、もしあったとしても琴子ちゃんならその海よりも深い愛の心で受け入れてくれるはずですよねぇ。
こんなおバカ話ですが、待ちきれないって仰っていただけると素直に嬉しいです。お絵かきについても改めてコメントしてくださってありがとうございます!そうですよね。琴子ちゃんにこんな風な格好でにっこり笑われたら入江くんだって堕ちますよねww ともあれあと一話、頑張りまーす。

紀子ママさま、ありがとうございます。

紀子ママさん、こんばんは♪もうもう、紀子ママさんがいつも「待っていたよ」って言ってくださるのが本当に励みになっています。いつもありがとうございます(≡^∇^≡)

そうそう、匂いではなく臭いなんです(笑)まさかこんな理由で入江くんが思い悩むのを書く日が来ようとは、私自身考えた事もありませんでしたよ、ええ。しかもその理由がまた・・・。先ほど拍手コメしてくださった「maybe left」にも後ほどレスさせて頂きますが、連続でお下品なネタが続いてしまいすみません(^▽^;)

そうですねぇ。高校生にもなると、男子の汗臭さは強烈だった覚えが・・・。その昔、薄着で体調の悪かった私に男友達が上着を貸してくれたのですが、その余りの臭いに余計に気分が悪くなった事があります(苦笑)
そうそう、まだ最終回書いていないからネタバレっちゃーネタバレなんですが、もちろん入江くんに加齢臭なんてありえませんよ!なんでこんな可笑しな思考にズレテいってるんでしょうね?入江くん( ´艸`)
是非ともここは最後までお付き合いくださいね~★


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密かに共通点を発見!

こんばんは!!
毎回楽しみにしております♪
絵、お上手~!!琴子ちゃん可愛い♪
お嬢さんと描かれたんですよね?いいな、ほのぼの親子って感じで(*^。^*)
こんな可愛い琴子ちゃんだったら、そりゃあ入江くんだって…ねえ(ウフフ)

しかしとうとう加齢臭まで入江くんの悩みは…。
二十代でそれはなかろうよ、入江くん(笑)
そしてニューアンメルツヨコヨコを愛用している琴子ちゃんを知り、密かに自分との共通点を見つけて喜んでおります。
でもね、琴子ちゃん。
もうちょっと肩こりが進むと…アンメルツじゃ効き目なくなるのよ?
そのうち、バンテリンとかになるのよ?

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    こんばんは
 リクエスト通りに、そのものズバリですよねぇ。ぴくもんサン ・・・ウゥンウゥン・・・
そうなんですよぉ・・・色々書きすぎるとリクエスト内容に触れてしまいますので・・・マダマダお口チャックです。ウッシィシィ・・・

 他の皆様に判りづらいリクエストで申し訳ないですが・・・リクエストそのものズバリが回を追うごとに色濃く出ていてニンマリしています。
   受けて下さった ぴくもんサン感謝です。
      ありがとうございました。吉キチ 

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ぴくもん

Author:ぴくもん
ご訪問頂きありがとうございます。
こちらは漫画好きの管理人・ぴくもんの創作ブログです。
各ジャンルの原作者様、著作権者様・出版その他関係者様等とは一切関係ございません。
原作のイメージを大切にされる方や二次創作を理解されない方、不快に思われる方は、此処でお引き返し下さい。
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