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::goodbye halcyon days. 1/2
イタKiss 納涼祭り2011第4弾です。

summer2011.jpg

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





足捌きの悪い浴衣で何とか階段を駆け上り、電車に乗りこむと額には少し汗が滲んでいた。


「ふーっ 何とかセーフだね!」

肩でしていた息を整えながら入江くんを見上げる。間に合った安堵感であたしの顔は自然と綻ぶ。


「お前が最初からもう少し早く歩いてくれたら、こんなに慌てずに済んだんだけどな」

一方同じく少し荒い呼吸をしている入江くんの顔は不機嫌そのものだった。


「しょうがないでしょ。浴衣だと洋服みたいには歩けないんだもん」

「というより、そもそも何で肝試し如きに浴衣着てくるんだって話なんだよ」

「だって、せっかくこの夏初めての夏らしい行事なんだもん」

唇を尖らせてそう言うと、入江くんは「ガキじゃあるまいし」と呆れたような顔をした。


「くそっ 汗ひかねー」

走っている間繋いでくれていた手もあっさりと離してしまう。
もう少しそのままでいてくれてもいいのに、とあたしは少し残念な気持ちになる。



「・・・ねぇ、やっぱりこんなの行きたくなかった?」

尋ねると入江くんはチラリとあたしを横目に見下ろした。そして少し肩を竦める。

「ま、行きたい、って言ったら嘘になるよな。何で今更こんな事しなきゃなんないんだって思うよ」

これからあたし達は、須藤さんが企画したテニス部員全員強制参加の肝試し大会に行くところだった。






その知らせをうけたのは一週間前、あたしと入江くんがパンダイのビルから出た時だった。





『お~い、入江~~!!』


呼びかけながら手を振る須藤さんは、板についているというより寧ろ疲れた感のあるスーツ姿だった。
ちょうどこの界隈での就職活動を終えたところだったのだと言っていたけれど、実はかれこれ1時間以上そこで待ち伏せしていたらしい。


『どうだ?社長代理の方は』

『ええ、相変わらず厳しいですよ。須藤さんの就職戦線とどっこいどっこいってところですかね』

『おお~~、それはかなりキツそうだな~~』

入江くんの毒舌にちっとも屈しない所はもはや須藤さんの長所だと思う(あたしも人の事言えないけれど)。


『で、相原は役に立ってるのか?部活さぼってバイトとはお前もいい根性してるなー』

『それを言うなら松本さんもじゃないですか』

あたしはムッとして須藤さんを睨み付けた。まったく、あたしと同じ事しても須藤さんは松本さんに対しては絶対的に甘い態度をとるから腹が立つ。
案の定あたしは、『お前と松本を同等と思うな!』と一喝されてしまった。


『・・・ところで松本は今日は一緒じゃないのか?』

と、須藤さんが不意にキョロキョロと辺りを見回しだした。その動きはやたらとそわそわしていて完全に挙動不審だ。

『今日は用事があるとかで午後休だったんです』

答えながら、あたしはここだけは少し須藤さんに同情する。ここで待ち伏せしていたのはきっと松本さん目当てだったのだろうから。
けれど須藤さんは意外にもホッとした顔をした。

『そうか~。松本は相原と違ってスケジュールが沢山詰っていそうだからな~~』

などと変に納得したようにウンウンと頷く。なんだんだろう。すごく怪しい。


『なんか松本が居なくて良かったって感じですね』

『・・・えっ・・・』

入江くんの声に須藤さんの肩がピクリと動いた。

『で、今日は一体どんな頼みですか?一応聞きますよ』

畳み掛けるような入江くんの言葉に、あたしは訳が分からずポカンと入江くんと須藤さんの顔を交互に見比べるばかり。


『いや~~、さすが入江はお見通しだな』

と、須藤さんはどこか開き直ったような笑みを浮かべた。
けれど次の瞬間道端に勢いよく跪くと

『頼む入江っ!おれからの一生のお願いだ!!』

ともう何度目かの“一生のお願い”のために頭を下げたのだった――。






「須藤さんにあれだけ頼まれたら断れないよね」


須藤さんの頼みとは、今度急遽企画したテニス部での肝試し大会に入江くんも参加してほしいというものだった。
この夏休み、松本さんがパンダイでアルバイトを始めたばっかりに、須藤さんは松本さんとの接点がすっかり無くなってしまっていたのだ。

『松本は入江が参加しないときっと来ないだろうから』

全く相手にしてもらえなえないどころか、松本さんの心の在り処を分かっていても諦めたりへこたれたりしない須藤さんに、入江くんは渋々ながらも肝試しの参加を承諾したのだった。


「そういう事」

淡々と答える入江くんの目は、車窓から見える夕日の赤が沢山入ってきていてとても綺麗。
けれどその表情はとても言葉ではいい表せないもので、入江くんの本心が何処にあるのかあたしにはよく分からなくなる。



「・・・でもね、あたしは嬉しいよ。入江くんと一緒に大学の皆と会えること。こうした時間を過ごせる事」

精一杯の気持ちを込めた言葉に、入江くんはただ「そう」と答えるだけだった。
ねぇ入江くん、あたしの思いはあなたにきちんと届いている―?


あのね、入江くん。
あたし、上手く言えないんだけど、入江くんが今夜一大学生に戻ってくれる事が本当に嬉しいんだよ。
たとえそれが不本意な行事だとしても。
ほんのひと時の事だとしても。

おじさんが倒れてからというもの、入江くんは毎日仕事漬けで。
日中は会社で分刻みのスケジュールをこなし、遅く帰宅した後も部屋で持ち帰った案件の処理をしている。

お医者さんになりたいという、入江くんが漸く見つけた将来の夢は道筋の見えない暗闇と化していた。
大学に休学届けを出すと決めた日の入江くんの寂しそうな背中は、今でもあのリビングの暗がりと共にあたしの目に焼きついている。

だから今夜だけは、その肩に背負った大きな重圧を少し忘れてほしい――。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







集合場所であるY公園には既に他のテニス部員が集まっていた。


「入江くん、こっちこっち!」

「あ、直樹先輩~~!お久しぶりですっ!」

目ざとく入江くんの姿を見つけた松本さんと綾子ちゃんが手を振ってくる。


「今日は入江くんが来てくれるっていうから、楽しみにしていたのよ」

「誰が直樹先輩と肝試しのペアになれるのか、そわそわしてたんです~~」

二人が口々に入江くんに話しかけるものだから、あたしはすっかあり話の輪の中に入りそびれてしまった。



「ねぇ、肝試しのペアでどうやって決めるのかな?」

漸く口を挟むことが出来たのは、入江くんが他の部員に呼ばれてその輪を抜けた時だった。

「あ、相原さん、いたの」

松本さんがわざとらしく眉を少しあげてこちらを見てくるからあたしもキッと松本さんを睨み返した。
まったく、本当にいつも嫌味なんだから!


「厳正なくじ引きだって須藤先輩が言ってましたよ。ま、どうせいわくつきなんでしょうけどねー」

綾子ちゃんがクスリと笑みを浮かべ松本さんを見遣る。

「大変ね~。しつこい人に思われちゃって」

あたしもさっきのお返しに目を細めて茶々を入れてやると、松本さんの顔は瞬く間に真っ赤になった。


「・・・須藤さん、小細工したら許さないんだから・・・!」

そう言った松本さんは、きっと目を吊り上げると素早く辺りを見回した。そして須藤さんを見つけるとずんずんとそちらへと歩いていった。




「くじかぁ・・・。難しいよね」


残されたあたしはぼんやりと周りを見渡し溜息を吐いた。
全員強制参加だけあって、決して部員数の多いクラブではないのに其処には男女合せて40人ほどの人数が集まっている。入江くんとペアで回れる確立はかなり低かった。


「そうですねー。いっそのこと部内の実力ランキング順にすればいいのに」

ランキングでいうと、綾子ちゃんと入江くんが1番なのは言うまでもなかった。


「綾子ちゃん、そんな事言ったら武人くんに言いつけてやるんだから!」

「別に。ご自由にどうぞ」

脅してみたものの、綾子ちゃんはちっとも動じることなくひらひらと手を振った。
その姿はなんだかベテランのカップルの余裕さえ感じられ、ちっともからかい甲斐がない。


― とにかく入江くんと一緒のペアになれますように。

仕方なくあたしはとにかくそう神様に祈った。すると程なく須藤さんから集合の号令がかかる。
そして松本さんの厳重な監視の下、肝試しのペアを決めるくじ引きが始められたのだった。






見事入江くんのペアを勝ち取ったのは、こういう勝負運がやたらと強い綾子ちゃんだった。



「やった~~!やっぱりあたしと直樹先輩って縁があるのかもっ♪」

綾子ちゃんはにっこり笑うと「直樹先輩、よろしくお願いしますね!」となれなれしく入江くんの腕をとる。


「お、おれと松本も何か縁があるのかもしれないなぁ・・・」

鼻の下を伸ばす須藤さんが本当に運で松本さんのペアを勝ち取ったのかは定かでない。
けれど、監視をしていただけに松本さんはフンと鼻を鳴らしつつもそれ以上文句は言わなかった。



一方、あたしはというと・・・。


「よ、よろしくお願いします。相原先輩」

控えめに挨拶をしてきたのは、失礼だけどよく覚えていない1回生の男の子だった。


「ああ、よろしくね。田中くん」

うろ覚えの名前で応じると、

「田村です・・・」と悲しそうに訂正された。



「あっ ごめんなさい。あたし、もの覚え悪くて」

「いえ、違います。僕がイマイチ存在感無いんで・・・」

慌てて謝ったあたしに、田中・・・ではなく田村くんは少し泣きそうな顔をして微笑む。
チラリと入江くんを見ると、口パクで「ばぁか」と言われてしまった。


「えーっと、とにかく頑張ろうね!タイムの早かったペアには景品もあるみたいだし」

一応先輩として、あたしは仕切りなおしてそう言うと須藤さんが配ってくれた地図の順路を確認する。
肝試しはY公園内の林の中に事前に設置した各ポイントのスタンプを押しながらゴールを目指すようになっていて、行く先々にはお化け要員の部員達が待ち構えているらしい。

「はい。僕、頑張ります」

田辺・・・じゃなかった田村くんはさっきより少し人懐っこい笑顔を見せてくれた。



「よーし、それじゃあくじで出た番号順に5分おきに出発だ!」

いよいよ須藤さんの号令がかかる。

そうして13番目に、あたしと田辺くんはスタートを切ったのだった。








久しぶりに書こうとすると、下手な文章がますます下手になり表に出すのがお恥ずかしい限りです。
話の展開、ちゃんと分かるように書けていますでしょうか・・・(>_<)

それではひとぽんさんから頂いたリク内容について触れさせていただきます。

リク頂いたお題はズバリ、『肝だめし』です。
それを、おそらくは琴子ちゃんの事を好きだという事を入江くんがある程度自覚していた大学3回生の設定で書いてほしいとのご要望でした♪

ひとぽんさんも仰っていたのですが、この頃はイリちゃんパパが入院中で、入江くんは社長代理をしている時でしたので、なかなかそんな設定は難しいとかなぁ、と始めは思ったんです。
ですがあくまでも創作ですし・・・、この頃は強引な須藤さんがいるから何とか進めさせて頂く事にしました。
この時期ならではの二人が書けるよう、後半も頑張りたいと思っています。

余談ですが、今回は珍しくタイトルが始めに決まったんです。
が、やけにタイトルだけがカッコよくてこれまたお恥ずかしい限りです・・・。
(某マンガから拝借しました^^;)


9巻スキマ  コメント(9)  △ page top


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::コメントありがとうございました
まあち様

ああ、そうですきっと。後編先程UPしましたが、久しぶりに不穏な感じのする終わり方となりました。
ハッピーなのが基本は好きなんですが、この時期なくしてイタキスはありえないんですよね。つまりそれは創作をする限りは避けられないという事でもあって・・・。
まあちさんにも琴子ちゃんの優しい気持ちを感じて頂けてホッとしました。続きもまた是非お付き合いくださいね(*^_~*)
編集 △ page top
::コメントありがとうございました
紀子ママ様

ありがとうございます~!気が付けば2週間お休みしておりました(^^;)
そうなんですよ。今回は久しぶりにちょっと切ない時期に挑戦なんです。
2人が辛いと書いているこちらも辛くなるので中々書けなかったりするんですよね。だから9巻のスキマは初めてだったりしました。

紀子ママさんにも、この時期だからこそ大学生らしい時間を過ごしてほしいという琴子ちゃんの優しい気持ちを拾って頂けて嬉しいです!入江くんもこんな琴子ちゃんが傍にいたからこそ、夢を諦めて会社を立て直そうと決意し、果ては政略結婚も厭わないと一時ながらも思ったのではと思います。
須藤さんはもう・・・ほんと原作ではがっかりな態度ばかりでしたよね(^^;)実は私も原作を見る限りでは、アニメのような結末があったとはちょっと想像し難いんです(苦笑)
後編もUPしましたのでまたお付き合いくださいね♪
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::コメントありがとうございました
narack様

お忙しい中コメントありがとうございます(*^_~*)
琴子ちゃんの思いやりにたっぷりの愛情を見出してくださり嬉しいです♪
前半、入江くんはなんとも素っ気無い感じですが・・・、隠れたその思いを後編に書いて見ましたのでまたお時間のある時に読んで頂けるといいなぁ、と思います♪
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::コメントありがとうございました
ひとぽん様

ひとぽんさん、あらためてこの度は絶妙な設定のリクを下さりありがとうございました!
またこの前編の他、先程は後編にも早々に有り難いコメントを頂けてホッと胸を撫で下ろしています(*^_~*)
(後編はまた改めてレスさせていただきますね)

イタキスは本当に人気のある作品ですから、沢山の方が創作されていて、書く人の数だけのイリコトの姿があると思いますし、私も一読者としてそれを楽しんでいます。そして私の創作は客観的に、数ある創作の中では特に特徴があるタイプでは無い事も分かっています。
ただその中でも、自分なりのポリシーを持ちながら書いていますので、それを好きだと仰っていただけると本当に嬉しいです!ひとぽんさんのイメージに近いイリコトを書けているんですね。そのお言葉を頂けるだけで自作を書く励みになります。ありがとうございます!
編集 △ page top
::コメントありがとうございました
chan-BB様

楽しみにしていて下さってありがとうございます♪
もうほんと、気が付けば2週間更新無しって・・・!この間私は何をしていたんだろうと思います(^^;)

この時期の肝だめしというのが何とも独特なんですよね。
入江くんももう大分自分の気持ちに気が付いてきていた頃でしょうし、でも琴子ちゃんは相変わらずちっともそれに気付いていなくて・・・。リク主のひとぽんさん、本当に鋭い所を指定してくださったものです♪

創作は実は前半、出だしからいきなりイマイチ気に入らなくて・・・(>_<)
書いていた内の3,000字位をバッサリ切ってUPしちゃいました(苦笑)
ポイントは私的にもchan-BBさんが拾って下さったところだったので、もう余計なものはそぎ落としちゃえ、みたいな感じでした。こういう琴子ちゃんだからこそ入江くんが堕ちたというのは、私も全く同感であります(*^_^*)
後編は先程UPしましたが、田村くんはいい奴だったんですよ~。ウフフ(^m^)
因みに田辺は本気で私が間違えて入力しました(^^;)
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