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goodbye halcyon days. 2/2


イタKiss 納涼祭り2011第4弾後編です。


summer2011.jpg

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「うわ・・・っ!」

「キャーーー!!」

肝試しが始まってから4度目のお化け(に扮したテニス部員)が草むらの中から現れた時、驚き叫んだあたしは田・・・村くんの腕に咄嗟にしがみつくとギュッと目を瞑った。

「もう、やだやだやだ・・・!」

「先輩、大丈夫ですから落ち着いて」

田村君が宥めてくれるのも虚しく、あたしはブンブンと首を振るとその場に足を取られたように立ち竦んだ。だってもう、本当に恐すぎる!!

ポイント毎にいるお化け要員は予想以上に気合が入っていた。
不気味な声を出して脅かしてきたり、脅かした後もその場で直ぐにまた姿を隠す事もあれば今のように追いかけてきたりと様々なバリエーションがある。
見た目も多分ロフトなんかで用意したのだろう、マスクや衣装を身に付けた姿はおどろおどろしい動きと共にこちらの恐怖心をやたらと煽ってきて、お陰でお化けが苦手なあたしはさっきからバカみたいに悲鳴を上げては泣きべそをかく始末。

ただ有り難い誤算だったのは、このペアになった田村くんだ。
彼は毎度動転するあたしの手をとると根気よく宥めながら引っ張って走ってくれた。背後からガサガサと気配がしたような気がして思わず飛び上がってしまった時も、「ただの風の音です」と笑いかけてくれる。
そのきちんとリードしてくれる姿は始めに感じた頼りなさそうなイメージとは違って、2つ年下ながらも頼れる雰囲気が十分にあって・・・。なので先輩としてしっかりしなくてはと気負っていたあたしの緊張の糸は次第に解れ、いつもの自分らしく振舞うことが出来た。



「次はえっと・・・、こっちかな」

「あ、待って先輩。そっちじゃないです」

自信満々に分岐点を右に行こうとするあたしを田村くんが引き止めてくる。

「ほら、今いるのってここなんです。だから、こっち」

「あ、そ、そうか・・・。ごめんね、あたし、鳥目だから」

「プッ 先輩、それ違いますよ。ここで問題なのは鳥目云々よりも先輩が地図を読めない方向音痴って事だけです」

田村くんはそう言うと、もうこれ以上耐えられないというようにクスクスと肩を震わせた。
でもそれは嫌味な感じはまるでなくて、あたしは

「もう、言ったわねー?」

と睨みながらもつい一緒に笑ってしまう。


「あ、ポイント発見。明かりもあるしちょっとここで休憩しましょ」

少し歩いた所で見つけたチェックポイントで、田村くんは懐中電灯を地面に置くと鞄からペットボトルを取り出し差し出してきた。


「喉乾いてないですか?これ、良かったら」

「あ、ありがとう。実はカラカラだったの」

そういえば電車に乗るときから今日は走ってばっかりだったあたしは、喜んでそれを受け取った。


「田村くんって気が利くね」

そう言うと田村君はありがとうございます、とにっこりと笑った。そしてあたしがそれを飲んでいる間に新しいスタンプを押し、地図を懐中電灯で照らして順路を確かめ直し始めた。


「よし、これであと半分ですね」

「うん。それにしてもまったく、須藤さんったら気合入りすぎなのよ」

お化け要員のクオリティといい順路のややこしさといい、あたしは須藤さんが就職活動そっちのけでこんな計画ばかり立てていたような気がしてならない。

「そりゃ、松本先輩に『助けて~』って頼ってもらう為ですからね。僕はたまたまジャンケン勝ったから免れましたけど、お化け役になった連中は皆須藤先輩に微に入り細に入り指導されてましたから」

田村くんはそう言うとお化け役になった1回生の男の子達がどれほど須藤さんに演技指導されたかという事をこっそり明かしてくれた。

「でも幾らそうして頑張ったって、あの松本先輩が須藤先輩にしがみつく姿なんてちょっと僕には想像出来ないですけどね」

「確かに」

田村くんの推測にあたしは苦笑しつつ同意した。


「ところで相原先輩はものすごく恐がりなんですね」

「あはは・・・。恐い話とか、聞きたがって後で夜にトイレ行くの恐くなるタイプかも」

「分かるな。いかにも先輩らしい」

田村くんはそう言うと、今度は自分用のペットボトルを取り出しゴクゴクと飲み干した。そしてクシャッとそれを潰すとあたしの顔を窺うように覗き込む。

「でも本当に頼りたかったのは入江先輩なんでしょ?」

「ん・・・、それは、まぁ・・・」

口籠ると「何を今更照れてるんですか」とニカッと笑われた。


「でも多分それは入江先輩も同じだったんじゃ・・・」

「え?」

首を傾げると田村くんは少し目を見開いた。そしてを暫くこちらを見つめていたかと思うと、困ったように小さく首を振った。

「・・・何もないです。憶測でものは言えないや」

田村くんの言葉にあたしはよく分からないながらも曖昧に頷いた。



「・・・久しぶりに会いましたけど入江先輩、前よりさらに格好良くなってた気がしました。やっぱ社会人として働いてるいるからかなぁ。大人の風格というか」

「うん、そうだね・・・」

答えながら改めて痛感する。やはりこの数ヶ月で、入江くんはより大人っぽくなっていたんだ。

たとえスーツ姿でなくても、あたし達より前に出発した入江くんの後ろ姿はきりっとしていてなんだか目が離せなかった。
今のあたしにとって、入江くんの背中が見えなくなる事はそれだけで何処か不安な気持ちになってしまうのだ。
今頃入江くんは何処まで進んだんだろう。ペアの相手は綾子ちゃんだったから変な心配はしていないけれど・・・、でもふと目を離すと、入江くんは遠くに行ってしまって、あたしの知らない入江くんになってしまう気がする――。


「早くゴール目指しましょう。入江先輩たちは僕らより随分前だったからきっともうすぐゴールしますよ」

ハッとして振り返ると、田村くんが優しい目で笑ってくれていた。

「・・・うん。ありがとう」

あたしは頷き、促されるまま飲み残したペットボトルを手渡した。

「でもその前に、あそこのトイレ行ってきてもいいですか?一気飲みしちゃったんでちょっと行きたくなって」

「フフッ 勿論いいよ。あたしはここで待ってるね。ちょうど明かりもあるから、懐中電灯持って行っていいよ」

「はい、直ぐに戻ってくるんで動かないで下さいよ」

田村くんはそう言うと足早に近くに設置されたお手洗いへと向かった。その間あたしは樹に凭れかかりぼんやりと物思いに耽った。
明日からはまた会社だ。入江くんについて、あたしもパンダイへバイトへ行く。
でもあたしに出来る事は何もなくって、争奪戦で社長室にお茶を届けた時に見かける入江くんはいつも厳しい顔をしている。(あたしが粗相をするかハラハラしている所為では・・・ないと思いたい)

「はぁ~~、切ないよね・・・」

思わずごちて溜息を吐いた時――、それは突然現れた。


「おぉぁぁぁあ!!!」

不意に現れた落武者の姿に、あたしは声を出すのも忘れ立ち竦んだ。

― 大丈夫よ琴子、これはただのテニス部員。

頭の片隅では、そんな冷静な自分の声も微かに聞こえた気がする。
けれど恐がりのあたしは・・・、本能的にその姿に背を向けると一目散に駆け出した。

「待って、先輩!そっちは違う道・・・っ」
そんな落武者の声が後ろからしたのも気が付かずに、真っ暗な林の中を脇目も降らず走り続けた。





― どうしよう・・・。

少し落ち着きを取り戻した時、頭に浮かんだのはそれのみだった。
見渡すとそこには明かり一つなかった。

「田村くーーん、お化けさ~~ん」

呼んでも何も返事が無かった時、あたしは完全に迷子になってしまったことを悟った。
折角田村くんが動かないように忠告してくれたのに、走り出してしまった結果がこのザマだ。


「ひ~~ん・・・。こんな所で何してるのよ、あたし・・・」

ポロポロと零れる涙を浴衣の袂で拭いながら、あたしは自分の馬鹿さ加減をひたすら呪った。
ふと思い出したのは去年の夏、山中で裕樹くんと遭難しかけた事。

でもあの時は裕樹くんが居るだけでとても心強かった。そしてどこか入江くんが助けてくれる事を信じて疑わなかったところがあった。
つまりそれはあたしがいつも誰かに頼りきっているという事で・・・、どうしてあたしはいつもこんななんだろう。

「ひっく・・・こ、こういう時は下手に動かないのが一番だって裕樹くん・・・言ってたよね。でも・・・、これって東京のど真ん中でも有効なのかな・・・?」

しゃくり上げながらあたしは、それでも力なく蹲まるより他なかった。そっと足を投げ出すと親指と人差し指の間は鼻緒が擦れて血が滲んでいた。ここまで来るにも何度か転んだので膝からも血が出てしまっている。痛くてこれ以上動ける気がしない。
どうしよう。
本当にどうしたらいいんだろう――。



ヒュ~~~~

「・・・ひっ!」

どれ位の時間がたったのだろう。無我夢中で走ったあたしは、蹲ると少しの間その姿勢のまま眠ってしまったようだった。耳に聞こえてきたのは多分風の音だ。だけど今の精神状態で、あたしはその音にまるでこの世のものとは思えない不気味さを覚えた。
そしてこんなタイミングで思い出すのは碌な事ではないのだ。今脳裏を掠めるのは、入江くんが少し前に聴いていたあの曲だった。



『なんか恐いな・・・』

入江家の、オーディオルームに居る入江くんにコーヒーを届けに入ったあたしは、その部屋に充満する焦燥感溢れるピアノの旋律に思わずそんな事を言った。

『へぇ、お前でもまともな感想持つもんなんだな』

受け取ったコーヒーに口を付けながら、面白そうに少し口端をあげる入江くんにムッとしながらも、あたしは『どういう意味?』と尋ねたものだ。

『この曲は“魔王”といって、ゲーテの詩に触発された若かりしシューベルトが、短時間のうちに歌曲と伴走をつけたものなんだよ』

そういうと入江くんは掻い摘んでその曲の内容を話してくれた。するとその話は、要は病で瀕死の状態にある息子をお医者様に診てもらうため、父が森の中を馬で駆け抜ける最中の物語なのだった。
息子は道すがら幻覚・幻聴を繰り返す。葉のざわめきを魔王の声と思い、森の木々が作る影を魔王の娘だと見間違う。そして父が必死で息子を現実世界に引き戻そうとするも甲斐なく、最期には息子は魂を奪われたように息を引き取ってしまうのだという―。

『でもいかにも非現実的な話だし、なにせこんなやたらと印象的過ぎる曲過ぎて、聴くと笑っちまう奴が多いんだぜ。たしか中学の時、音楽の授業でも聞かされたけどクラスの連中は半数以上笑ってたんじゃないかな』

『なんでそんな曲を入江くんは聴いていたの?』

『さぁ・・・。何となく目に付いたから、かな』

入江くんはそう言うと立ち上がってプレイヤーを止め、あたしの頭をコツンと叩いてその部屋から出て行った。


結局、どうして入江くんがこんな音楽を聴いてたのか今もあたしは分からない。
ただ今妙に納得してしまうのは、人は不安な時、木々のさざめきさえも恐ろしいものに感じて恐れてしまうという事実。

ザワザワザワ
ピュー ピュー ピュー

聞こえる音の全てが何か不気味な音に聞こえて仕方なくなりあたしは、手で耳を塞ぐと声の限りその名前を呼んだ。


「・・・入江くん・・・、入江くーん、入江くーーーん・・・!!!」


一体何度呼び、繰り返しただろう。とうとう枯れてしまった声を漏らし、あたしはしゃくり上げ嗚咽した。
もう、どうしてあたしはこうする事しか出来ないんだろう?
いつでも入江くんを頼り求めてしまんだろう?
興奮状態でもはや朦朧としてきた意識の中、「琴子」と呼ぶ声を聞いた気がしたのは、あたしの強すぎる願望が聞かせた幻聴なのかもしれない――。



「― 琴子!琴子!!」

ハッと目を開けると、あたしの身は力強い温かさに包まれていた。

「・・・い、入江くん・・・・?」

「この馬鹿・・・!なに東京のど真ん中で遭難してるんだ!!?」

目の前には、眉を吊り上げてあたしを叱咤する入江くんの姿があった。

「ふぃ~~~ん、入江くんだ~~~」

「おい、琴子っ!」

いきなりあたしが抱きついたものだから、入江くんは体勢を崩してしまって地面に尻餅をついた。でもあたしは構わず入江くんの首に縋りつくとひたすらに泣き続けた。

「恐かったの・・・。あたし、本当にいつも騒ぎを起こしちゃって・・・、その度に入江くんに助けてもらって・・・。でも今回はもうダメだと思った・・・」

「何言ってんだ。あれだけでけー声で叫んでたら分かる。でも他の連中は違う方向探してるから早く戻るぞ」

「うん、うん。本当にごめんなさい・・・」

「ったく、こんなグチャグチャの顔になるまで泣きじゃくりやがって・・・」

今、あたしは余程情けない顔をしているのだろう。入江くんは溜息を一つ零すと珍しくあたしの頭をひたすらに撫でてくれた。



「ほら、立ち上がれるか」

「ん・・・」

促され、あたしは頷くと立ち上がろうと足に力を入れようとした。

「っ・・・!」

「あぁ、これじゃ無理だな」

手にしていた懐中電灯をあたしの足元に照らした入江くんが呟いた。
暗くて気が付かなかったけれど、あたしの怪我は擦り傷だけではなかったらしい。転んだ時に足も挫いたらしく、足首は倍に膨れ上がっていた。

「浴衣じゃおんぶも出来やしねぇな」

「うぅ、ごめんなさい。あの、ゆっくり歩けば何とかなると思うから・・・」

「馬鹿か、お前は。立ち上がる事も出来ないような状態でよくそんな事言えるな」

眉間に皺を寄せると入江くんは、あたしの手をとり自分の首に固定させた。

「な、なに、無理だよそんなの」

「お前が重いことなんてとっくに知ってるよ。だからもう大人しく黙っとけ。で、なんとかしてこれ前方に翳して」

言うが早いか、入江くんはあたしを横抱きにしてすっくと立ち上がった。

「わわっ ひゃあっ・・・」

バランスが崩れそうになるため、咄嗟に抱きついた。樹の匂いと共に入江くんの匂いがする。入江くんの首の脈打つ音が聞こえる。その何もかもが温かくてホッとして、あたしはそのままギュッと入江くんにしがみついた。

「おい、とにかく早く懐中電灯なんとかしろ」

「・・・あ、は、はいっ///」

言われるまま真直ぐ前を照らすと、表情一つ変えず入江くんは少しあたしを抱き直し、やがてゆっくりと歩き始めたのだった――。




皆の元に戻ったあたしは、何人かの男の子達に一斉に頭を下げられた。

「脅かしてすみませんでした!!」

「ううん、だってあなた達は自分の役割を果たそうとしただけだし」

お化け役の男の子達にあたしは苦笑した。寧ろあんなに驚いてごめんなさいとこちらが謝りたい位だった。

「まったく、しょうがない奴だなお前は。肝試しのお化けにそこまでびびる奴が何処にいるんだ?」

一方、こんな時も叱責してくるのは須藤さんで、あたしは須藤さんを睨み返すと(それは須藤さんが無駄に驚かせる訓練させたからでしょ!)と毒づいた。

「で、松本さんにはちゃんと『恐い~』って擦り寄ってもらえたんですか?」

「ふんっ!松本がこんな子供じみた事で取り乱すわけがなかろう!」

須藤さんはそう言うとプリプリとその場を離れていった。やはりこの計画は失敗に終わったらしい。
そういえば松本姉妹は、あたしの無事を知ると、
「さすが相原さん」
「迷子の天才だわ」
と嫌味をチクリと言い、さっさと帰ってしまった。



「相原先輩、すみませんでした!僕、やっぱりトイレなんか我慢すればよかったです・・・!」

目の前で平謝りする田辺くんに、あたしは再び手を横に振った。

「ち、違うよっ!これはあたしが全面的に悪いよ。だって田辺くんはちゃんとあそこで待つよう言ってくれていたのに・・・」

「それはその通りだが琴子、お前は一つまた間違っている」

「え?」

「田辺じゃねーよ。田村だろ。いい加減後輩の名前くらいちゃんと覚えろよ。」

キョトンとするあたしを入江くんはキッと睨むとコツンと小突いた。

「あ・・・、あたしったらまた・・・!重ね重ねごめんなさい///」

「いいですよ、そんなの」

代わってペコペコ頭を下げるあたしに田村くんは苦笑いした。

「でも良かったです、入江先輩が見つけてくれて。僕達も方々探しましたが、どうにも見つけられなかった」

聞くと田村くんは、あたしが見当たらないと分かった時点で一目散にゴールへ向かって皆に捜索をお願いしてくれたらしい。特に真っ先に入江くんに知らせてくれたのだそうだ。


「ほんとごめんね・・・。それからありがとう。入江くんってこういう時必ず見つけてくれるの。天才だからかな?」

「いや、それは――」

エヘへと笑う私に、田村くんはそこで言葉を止めると入江くんをチラリと見た。そしてそのまま押し黙るとまた困ったような顔をして、

「とにかく良かったです」と笑った。

「多分、入江先輩の他に相原先輩を見つけられる人は居なかったと思います」

「うん、あたしもそう思う」

その間、入江くんは否定もしなかったけれど、表情も一切変えなかった。



その後、本当は居酒屋での飲み会がある予定だったけれど、足を挫いたあたしはこれ以上長居するわけもいかず、入江くんは呼んでくれたタクシーに乗ると入江くんと共に帰宅する事となった。

「入江先輩も相原先輩も、また部活にも顔を出して下さいね」

「うん。また近いうちに出るよ」

見送ってくれた田村くんにあたしはそう返事をしたけれど、入江くんは少し笑い返しただけだった。




タクシーに乗ってるとあたしは、疲れが出たのか直ぐに瞼が重くなった。

「ねぇ、今日は気分転換になった?」

それを我慢しながら入江くんに尋ねると、入江くんは「余計に疲れた」とぐったりしながら肩を叩いていた。

「でも、そうだな。相変わらずお前がスリルを提供してくれた事は確かかな。何せ一つ間違えれば東京のど真ん中で負傷・遭難者が発生するところだったんだし」

「うぅ、ごめんなさい。それから・・・、ありがとう」

「もう慣れてるって言ってるだろ」

入江くんはそう言うと「もう寝ろ。着いたらおこしてやるから」とあたしの肩を引き寄せ、肩に凭れかからせてくれた。あたしは素直にそれに甘えるとやがてスヤスヤと眠りに入っていった―。


そうして眠りにおちるその瞬間、入江くんがポツリと呟いた言葉があった事を後であたしは思い返すことになる。


「でも・・・、これからはいつでもおれがお前を護れる訳じゃないんだ。だからもう、無茶はするなよ」

「・・・ん、分かった・・・」

あたしは半分寝ぼけながら返事した。当然、入江くんの言葉の真意を考えることなどなかった。

数日後、あたしは入江くんが言った言葉の意味を正確に知ることになる。



― “お見合い、受けます”

社長室で入江くんが言い間違えた言葉に、あたしはいつまでも続くと心のどこかで信じて止まなかった穏やかな時間が終焉を迎えるのを知ることとなるのだった――。







ハッピー至上主義な所があるので、辛い終わり方をするお話は今まで数話しか書いたことがない私です。納涼祭り中にまさかこの辺りのお話を書くことになるとは思っていませんでした。

まず強調したいのは、ひとぽんさんのリクにはこういう結末は盛り込まれてはいなかったという事です。(頂いたリクは、肝試しで其々別々のペアになるものの、最後は二人ラブラブでゴールするイリコトというものでした) でもこの時期のお話を書くとするなら、自分が創作をするにあたって一番注意を払っている「なるべく、原作の流れに忠実に」をモットーに書き上げたいと思い、このような展開にしました。以下、少し考察です。

原作中、イリちゃんパパが倒れた時点でイリコトを取り巻く周辺は緊迫した状況に陥っていたのは言うまでも無いと思います。入江くんが大学を休学すことを決めた夜は読み返すと今も胸が痛くなるシーンの一つです。
ですが、9巻を読み返すと、その中も琴子は新婚気分をちょっぴり味わったり、入江くんを心配しつつも何とかなると何処か楽観的に物事を見ていた気がするんです。(紀子ママもけしかけている様子が描かれているので同じく何とかなると思っていたと思います)
一方入江くんは少しずつ自分の力だけでは会社を立て直すのは不可能かもしれないと思っている様子が窺えます。

そのことから、この肝試しのお話は、裏設定としてお見合いを既に入江くんは打診されているというところから展開してみました。
琴子の事は気になるけれど、でももうこのままの関係ではいられない、と思う入江くんと、それには気付いてないけれど入江くんの事を自分なりに一生懸命考える琴子の思いのすれ違いを感じていただければ嬉しいです。

ひとぽんさん、あらためてこんな展開にしてしまい申し訳ありませんでした!でも自分では絶対避けて書かなかったであろうこの時期を描くことが出来ていい経験になりました!!ありがとうございました!!

テーマ:二次創作:小説
ジャンル:小説・文学

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コメントありがとうございました

吉キチ様

お久しぶりです~♪そんな、遊びに来てくださるだけでとってもありがたいのでご無理なさらないで下さいね!でもこうして足跡残して下さるとやはり嬉しいです(^^)
前半後半のレス、此方で合わせてさせていただきますね。

琴子は直樹が大学に進学する意味すら見出せなかった事を知っていますから、お医者様になりたいと将来の夢を見つけられた入江くんがお父さんのため、さてはその先にいる其々の家族の為にその夢を真直ぐ進めない事にとても心痛めていたんだと思います。なのでこんな形でも一大学生に戻ってくれた瞬間が嬉しい。なんとも琴子らしい優しさですよね。
直樹も直樹でいつも琴子の事を気にしていましたから。
護りたい、傍にいたい、見つめていたい・・・、「~たい」の気持ちに気付いているのかいないかのこの時期に、それでも眠りにおちる瞬間の琴子にこの科白を言った直樹はどんな気持ちだったのでしょう。
そしてその後の2人の夏は長く辛いんですよね。

オリキャラで出てきた彼はほんとにややこしい名前で(笑)時々やっちゃいますよね!
いや、私の場合は人違いもしますから余計に始末が悪い・・・。道すがら「久しぶりです!」なんて声を掛けられ、「私の事、覚えてます?」と聞かれクラブの後輩の名前を出したらバイトの後輩だったってことも(^^;)
って!これじゃダメですよね~~(>_<)記憶力、なんとかしなきゃ~~!

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コメントありがとうございました

あやみくママ様

こんにちは♪
そうなんですよね。この後は原作再読するのが悲しくなるシーンであります。
本当に、入江くんってこういうところで弱音を吐かないタイプなんですよね。器用な不器用者。矛盾するようですがそんなイメージがあります(笑)
もしも沙穂子さんと結婚していたら・・・ってお話は二次創作でも何度か拝読した影響か、私もどうしてもそんな想像をしてしまいます。最後に素直になれて良かったですよね(*^_^*)

おはようございます

この後 心が悲鳴をあげるほど苦しみながらお見合いをするんですよね…素直に「辛い」とか誰かに助けを求められてたら話が早いんでしょけどそれが出来ないのが入江直樹だから仕方ないかな(笑) もしそのまま沙穂子さんと結婚になってたらどうしたんだろう?ロボットみたいな生活してたのかしら?生き地獄よねぇ 良かった琴子と幸せになれて♪ でも本当に直樹って不器用な天才ですね(-.-;)

コメントありがとうございました

あけみ様

今回もお付き合いありがとうございましたっ!
そうですよね。まさか『肝試し』からこのラストは皆様ちょっと予想されなかったようで・・・(笑)
でもあけみさんにも不思議とジーンとして頂けて本当に良かった!ラストの科白はこの頃の入江くんには精一杯の言葉だったのかなぁ、と思います。思い切ってこの展開で書いてみて良かったと、改めてホッとしました!

・・・というか、鳥肌なんてマジですかーーー!!?ううっ、めちゃくちゃ嬉しいです~~(≧▽≦)こちらこそ感動です!とっても気持ちのこもったメッセージをありがとうございました!!

コメントありがとうごいました!

長い本文に加え、だらだら書き綴ったあとがきにまでお付き合い頂きありがとうございました!
以下、コメントくださった方へ返信です♪



ひとぽん様

UP後早速のコメントありがとうございました!しかも泣いて下さる位に感情移入して読んで頂けたなんて、本当に嬉しいです!
入江くんの科白の意図、直ぐにお分かり頂けたんですね。眠りに落ちる寸前の琴子ちゃんにだったからこそ遠まわしではありますが(本当は護ってやりたいけれど)と気持ちを心の奥底に秘めながら伝えたんではないかと思います。
もしも原作にこんなシーンがあったらこんな展開になったと思うというお言葉、そしてハッピーエンドな終わり方ではなかったけれど、このお話が大好きだと言って頂けた事、もうただただ感謝です。こちらこそお付き合い頂きありがとうございました!!これからも出来る限り創作続けていきますね。


紀子ママ様

ああ、紀子ママさんも泣いて下さったなんて・・・。原作の流れを汲みながら読んで下さりありがとうございました!
そうなんですよね。入江くんは恐らくこの時点で琴子が他の誰かとは違う存在とは認識しているんでしょうが、でも絶対に手放せない大切な存在だと気付くのはやはり琴子が金ちゃんにプロポーズをされた時なんだと思います。そんなまだあと一歩の無自覚時代の入江くんは、分かる人(このお話では田村くん)には琴子を大事にしている事が十分に分かる態度を取っていたのだと思います。
ささやかながらも幸せを感じていた所からの転落の予兆は本当に悲しいですよね。
この辺りのエピは私も嫉妬のエピと同じくらい読み返すの辛いです。でも、雨が上がった後に地は固まるんですよね(*^_^*)


miyaco様

本当に、この肝だめしは須藤さんの計画だという時点である程度展開が予想出来るものだったと思います。
でも3回生の夏という事はmiyacoさんの仰るとおり、この後琴子ちゃんはささやかな幸せから残酷な現実という地獄へつき落とされるのは確かで・・・。
なので敢えてこんな最後を書こうと思いました。納涼祭り中に、しかもリクエストのお話でこの展開は良いのだろうかと逡巡しながらのUPだったのですが、こんな終わり方好きと思って頂けてホッとしました。
それから、元々くどい文章に加え、考察まで暑苦しいな~と実は思っていたので、miyacoさんのお言葉の数々にとても救われました思いです。こちらこそ、深いコメントありがとうございます!

narack様

narackさんもこのお話は無自覚ラブで終わると予想されていたんですね(^^)自己満足でしかないですが、こんな終わり方もありかな、と書かせて頂きました。
本当に、もうこの頃ともなるとこの2人が思い合っている事は、分かる人には十分過ぎるくらい分かっていたのではないかと思います。(そうそう、田村くんはいい人だったんです♪)それでも誰も面と向かって口に出せなかったのは、イリコトの間に独特な雰囲気があったからなんでしょうね。
タクシーでの直樹の科白、本当にどこまでを自覚して直樹は言ったんでしょうね?実はそこをはっきりと書き表せない気がしたので琴子目線でお話を展開させてしまった部分もあったり(^^;)この頃の直樹の感情は本当に難しい・・・。いや~、あらゆる点でまだまだだと改めて痛感しました!


chan-BB様

今回もお忙しい中ありがとうございました!沢山の有り難いコメント、すっごく感激です!
とくに『すばらしい裏切り』なんて、最高のお褒めの言葉ですよ~~(≧▽≦)

楽しいまま終わらせる事は可能でしたし、最期の展開ははじめ書くか書かないか迷いました。
でもやはりこの時期のスキマとして、入江くんの心情の揺れの断片をを書かずにはどうしてもいられなくて。書くと決めてからは、もうそれだけに照準を合わせタイトルをつけ本文を進めました。後編は私にしては早く書けた気がします(^^)
それにしても不穏な終わり方でも後味悪くないと仰って頂けてほっとしましたよ~(T_T)要所要所の入江くんの言動に愛情を感じて頂けて良かったです!
特に最後の入江くんの科白は様々な感情が含まれていたんだと思います。

それから『魔王』の描写も拾って頂きありがとうございます!そうなんです。これ、琴子の恐怖を表すと同時にその後の二人の嵐のような運命をどこか暗示させたかったんです。気がついて頂けてもうどれだけ感激したことか!外すことの出来ない場面と仰って下さりありがとうございました。
ちょっと異色でしたが、納涼祭りの一話として胸に残る作品と感じて頂け、あらためて書けて良かったと思えました!


藤夏様

もう、本当に仰る通りだと思います。この時期はイリコト(はてはその周辺)にとってもっとも辛い時期だったと思いますが、それ故にささやかな幸せに萌えられるんですよね!恐い思いをした琴子ちゃんでしたが、入江くんに見つけてもらえた時は本当に幸せを感じられたのでは思います。
そしてそうなんです。これ、入江くんの目線に立つとまた随分違った味わいの話になったと思います。ただそこは私の力不足で・・・、とても入江くんの心情を的確に記せないと思い琴子目線で書かせて頂きました。でもきっと、本当は自分が護ってやりたいと入江くんは思っていたんでしょうね。
「東京のど真ん中で・・・」って言った時の入江くんは、すごく汗びっしょりで必死な様子を想像しながら書きました(^^)

それから、強引で鈍感な須藤さんはこれである意味救いなんですよね(笑)そして、対極にいるようなオリキャラ田辺・・・じゃなく田村くん(リアルに打ち込み間違えました^^;)の存在も、違う意味で救いだったのかな、なんて思います。
琴子ちゃんは本当にテニスの腕へなちょこですが、後輩に慕われているような気がしますよね♪


まあち様

携帯からこんなに沢山のコメントありがとうございました!感激です!
本当、この時期の入江くんって正直琴子ちゃんより余程辛かったと思います。まだ若いのにやっと見つけた将来の夢を捨てる覚悟をし、家族どころか会社の、果ては従業員の家庭将来の命運を背負ったわけですから。
この時期はつい避けて読みがちになるの、同じです!それが証拠に、私は9巻と嫉妬事件の15巻のスキマをちっとも書こうとしませんでしたから(^^;)

でもこうして書いてみて、また原作を読み返したくなったと仰って頂けて嬉しいです。有り難い事に今までそう仰ってくださる方が結構いらして、それはこうして細々ながら創作している私へのご褒美になっています♪
またそんな作品をこれから一つでも増やせればいいなと思います。こちらこそ、いつも読んで頂きありがとうございます!

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