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悪戯パブリック 2/2

イタKiss 納涼祭り2011第6段後編です。

summer2011.jpg

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「あらまぁ、取り憑いちゃいました~?」

幹に事情を聞いた女将は、なんとも呑気な口調でそう言うと、しげしげと直樹を見つめた。
女将曰く、直樹の中に入ったのはやはり、所謂妖怪の類なのだという。

「そうそう、確か前もこれを手にとって遊んだ男の人に憑いたんです。一緒に遊んでもらえると思ったのかしらねぇ」

女将の手中には、先程直樹が手を出した鞠と剣玉が納まっている。


「ちょっ・・・っ、それなら何故あんな無防備に置いてあったんですか!?」

「ん~、でも普段此処はお客様を通す部屋ではないですし」

声を荒げる真里奈に女将は小首を傾げ飄々と答える。

「それでも今はこうして泊まっているんだから片付けるべきでしょう!?」

「でもそうすると怒っちゃいますから」

具体的にどうなるのかは不明である。が、いくら幹たちがムキになって抗議・指摘しても、女将の反応が暖簾に腕押しである事に違いはなかった。


「ただ、きちんと注意しなかったのはやはり申し訳なかったですねぇ。まさかこのハンサムで聡明そうなお方が、こんな子供向けの鞠や剣玉を手に取るとは思わなかったものですから」

「そ、そうですよね・・・」

女将に頭を下げられた琴子は力なく答えた。
確かにそれは皆同感だった。琴子ならともかく、あの直樹が戯れにもこんなおもちゃで遊ぶとは意外でしかなかった。
が、それはあの時琴子が変な想像を膨らませた事を直樹が面白がったからであり、『あの時、あんな事を言わなければ・・・』と、琴子は後悔してもしきれない。


一方珍しい事象に遭遇した当の本人、直樹はというと、まるで人事のような態度だった。
直樹は琴子を膝の上にすっぽりとのせると、彼女のさらさらした髪を弄んだり頬の輪郭をなぞってみたりと周りの反応などまるで気にしない。
琴子は困惑しつつも、見た目が直樹であるが為に強く突っぱねる事も出来ず、されるがままだった。


「でも、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。この子は座敷わらしみたいなものですから」

「つまり、寧ろ幸せになれるという事ですか?」

「ええ」

智子の問いに女将はにっこりと微笑む。

「ニコニコしてればいつのまにか居なくなるし」

「そんなまっくろくろすけみたいに」

あくまで楽観的な女将に啓太は唖然として呟いた。


「それに、この子はあなたのご主人の体を使ってちょっとばかり悪戯するかもしれないけど、でもそれはこの方の元から備え持った性質の一部分を強く刺激しているだけなんです」

「はぁ・・・」

琴子は頷くとそっと直樹を見上げた。すると直樹が小首を傾げこちらに微笑み返してくる。

「だから奥様には見覚えがあるんじゃないですか?ご主人、一見クールそうに見えますけど、奥様にはこんな姿をお見せになる事もたまにはあるんじゃなくて?」

「・・・そ、そう言われてみれば・・・」

顔を赤らめる琴子の傍らで、幹たち看護科のメンバーは何か見てはいけないものを見せ付けられている感覚がし、すっかり居心地が悪くなる。
勿論二人は夫婦なのだから、こんな蕩けるような笑顔を直樹が見せる事も稀にあるのかもしれない。
が、普段の直樹からはやはりとても想像がつかないのだ。
やってられないとばかりに啓太は顔を背けた。今でこそ琴子の事はただの友人としか思っていないが、こんな直樹を目の当たりにすると何となく古傷が疼くような気がした。



「そんな訳だから、あまり悲観せずにこの状況を楽しんで下さいな」

女将はそう言うと、セットしていた紙鍋の下にある固形燃料に火をつけた。
そういえば腹が減っていたことに一同は今更ながらに気づく。

「お風呂はどうします?今日は他のお客様は早めが多かったから、1時間後あたりからならゆっくり入れると思いますが」

「あ、はい。じゃあその頃に行かせてもらいます」

真里奈が返事した時、ふと直樹が女将の方を向いた。

「家族風呂は空いてる?」

「やだっ、入江くん、何言い出すの?」

「だってお前、さっきおれと入りたがってたじゃん」

慌てて制す琴子に、直樹は事も無さげに返事した。

「ち、違うよ!!だいいちこんな所で言わなくても・・・///」

「今更照れなくても夫婦なんだし。普通だろ」

普通と言い切られればそこまでなのだが・・・、この二人がそういう事をしていると想像するのはやけに気恥ずかしくなる他のメンバーたち。


「ちょっと確かめて、また空いていそうなら案内しますね」

「よろしく」

あくまでマイペースな女将に、直樹はそう言うとニッと口角をあげた。
女将は同じくにっこり笑い返すと、

「因みにこの子が出て行ったら、お兄さんはその間の何の記憶も残してやいないはずです。だから好きなこと聞いてみるのも面白いかもしれないですよ」

と言い残し、ゆっくりと引き戸を閉め部屋をあとにしたのだった―。





紙鍋の中がぐつぐつと煮え始める頃、彼らはとにかく食事をするべく卓に向かった。


「まぁ、いつの間にか居なくなるっていうんなら、待つしかないわよねぇ」

瓶ビールの栓を抜くと幹は一瞬反射的に直樹にお酌をしようとした。が、自ら栓を抜き、まずは琴子のコップに注いでやる直樹の姿を目にし、そそくさと啓太へと方向を転換する。

「ところで入江さん、今夜はずっとそうしているおつもりですか?」

「ん?まぁ気分次第だけど」

食事だというのに、直樹はまだ琴子を片時も手放そうとしない。

「二人羽織でも始める気かしら?」

真里奈は肩を竦めるとパキッと割り箸を割った。


「でも、考えてみたらあんた達のいちゃついてるところなんて、あたし達散々目撃してきてるわよね」

「そうそう。公然か、そうじゃないかって違いだけ」

「ちょ、ちょっと待って。あたし達、い・・、いちゃついてなんていないわ。だ、だって入江くんはいつもクールだし・・・」

好き勝手言う二人に、琴子は慌てて否定しようとするが、すぐさま直樹に頬を挟まれた。

「琴子、これ食べてみろよ。美味いぞ」

差し出された箸に琴子は顔を赤らめながらもパクリと口をあけた。
その姿に啓太はげんなりした顔を見せ、幹と真里奈は顔を見合わせ溜息をつく。
智子だけは小さく笑うと、そんな直樹と琴子をちゃっかりカメラに納めた。



「ねぇ、こうなったら入江さんに色々質問してみない?」

「そうねぇ~。どうせあてられるんなら、聞きたいこと聞かなきゃ損ってもんよ」

真里奈と幹はこそこそと腕を突きあうとくすりと笑みを浮かべた。
琴子には『まだまだ直樹を諦めてなどいない』などと未だにからかう事のある二人だが、それは勿論冗談。
男(啓太)と違って女というのは勘のいい生き物だ。直樹の隠れた琴子への愛情に気付くのは、食堂での愛の告白事件よりももっと前だったと二人は記憶している。

ただ、面と向かって直樹に琴子の事を聞くのはどうにも憚られた。
直樹という人間は『見たいならば見ればいい』とでもいうように、大胆な姿を時々見せつけるのだが、その内なる感情にはどうにも立ち入らせない。
この場の出来事が直樹の記憶に残らないのであれば、少し冒険して質問するのも手だと二人は思った。


「入江さ~ん、ちょっと聞いてもいいですかぁ?」

猫なで声を出す幹と真里奈に直樹は少し眉を上げた。
琴子も何事とばかりにキョトンと目を見開く。

「入江さんってやっぱり、実はいつもそうして琴子のこと可愛がっていたりするんですかぁ?」

「な、なによモトちゃんたち。突然なにを言い出すの!?」

琴子は途端に顔を赤らめると、ジタバタと暴れだした。

「危ないな。大人しくしてろ」

表情を変える事無く言った直樹は、そのまま両腕で琴子の体をすっぽりと抱きすくめると、未だおたおたと口を動かす琴子の唇を摘みぴたりと閉じてしまった。
アヒルのくちばしのようにされてしまった琴子はふがふがともがき、潤んだ目で直樹を睨む。

「まぁ、それなりに?」

にやりとして答える直樹に幹たちはキャーキャー歓声をあげると、さらに身を乗り出した。


「入江さんって、琴子のどんなところが好きなんですかぁ?」

「あ、根性とかそういうのは抜きにして、です」

「例えば好きな部位、とか・・・♪」

「んぐぅうう~~っ///!!」

囀る小鳥のようにかしましく質問する彼女たちに琴子は再び待ったをかけた。
これまで、直樹にどこが好きと言われたことが無いかといえば勿論そんな事はない。が、公然と話されるのはとても気恥ずかしくて居ても立っても居られなくなる。話してほしくない。

「・・・ぷっ」

すると直樹が小さく噴き出した。

「そんな事が知りたいの・・・?」

笑みを浮かべながら向けられる直樹の視線は妙に色っぽく、幹たちはドギマギしながらも「はい・・・!」と頷いた。


「・・・教えてる訳ないじゃん?」

「え・・・?」

直樹の言葉に彼女達はポカンと目を見開いた。

「コイツのどこがいいかなんて、おれだけが知ってるのが楽しいんじゃない」

「は、はぁ・・・」

体を乗っ取られた状態でありながら、俺様な部分を存分に残す直樹に一同は驚くばかり。

「ま、気に入らない部分があるわけないよな。なにせ琴子はまっさらな状態からおれが好きなように育ててきた訳だし」

「そ、育て・・・っ!?」

上擦る琴子と時を同じくして、一同が仰け反りそうになったのは言うまでもない。
そして今、“調教師、直樹”の異名が此処に誕生したのだった。



ノリノリで始めたつもりの質問に早くも徒労感を彼らが感じ始めたその時、部屋の電話が鳴った。

啓太は立ち上がると少しホッとした面持ちでそれに出た。


「・・・はい、・・はい。分かりました。ありがとうございます」

受話器を下ろした啓太が振り返る。その表情はなんとも微妙な面持ち。

「家族風呂、11時からならいけるらしい。その後は予約もないって。だから一応押さえたけど、別に入らないなら入らないで構わないってさ」

「ふぅん。ならおれ達二人で入らせてもらう?」

「い、い、いらないっ!!///」

琴子はすぐさま首を振った。

「あ、そう。ま、まだ時間もあることだしよく考えれば」

然し直樹はまるで意に介さず、琴子の頭をポンポンと叩くと前髪を少し払いキスを落としたのだった。





― それから数時間後。


「いい加減、トランプもUNOも飽きたわよねぇ・・・」

食事を終え湯に入った面々は、浴衣に着替えてまた一部屋に集合していた。
取りあえず始めてみたカードゲームは、小一時間にして既に食傷気味である。
然しそれも止むない。何せ彼らは今日丸一日ずっと一緒に行動をしているのだ。そろそろ割り当てられた部屋でのんびりしたいのが本音だった。

が、それを嫌がったのは他でもない琴子だ。

「いつもなら入江さんを独り占めしたがるくせに」

目を細める真里奈に、琴子は手を摺り合わせると

「だって・・・、あれは入江くんじゃないだもん」

と涙目になる。

「まったく、何時になったら戻ってくれるのかしら・・・?」

幹は僅かに眉を顰めながら、琴子の膝枕で寛ぐ直樹を見つめた。



「・・・ところでモトちゃん、入江さんとのお風呂はどうだった?」

と、ここで真里奈がひそひそと幹の耳元に唇を寄せてきた。

「こういう時は役得よね~。入江さんと一緒にお風呂なんて、すっごくラッキーじゃない」

その言葉に幹は先程の光景を思い出しにんまりと頬を緩めた。

「ふふふ、確かに真里奈は一生味わえないわよね~~」

こんな時ばかりは、間違えて男に生まれてしまった自分が少しばかり得したような気になれる。


「で、どうだった?もう、焦らさないで早く教えてよ」

「あぁんもう、すっごくセクシーだったわ~。女並みに綺麗な肌、それでいて肩幅はガシーッ、鎖骨もピシーッ。堪んないわよ」

「もう、それくらいならあたしだって今日海で拝んだわよ」

真里奈はそう言うと頬を膨らませた。
海で直樹はタンクトップを脱がなかったが、そのくらいは十分窺い知る事が出来た。

「あたしが聞いてるのはそこじゃなくって~~」

「真里奈、アンタも好きね~~」

肘を突く真里奈に幹はぐふっと笑みを浮かべた。

「何せ今あの状態でしょ?ちっとも隠そうとしないから目のやり場に寧ろ困ったわよ」

「きゃあっ!やだぁ~~」

真里奈は顔を赤らめると「で?で?」と続きを促す。

「ほら、アタシって恥じらいある乙女だから・・・。とにかく“パーフェクト”だった、とだけ言わせてもらうわ」

「パーフェクト・・・!」

幹の回想と真里奈の想像については是非各自で補完して頂きたい。

「おい!お前らいい加減にしろよ。ったく、筒抜けだっつーの」

聞くに堪えないとばかりに彼女たちを遮ったのは啓太だ。が、幹はふふんと目を細めると啓太に微笑みかける。

「あらぁ、僻む事ないわよ。アンタもなかなかいい身体だったわよぉ?」

「ばっ・・・!何言い出すんだ、変態!!」

顔を赤らめ声を荒げた啓太に幹と真里奈、そして智子までがクスクスと笑った。


「入江くん、今言っても仕方無いかもしれないけど・・・、少しは隠さないとダメだよ?」

膝の上で気持ちよさそうに目を瞑る直樹に琴子はそっと話し掛けた。

「なにそれ?やきもち?」

直樹は少し目を開けると琴子の頬に手を伸ばした。

「う・・・ん、無いとは言えないかもしれないけど、でもそれよりもマナーとして」

「じゃあやっぱりこれから家族風呂行く?」

時計はそろそろ11時をさす頃だった。

「・・・い、行かない・・・!」

琴子は首を振ると直樹の頬を抓った。

「なんで?皆にばれるのが嫌?」

「ううん、違う。そうじゃなくって・・・、だってあなたは入江くんじゃないもん」

「違わないよ。ここの女将さんも言ってたろ?これはおれの性格の一部だ」

「そうかもしれない。でも、あたしはいつもの入江くんがやっぱりいいよ」

「ふぅん・・・」

直樹は暫く黙り込んだがやがてふっと笑った。そしてむくりと起き上がると琴子と向かい合うように座る。



「じゃあさ、そろそろ出てってやってもいいよ」

唐突なその言葉に、クスクスと笑っていた幹たちはハタと動きを止め直樹に注目した。
今更ながら、直樹の中に異種なるものが入り込んでいた事を目の当たりにし、彼らの間に緊張が走る。

「ほ、本当・・・?」

その中で、琴子だけが何のためらいも無くそれに話しかけていた。直樹が戻ってくるのであれば、琴子にとって恐怖なんてものは二の次の感情だった。


「キスしてよ。琴子」

直樹はそう言うと琴子の唇に指を滑らせた。

「そうしたら返してやる。いつもしてるんだ、難しい事じゃないだろ?」

「・・・。」

琴子は大きな目をいっぱいに見開きながら、長い時間直樹を見つめ返した。


「・・・出来ないよ」

琴子の言葉に皆は唖然と琴子を凝視した。

「なっ・・・、琴子、アンタ何言ってるのよ!?」

「そうよ、せっかく入江さんが戻ってくるっていうのに!」

「見られるのが嫌なんだったら違うところ向いておいていやるから」

「琴子さん、私たちの事はかぼちゃとでも思ってくれたらいいわ」


「・・・違うの。恥ずかしいとかじゃなくて、出来ないんだよ」

口々に発破をかける彼らに琴子は困ったように首を振った。

「あたしがキスするのは、入江くんにだけだもん。幾ら見た目が入江くんだとしても、本当の入江くんじゃなきゃ出来ない」

「そんな・・・」

頑なな琴子に皆が言葉を失ったその時だった―。



「― よく言った。琴子」

ずっと同じ姿、声だったのに、何故か皆それが本来の直樹だという事が分かった。

「・・・入江くん・・・!!」

一気に目を潤ませた琴子が弾かれたように直樹の胸に飛び込む。


「「「「――――!!!」」」」


躊躇い無く直樹に口付ける琴子に皆は目を丸くし赤面した。
然し直樹は琴子を迷う事無く抱きしめると、その口付けにしっかりと応える。
そうして暫く時が止まったような時間が流れた後・・・、ふと部屋の中に柔らかい光が差し込んだ。
光は窓をすり抜け、やがてゆっくりと消える。
その時、突然覚醒したように直樹がパチッと目を開いたのだった。


「・・・っ!! おい、何なんだこれは!?」

「・・・ほへ?」

突然唇を離された琴子は目を開けるとぽかんと直樹を見つめた。
一方直樹は混乱したように辺りを見回す。

「此処はどこだ?あの部屋ではないみたいだど・・・。てか、なんでお前泣いてる?いや、それより・・・、何がどうなっておれ達、キスなんかしてんだ――!?」






「・・・信じられない」

事の経緯を説明された直樹は一言呟くと頭を押さえた。

「でもここに証拠もありますし」

智子はにっこり笑うと直樹にデジカメを差し出す。
そこには琴子にご飯を食べさせる直樹がしっかりと収まっていた。

「ったく、こちとら見てられなかったぜ」

「これはおれじゃねぇ!!」

大袈裟に肩を竦める啓太に直樹が怒声をあげる。

「お、落ち着いて入江くん」

「これが落ち着いていられるか!!」

宥める琴子に直樹はさらに眉を吊り上げて吼えた。



「ねぇ、どういう事だと思う?」

見慣れた二人の様子を見つめながら、真里奈は幹に話し掛けた。

「あれは、間違いなく入江さんだったわよね?」

「・・・ええ。アタシ達はもちろん、琴子がそうだと感じたんだから多分そうなんでしょ」

幹は曖昧に返事しつつも、腕を組み考えこんだ。

女将は確か、“それ”が中に入っている間の記憶は直樹には残らないと言っていた。だからこそ直樹は今こんな反応をするのだろう。

ではあの瞬間、どうやって本当の直樹は顔を出したのか―?
それはおそらく、『奇跡』というものなのだろう。


― やっぱり、琴子の気持ちはどんな時にも入江さんに通じるのね。

その考えに行き着いた幹はふっと笑んだ。
元々が不可思議な出来事だったのだ。もう一つくらいそれが加算されたところで何も驚く事はない。

一見冷たかろうが意地悪だろうが、琴子が好きなのはそういう直樹なのだ。決して見た目だけではない、直樹の全ての要素を愛する琴子の気持ちがあの瞬間、奥底に成りを潜めていた本来の直樹を取り戻させたのだろう。

「信じられん・・・」

こめかみをひくつかせながらデジカメのデータを見つめる直樹に、一同は腹を抱えて笑ったのだった。



「そういえば11時過ぎたぜ。どうする?入ってくるか?」

にやりと笑みを浮かべる啓太に琴子はブンブンと手を振った。

「い、いいよ!あれはあの妖怪(?)が言ったことだもん。行きたかったら啓太、行っておいでよ」

「おれはもう寝る。明日また長距離運転だからな」

「アタシも助手席ナビ担当だから遠慮するわ♪」

幹は啓太の腕を取るとにっこりと笑った。

「あたしも今日はもういいわ。もう疲れたし」

「私も。だからお二人でどうぞ?」

天使のような微笑を智子から向けられ、琴子は「ええっ?」と後ずさりした。


「い、入江くんも疲れたよね・・・?何せ取り憑かれていたんだもんね」

「・・・。」

上目遣いに窺ってくる琴子をチラリと見遣りながら、直樹の中に悪戯心がわき上がってくる。

「そうだな。でもこのまま寝るのもなんか気持ち悪いし、入ろうかな」

「そ、そう?じゃあ、あたしは先に眠っておくね・・・」

「つれないな。疲れた旦那の背中、流してくれないの?」

「や・・・、だ、だって」

「いいじゃん。もうなんだかんだで公表済みなんだろ?」

あわあわとする琴子を気にも留めず、直樹はそう言うと琴子を抱き上げるとつかつかと部屋の扉へと向かった。


「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ。また明日、おやすみ」

「「「おやすみなさ~~い♪」」」

調子良くひらひら手を振る幹たちに、琴子は「やだ~///」と顔を隠すように直樹にしがみついた。

「結局どうにしたって見せ付けられる、ってか」

悪態吐く啓太も口の端はぷるぷると震えている。


「はい。良かったらこれ使って?」

智子はそう言うと皆の掌にコロンと耳栓を載せていった。

「智子って何気にいつも用意周到よね・・・」

「ありがとう」

舌を巻く真里奈に智子はこれまた極上の笑みを浮かべるのだった―。





― 翌日。


「「「「お世話になりました~~!」」」」

民宿の軒先で、声を揃え挨拶する面々に見送りに立った女将は

「こちらこそ、また来て下さいねぇ」

と愛想良く笑った。


「それにしても良かったわ。昨日はとても早く出て行ってくれたみたいねぇ?」

「お陰様で」

直樹は少し口端を引き上げながら答えた。

「奥様のお陰だとか」

「そ、そんな~」

女将の言葉に琴子ははにかむと直樹の腕にきゅうっと摑まった。


「でもこれで運気もアップしたはず!こうなると来年の入江くんの試験はもう鬼に金棒って感じよね」

「何言ってんの琴子。こんな事に頼らなくても入江さんがパスしないわけないでしょ?」

「まぁね、それはそうだけど~~」

幹に指摘された琴子は、エヘへと笑いながら直樹を見上げる。

「でも、なんだかご利益ありそうじゃない?」

「それならさしあたってある夏休み明けの試験で、お前の成績が芳しいことを祈るよ」

「うっ・・・」

つれない直樹の返事に、琴子は肩を落とし皆はけらけらと笑った。





「次、右折ね」

「はいよ」

幹のナビに合せ啓太がウィンカーを出す。

「さぁて、これから道中は長い訳だけど頑張ってね」

「おう」

返事する啓太に真里奈も智子も「よろしくねー」と後方から声を掛けた。


「ところでお二人さんはもう眠ったとか?」

「ああ、そうみたい」

少々呆れ声で真里奈が答える。
ワンボックスの一番後部の座席に座った直樹と琴子はもう寄り添うようにして小さな寝息を立てていた。

「ったく、結局何処までもバカップル」

「「「同感!!」」」

車中には明るい笑い声が溢れる。

雨の上がった空は快晴。彼らの前途はまずまず上々だ――。








・・・という事で終わりです。
ごめんなさい~~。私にはやはりバカップルを書く能力は無かったという事で・・・(;´▽`A``
これ位でご勘弁下さいっ!細かい突っ込みもなしでどうかお願いします・・・。

最後に、リク下さいましたあやみくママ様、あらためてありがとうございました!心よりお礼申し上げます♪

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テーマ:二次創作:小説
ジャンル:小説・文学

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コメントありがとうごいました

Fox様

おはようございます♪前、後編続けてのコメントありがとうございました!こちらでえ一括してご返信させて頂きますね(*^_^*)
良かったです!面白かったと仰って頂けて♪取り憑かれる直樹ということで、当初は恐い展開かも・・・と思った方もいらっしゃったようですが、こんな恐いところの全くない展開でした(笑)出来ればもっと琴子ちゃんに甘えさせたりしたかったんですけど膨らませることが出来ず(^^;)まぁいいか♪と勝手に自分を納得させています。
しかし智子、ほんといい仕事してくれました(^m^)決して騒がしいタイプじゃないけど、必要なキャラだよな~と今回改めて思っておりましたww

コメントありがとうございました

藤夏様

こんばんは♪週末はテレビをつければ台風情報という感じでしたね(>_<)
ご心配ありがとうございます。私の住む地域は風雨ともに思った程ではなかったです。藤夏さんもそれほどご影響なかったようで良かったです。

後半、ひたすら楽しんで頂けて良かったです♪今回は難しい事を考えず!を目標に書きましたので(^^)

女将さん、おおらかそうな人ですよね(^m^)そうそう、上手く妖怪さんとお付き合いしているんだと思います☆
ところで彼女、実は始めはもっとはっちゃけたイメージで書いてたんですよ。
でも前編を読み返すと、ちょっと雰囲気変わりすぎ・・・?と書き直しました(^^;)でもこれ位でちょうど良かったと今は思います(笑)

取り憑かれた入江くんは・・・思いもかけず本性を出しちゃいましたよねw
琴子ちゃんは否定したものの、これこそが入江くんの本性だというのは本当にその通りですよ~(≧m≦)
「まっさらな~」は私もそればっか考えながら書いてました・・・(苦笑)なんか最近こんな入江くんばっか書いちゃってるな~~と、少しばかり反省中なんです。もっと違う魅力溢れる彼を書きたいんですがね~~(^^;)

と、それはさて置き、元に戻ってからの入江くんが一番最強なのは間違いないです!!
妖怪さん、さぞや居心地が悪かった事でしょうww
そして私も密かに気になっていたんですよ!智子の撮ったデジカメのデータ!!
これは是非紀子ママの手元にお届けしてほしいものです~~(≧▽≦)

こちらこそお付き合い頂きありがとうございました♪

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントありがとうございました!

不思議な世界にお付き合い頂きありがとうございました!


REE様

こんばんは♪こちらこそいつも読んで頂きありがとうございます♪
そうそう、きっと中に入って「こらアカン!」って思ったはずですよ(笑)
お前、どんだけ嫁の事好きやねん!?って~(^m^)
琴子ちゃんは素面なだけに、何を言い出すかされるか、ハラハラだったでしょうね。
・・・とか何とか言いながら、一番こっ恥ずかしかったのはきっと最後の混浴強制ですよね(^▽^;)そしてその後のコースww
智子の耳栓笑って下さって良かったです♪しかし日帰りの予定だったのに、なぜ智子はここまで周到だったのか・・・(笑)そんな無茶振りが許されるキャラだと勝手に思っている私です(^ε^)


miyaco様

こんばんは♪いえいえ、私の方こそ平伏です・・・!
miyacoさんの伝家の宝刀をここに出してしまいました・・・!!m(_ _ )m

十分バカップルと仰って頂けて良かったです(笑)そうなんです、何故か戻った後の方が入江くんパワーアップしてるんですよ!
・・・お風呂でお部屋で、一体どれだけ調教したんでしょうか(((( ;°Д°))))
それから看護科メンバーの言動にも笑って頂けて♪こうして書いてみると、なんと役割分担がしっかりしているんだろうと改めて感じました!すごく動かしやすかったです。原作の素晴らしさですよね(^^)
お付き合い頂きありがとうございました!


narack様

こんばんは♪本当、やっと終わりましたよね~(≧▽≦)
私の住んでいる地域は先週末に始業式があり、今週は火曜から通常通りの授業だったんです。だから私にしては集中して書けたかもしれません。(いつもは情けないくらい散漫なので(^^;))

特徴強化型妖怪(なんだ?それ 笑)だったので、取り憑かれても直樹らしさはそのままって感じでしたよね。で、出ていった後の方が大胆というのはその通りなんです!あらあら摩訶不思議~☆
琴子ちゃんも大変だったと思いますが、啓太をはじめとした看護科のメンバーはお疲れ様でしたよね(笑)とはいえ智子は最強です(^m^)
何はともあれめでたしめでたしと思って頂けて良かったです!お付き合い頂きありがとうございました♪


chan-BB様

こんばんは♪あぁ~良かった!お楽しみいただけて(^^)
人前で甘えたり甘やかしたりする入江くんって普段では絶対見られないシチュですよね♪欲を言うならば、もっと萌える状況を書きたかったんです~(>_<)でもちっとも思いつかなくって!ダメだなぁ~~、妄想力が足りません!!
でも書いていて自分でも密かにイタキスらしい?と気に入っていたのが、そんな甘い入江くんよりも、本来の入江くんを琴子ちゃんが望んだところだったんです。だからそこに気付いて頂けて嬉しいです。この二人の絆こそが妖怪を早々に追い出したんだと私も思います♪
・・・でも、本文でもコメントでも、『妖怪』と打ち込む度に一体自分は何を書いたんだろうとちょっと呆れて笑えてきます~~(^▽^;)
それからそうなんですよ!この話で何が突っ込みどころって、一番はやはり素に戻った時の方が入江くん最強ってところなんです~(≧m≦)
仲間内で来ているのに、もっと空気読めよ!と普通なら思いますが、入江くんに関してはこんな風であっていただきたい!そんな私の勝手な願望です(笑)
あと入浴の件は、切羽詰ってメールしちゃって失礼しました~(^^;)でもお陰で話に盛り込むことが出来ました♪惜しみなく晒す入江くん・・・。あ~下品!でもそこがいいんですよ・・・ね?(///∇//)

それからまた挑戦始められたんですね!実は私もしようと思ってたんです~~。でもすっかり忘れて閲覧しまくりーの、デコメ打ちまくりーのしてるからもう2日目にしてダメっぽい・・・(苦笑)
来月こそは・・・!と出来そうもない決心をしようとしています(;^ω^A


ソウ様

こんばんは♪わぁ~嬉しいです!ドキドキして下さってたなんて(^m^)
やはり入江くんはいつも通りが一番って事ですよね(笑)そうなんです、人前で常にデレ全開の入江くんなんて不気味以外のなにものでもないですよww
素に戻ったところで、入江くんはさぞ居心地が悪かったことでしょうね。でもさっさと気持ちを切り替えて更に大胆な行動に出るのが彼なんだと勝手に思っております(^ε^)♪
ソウさんのお話、本当にこれからどうなっていくの!?と全く予想がつかずドキドキしています・・・!気がつけば9月突入ですよね。でもまだまだ暑い日は続くでしょうし、是非納涼させて下さいね(*^_^*)
私もあと1作頑張りたいと思います♪


紀子ママ様

こんばんは♪ふふふ、ハッピーを感じて頂けて良かったです(*^_^*)
そうそう、入江くんが分かりにくいかもしれないけど琴子を大切に愛しているんですよ!ちょっと口が軽くなった分、調教師である事を自ら暴露しちゃいましたけどね(笑)
そして紀子ママさんは前編から気付いて下さっていましたが、琴子ちゃんはどんなに普段冷たかろうと、本来の入江くんが大好きなんですよね!これは二人が培ってきた絆なんだと思います。だからブレない。そんな琴子ちゃんをカッコいいと思って頂けて本当に嬉しかったです!!ええ、ええ、妖怪のさぞ居心地が悪かったんだと思いますよ~~(^m^)
しかしお風呂ではどっちが奉仕したのやら(笑)結局どちらもハードに癒し癒されているのかな(^▽^;)つまりはバカップルという事で♪
こちらこそ、不思議感いっぱいのお話を丁寧に読んで下さってありがとうございました!


まあち様

こんばんは♪うふふ~、だって私の脳内まあちさんって可愛いでしっかり固定されちゃってるんですよ~♪だからこれからもつい可愛いを連発しちゃう時があると思いますが困惑なさらないで下さいね☆
それにしても良かったです~♪恐いかも、というお気持ちはあっという間に吹き飛んで下さったみたいで(≧▽≦)
妖怪と入江くんって不気味な取り合わせですがどこか似合っていますよね(^ε^)入江くんの天邪鬼な性格を妖怪が上手いこと操って、でも今ひとつ操りきれてない・・・とういう互いの力が拮抗している感じだったような気がします(^m^)
今回はあっさり退散しましたが、出来ればこれからも妖怪さんには時々中に入ってほしいかもww それで、体内で入江くんと妖怪が喧嘩するんです(笑)どうでしょう?
とはいえそんな存在が居なくともイリコトは十分にラブラブだという事は確かなんですよね。そしてそれが全ての答えなんだと思います!


あけみ様

こんばんは♪わぁ~い、楽しんで頂けて嬉しいです(≧▽≦)
そうなんですよね、先ずはこの設定を思いつかれるあやみくママ様が凄いんです。
そんなビックリなアイデアを私がどこまで生かしきれたか・・・という所が問題なんですが、バカップルいけてると!そして拍手×100!!もうこのお言葉だけで次も頑張って書くぞーと思えますっ!!ありがとうございます!!

途中フリ・・・はもしかしたら疑う読者様いらっしゃるかな?と思っていました♪でもそこを敢えて(?)裏切って、入江くんには本当に取り憑かれて頂きました(笑)
とはいえ本質的に持っている部分が誇張されただけですから♪こんな仕上がりになってしまいました(^^;)でもやはり、いかなる時も入江くんには俺様であってほしいですww
それと、もし長時間居座っていたら本当にどうなったんでしょうね!?何故か『エスカレート』という単語に無性に心惹かれた私・・・(;´▽`A``

何はともあれ、どんな事態にも備えて耳栓を持参している智子はある意味神です(^m^)お陰でモトちゃんたちもイリコトのワイ・・・じゃなく愛溢れる行為(笑)に聴覚は辛うじてシャットアウト出来た事でしょう♪

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入江くんが更に大胆化?

いつも楽しませて頂いてます。ありがとうございます。
妖怪ちゃんも、天才の体は居心地が良くなかったんでしょうね、早々に出てってくれるなんて笑。きっと、ラブラブな2人に当てられたんですね。ふふっ。
入江くんが更に大胆になってるんですものね。そりゃ、琴子は、こっぱずかしさ全開になりますよね笑。
身体を返してもらっても、「眠れぬ夜」ですか・・・汗
まあ、帰りの車に乗るも早くに寝てしまうなんて、もしかして、徹夜?!笑 「」
智子のミミセン持参にも笑いました。
次のお話も楽しみにしています。

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