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::つもる 1/2
配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。

【約束】の重雄とのやりとりを書く前に、冒頭として差し込もうとした創作が予想以上に長くなってしまいそうなので独立した一話に仕上げることにしました。

幼い頃の琴子が登場しますが、基本は重雄×悦子の話で大変異色です。
そして悦子の病気について勝手に捏造していますので、嫌な予感のする方はどうかスルーして下さい。
宜しくお願いいたします。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









綺麗に晴れ渡った空が見える朝。

「おとうさ~~ん!」

元気な声と共に布団の上にずしんと圧し掛かる小さな重みに、明け方近く漸く眠りについたばかりの重雄は「う゛っ」と呻き声を上げた。

「こら琴子!お父さんは仕事で帰りが遅いんだから起こしちゃ駄目っていつも言ってるでしょ!」

遠くに妻の悦子の声が聞こえるが、幼い琴子はお構いない。

「おとうさん、おとうさん。ことこ、これからようちえんにいってくるからね~~」

馬乗りになって、まだ寝ぼけ眼の重雄の肩を小さな手で揺さぶると、制服のブレザーの上から襷掛けした幼稚園鞄が鈴の音を鳴らす。

「・・・おう琴子、今日も元気に遊んでこいよ」

「うん!」

「友達と喧嘩せず仲良くな」

「わかってるよぅ!」

唇を尖らせる幼い娘の頭を重雄はポンポンと撫でる。
するとニコニコと琴子は機嫌よく笑った。


「もう、琴子ったら今日もおとうさんを起こしちゃったのね?」

エプロンを外しながら悦子がやって来た。

「お父さんが起こしてもいいって言ったんだもん」

「そうさ。おれは琴子が出ていったらまた眠れば済むんだから」

父娘は顔を見合わせ「ねー?」と声を揃える。

「駄目です!そんな事じゃ眠りの質が悪くなるでしょう!?」

一方悦子は厳しい口調で言い放つと両腕でバツを作った。


「・・・ぷっ」

「あははっ」

「え・・・?」

すると悦子の期待する反応とは裏腹に、重雄と琴子が二人して笑い出した。

「何?何を笑っているの!?」

おそらく今も目一杯怒っているつもりの悦子は、二人を見比べる。
しかしこの童顔で腰に手を当ててもそれはちっとも様にならず、重雄は笑いを堪えられない。
琴子はただ父親が笑うのが楽しくて笑っているようだった。
相原家ではよくある朝の光景である。


「じゃああなた、琴子をバスのお迎えのところまで送ってきますから」

「おう、頼むな」

「琴子、ちゃんとお父さんに“行ってきます”言った?」

「あ・・・、いってきまーす!」

思い出したように琴子が言った後、二人は手を繋ぎ玄関へ向かおうとする。


「そうだ、琴子」

それを重雄は呼び止めた。

「なぁに?おとうさん」

「なぁ琴子。お前はいい子だよな?」

「ん?うーん・・・、いいこだよ?」

「そうだな。お父さんもお母さんもそうだって思ってる」

重雄は頷きながら跪くと小さな琴子に目線を合わせた。

「今日な、琴子が幼稚園から帰ってきたら素敵なプレゼントをあげるよ」

「すてきなプレゼント?」

「ああ。でも何かはまだ内緒だ」

笑いかけてくる父に琴子は首を傾げていたが、やがてコクリと頷き、「うんっ!」と明るく笑った。

「じゃあな、琴子。いってらっしゃい」

「いってきます、おとうさん!」

元気な声で今朝三度目の『行ってきます』を言った琴子は、悦子の手をとるとぎゅっと握った。悦子はそんな娘に優しい目を向ける。

「じゃああなた」

「ああ」

短いやり取りの後、悦子は小さな琴子の手を引き玄関と扉の向こうに出た。

「・・・さて、今日はおれもついて行くかな」

家に一人となった重雄は部屋に戻ると、敷いていた布団を押入れに片付け、顔を洗った。
着替えを済まし、悦子が用意していた朝食をとるべくテーブルにつく。

「・・・今日はしょっぺぇなぁ・・・」

重雄は味噌汁を啜りながら眉を顰めた。
料理の苦手な悦子が毎朝用意する食事は、味付けが薄かったり濃かったりとまちまちだ。
これでは料理人として味覚がおかしくなってしまうのでは思う事も無きにしも非ずなのだが、重雄は悦子の用意する食事をいつも全て平らげる。

「これでも、少しずつ上手くなってるんだよなぁ・・・」

漬け方を教えてやった後、欠かさず出されるようになった手製の漬物をかじると白い飯がよくすすんだ。




「あら、あなたもう起きたの?」

やがて琴子を見送った悦子が帰ってきた。
子供達がスクールバスに乗った後、悦子は近所の母親同士で少し話し込むので、重雄はもうとうに食器を洗い終え、新聞に目を通していた。

「ああ、今日は検診に行くって言ってたろ?」

立ち上がり、「もう出ないと遅くなるぞ」と促す。

「あ・・・、あの」

「なんだ?」

「もしかして・・・、ついて来てくれるの?」

悦子はポカンと目を見開き重雄を見つめながら言った。

「当たり前だろう」

重雄は二カッと笑むと悦子の髪を撫でた。

「おれ達の子供が元気に育っているかを教えてもらいに行くんだ。どうして家で留守番なんてしていられる?」

「・・・ありがとう、あなた」

悦子は微笑むとそっと重雄の胸に寄り添った。


「今日検診から帰ったら、琴子にも言おうな」

「そうね。あの子もとうとうお姉ちゃんになるのね」

また胎内に新しい生命が宿っているからだろうか。
重雄の眼に悦子の笑顔はどこか神々しくさえ見えた。




********




後に振り返ってみた時、病院があれほど無機質で冷たく見えたのはあの日が初めてだったと重雄は思う。


「な、なんですって・・・・・・!?」

二人訪れた産婦人科の診察室で、悦子と共に医師の言葉を聞いた重雄は思わず叫ぶと立ち上がった。ガタッと椅子がひっくり返る鈍い音が響く。

「そ、そ、そんな・・・・――」

「・・・悦子っ・・・!!」

呆然と呟き、がくんと体勢を崩してまった悦子を重雄が慌てて支える。

「悦子!悦子!」

「相原さん、落ち着いて!」

医師は悦子を揺さぶる重雄を引き剥がした。悦子は青白い顔をして目を瞑ってしまっている。

「・・・気を失われてしましたか。今日はご主人がついていて良かった」

医師はその後きびきびとナースに指示を与え、悦子を傍のベッドに安静に寝かしつけると「先程の話を」と重雄にもう一度向き直った。


「まだはっきりとは分かりません。が、早急に精密検査する必要があります。そして万が一の場合は然るべき措置をせねばなりません」

「し・・・、然るべき措置って・・・・」

「悪性腫瘍の場合、進行状況によって変わってきます。場合によっては、子宮を摘出しなければならないこともあります」

「つ、つまりそれは――」

「― 妊娠は望めなくなります。今お腹にいる胎児も諦めねばなりません」

「・・・そんな・・・――」

それまでふんわりと暖かい陽だまりだったような世界が暗転するのを重雄は今、まさに体感したのだった。



それっきり後の事を、重雄は今思い出そうきちんと思い出せない。
気を失った悦子がどのように目覚めたのか、
医師が再度説明する際の表情、
その後どんな風に帰途についたのか――、全てが薄い幾重ものフィルターにかけられたようにぼんやりとしている。

ただ事実として、立たされた状況は認識していた。
まだ妊娠10週だった悦子の定期健診の為に病院を訪れると、先々週の検診の際の子宮頸がん検診の結果が出ていると言われた。
そして医師の説明を聞くと、思いがけず悦子の子宮細胞に癌と想定される陽性細胞が見つかったと知らされた。

今後は早急に精密検査をせねばならない。そして癌と診断されたならば、その臨床進行期(ステージ)により対応が変わってくるのだという。
まだ初期のステージならば、手術後妊娠継続も可能らしいが早産・流産の可能性が高い。
そして進んでいる場合は、子宮摘出もありえるのだという―。





「なんでこんな事に・・・」

帰宅後、悦子は呻くように呟くとそれきり顔を覆った。

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・――」

「・・・馬鹿っ・・・!―― 謝る奴がいるか・・・・!!」

重雄は悦子の言葉を遮るとその身体をきつく抱き寄せる。
肝心な時、人とはいかに無力かというのを知らされる。
然し今、自分が支えなければどうなるのか。重雄を自らを奮い立たせた。


「・・・悪い方向にばっかり考えちゃいけねぇ。とにかく前を向こう」

重雄はゆっくり腕の力を緩めると悦子の目を覗き込んだ。

「先ず検査して、それからやるべき事をするんだ」

「もし・・・、進行していたら・・・・・・?」

悦子の瞳の中の自分の姿が揺れる。
場合によっては子宮を摘出するという事は、今胎内に宿っている生命を失うという事である。
そして言わずもがな、今後もう子供は望めない――。

「悪い方向にばかり考えると現実になっちまうぞ。ほら、もう泣くな」

「でも・・・」

「悦子、お前先生の話を聞いてなかったのか?そんな可能性は物凄く低いって言ってたじゃねえか」

「そうだけど・・・」

悦子の表情は相変わらず曇ったままだ。


「もし――、そんな事がおれ達の身に起きたら、それはもう受け入れるしかないだろう」

そんな事は考えたくもないが、重雄は毅然として答えた。

「悦子、今こんな事を言っては不謹慎だとは分かってるが聞いてくれ。あのな、幾ら誰にどう言われようと、おれにとっては何よりもまずはお前の命だ大切なんだ。だから万が一そんな場合が訪れれば――、おれはお前をとる。それは覆らない」

「あなた・・・」

「悦子と琴子が傍にいる。おれにはそれで十分だ」

微笑む重雄に悦子はとうとう号泣した。




「琴子への約束、果たせないわね・・・」

漸く少し落ち着いた時、悦子が呟いた。
時刻は午後2時を少し過ぎていて、もう直ぐ琴子が幼稚園から帰ってくる頃だった。

「あの子、妹でも弟でもどちらでもいいから欲しがっていたのに」

今日の検査で発育が良好ならば、お腹の中にいる子の事を話そうと思っていたのだ。


「ちょっとおれ、ひとっ走りしてくるわ」

すると重雄が立ち上がり自転車の鍵を取った。

「あなた、どこに行くの?」

「・・・誤魔化す事になっちまうけどな」

首を竦めると重雄は、直ぐに戻ってくるからと言ってあっという間に家を飛び出したのだった。





「わぁっ!かわいいクマさん!!」

重雄が背中に隠した物を「じゃん!」と言って出した時、琴子は円らな眼をキラキラと輝かせて弾んだ声を出した。
重雄が急場しのぎに用意した物――、それは真っ白なクマのぬいぐるみだった。
手渡されたそれはまだまだ小さい琴子の背の半分以上はあって、抱きしめると琴子の顔はすっぽりと見えなくなってしまう。

「気に入ったか?」

「うん!」

「そうか。良かったな」

無邪気にぬいぐるみにじゃれる琴子に、重雄も悦子も気分が紛れそっと微笑んだ。

「でもどうしてきゅうに?きょうあたし、たんじょうびじゃないよ?」

「んーー、そうだな。でも琴子、毎晩お母さんと二人でお留守番してくれているだろう?」

だからそのご褒美だといった重雄に、琴子は満面の笑みを浮かべ頷いた。

「だいじょうぶだよ、おとうさん。あたし、おかあさんとちゃんとまっているから、だからおとうさんはがんばっておしごとしてね」

「琴子・・・」

重雄の声が思わず上擦る。
いつから琴子はこんな聞き訳が良くなったのだろうか。

― なんでいつもおとうさんは夜いないの!?

重雄が開店準備の為に家を出る時、少し前までは大騒ぎだった筈なのに。


「なぁ、琴子」
と重雄は朝と同じようにまた跪く琴子と目線を合わせた。

「これからお父さんが居ない時、お母さんを頼むぞ?何せお母さんはドジの天才だからな」

「ちょ・・・っ、あなた!」

「うんっ!まかせて!」

顔を赤らめる悦子の傍から、琴子はにっこり笑うとピースサインを作った。
よし、と重雄も同じサインを作る。

「・・・頼むな。琴子」

重雄は琴子の頭に手を添えると微笑んだ。

― 大丈夫。そんなに悪い方に話が進む訳がないさ・・・。

自らに言い聞かせながら、拡がる不安の渦を重雄は見てみない振りをした。





此処まで読んでお気を悪くされた方が居ましたら申し訳ありません。

病気の知識のない私が、余りよく調べずに(少しは調べたのですが、いえ、調べたうちに入らないかも・・・)こういう話を書くのは避けるべきとは承知していますが、悦子の話に触れるとなるとなかなか避けられず・・・、成るべく夫婦の関係として書いているという事でご了承頂ければと思います。
色々な点においてつっこみどころが多いと思いますが、大目に見ていただければ幸いです。


後編も成るべくさくっとUPします。

スキマ未設定(短編)  コメント(1)  △ page top


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::コメントありがとうございました
紀子ママ様

このような作品にも心温かいメッセージをありがとうございます!
幼い時に母を亡くした琴子がどうしてあんなに性格良く育ったのか、それは重雄の注いだ愛情は勿論ですが、紀子ママさんが仰るとおり悦子と重雄が沢山愛し合い、悦子が生存している時に琴子へ愛情を注いだからなんだと思います。
そこの所を創作にしっかり反映出来ていたらいいのですが・・・どうも力不足だった気がしてなりません(>_<)それでも宜しければ後編もまたお付き合い下さると大変嬉しいです!
chan-BBさんの作品、素晴らしかったですよね。その作品に加えて私は「ドロップ」も思い出しておりました(*^_^*)


まあち様

ああ、そうでした。ミスとんぶりでしたよね!
お料理が下手だった所は創作に盛り込んだんですが、そこは入れられなかったなぁ・・・惜しい事をしました(^^;)
まあちさんも仰るように、琴子ちゃんってほんと幼い頃にお母さんを亡くして、しかもお父さんも夜いないという難しい環境だったのにとても性格良く真直ぐ育っていて・・・。きっと愛情一杯の家庭で育ったのかなと思いながら書いてみました。
後編はもう言うまでも無く辛い未来が待ち受けているのですが、宜しければまたお付き合い下さいね。いつもありがとうございます(*^_^*)



匿名希望様

「約束」と合わせてのコメントありがとうございました(*^_^*)
「約束」は実は昨年のイタキス期間中、「交差点」を書いたあとに発表しようとしていたんです。でも結局間に合わなくて、今回は間に合うように書くぞ!と意気込んだのですが・・・また失敗しちゃいました(^_^;)
でもその当時は入江くんとの「約束」だけを書く予定でしたので、この予定の狂いは無駄ではなかったと・・・思いたいです(笑)
(先程「つもる」の後編もUP出来たことですし、漸く②に入っていけそうです(^m^))

そして「つもる」。
やはり悦子の生存の頃をはっきり書いた作品って今までなかったですよね。まさか私もこんな創作をするとは、つい先日まで思ってもみなかったです。
でも密かに今まで書き溜めてきた「身長」のクマや「ミルクティー」の流れ、それから「夕立にドット・・・」のエピソードをさりげなく(私なりに)組み込みつつ紡いでみました。って、とっても自己満足なのですが・・・(>_<)
悦子が琴子ちゃんに遺してあげたもの・・・という意味では匿名希望様のご期待を裏切ってしまった気がしてなりません。ですが精一杯心を込めて書かせて頂きましたので、またお時間のある時にお立ち寄り下さい。
この度はありがとうございました!

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