0312345678910111213141516171819202122232425262728293005

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

電信柱さん 3

拍手御礼画面の再掲です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



今日もわたくしの好きでない夜が訪れました。
頭上の電線からはいつものように仲間の電信柱からのSOSが発信されています。



「助けてくれ~~。くそ~~、今日もまたやられたよ~~~!ああもう、臭ぇぇぇ。ほんともうやってらんねぇぇぇ・・・」


繁華街の任務に当たっている彼は頻繁に吐瀉物の被害にあっているのです。
ご愁傷様ですとわたくしは彼にお見舞いの言葉を申し上げます。



さて、わたくしはというと以前もご説明した通り、高級住宅街を担当しています。
電信柱内では羨望の的の勤務地です。
ですからこの友人のような被害にあう事は稀。
わたくしの直ぐ近くを担当する電信柱仲間も、それはとても幸運だったと言っています。
然し今夜、珍しくその中の一人から苦悶の声が聞こえてくるではありませんか。



「ああ~~嘆かわしい。あたくしの足下でこのような・・・っ!こんな子供がお酒を飲むなんて言語道断ですわ!良い成りをしたマダムまで一緒だったというのに、どうして此処まで飲ませたりしたのかしら・・・・っ!?」


彼女はゲホゲホ咽せながらもけっこうしっかりと文句を並べます。


「どうしたのですが、何がありましたか?」


尋ねると、どうも二十歳に満たないと思わしき女性が、マダムと一人の男性(ハンサムなのだという)、そして小学生に取り囲まれて彼女の足下に蹲っているのだと言います。


「商売とはいえ客を選べないのは辛いわよね。あの運転手さん、もしかしたら山羊座かしら?山羊座は今日の運勢最悪なのよ」


近頃星占いに夢中な彼女はそう言いました。
あの、電信柱に星座とか関係あるのかという疑問はどうかお気になさらず。


とにかく彼らが乗車していたタクシーはその女性に一発お見舞いされたらしく、マダムから清掃代を貰うと早々に退散したのだとか。
つまり友人が嘆いているのは足下に吐瀉物をばら撒かれたからではなく、こうなるまで飲んだ若い女性を非難しての事なのでした。


「ああ、漸く立ち上がりましたわ。でもとても一人では歩けないみたい、男性がおんぶしてあげるようです。本当、やれやれですわね」


彼女はそう言うと、そのうち一行がわたくしの方へと歩いて来るだろうと言いました。




おや・・・・?


暫くすると暗闇でも察知できるわたくしの愛の力が此処に来て発揮されました。
もしや彼方より見受けられるそのお姿は、わたくしが恋して止まない琴子さんではありませんか・・・!

嗚呼なんという事でしょう。彼女の言っていた若い女性とは琴子さんだったのです。
琴子さんは入江直樹の背で苦しそうな表情を浮かべていました。



「ったく、女のくせしてみっともない・・・。僕まで気分が悪いよ」


入江直樹の隣で青ざめているのは彼と歳の離れた弟、入江裕樹です。
まだ幼い彼にこの状況はきつかったのでしょう。



「こら裕樹、琴子ちゃんを悪く言わないの。つい飲ませすぎちゃった私達がいけなかったのよ」


然し入江重樹様の奥方であり、且つ入江家の最高権力者である紀子様は裕樹を嗜めると琴子さんに「大丈夫?琴子ちゃん」と優しく声を掛けました。


「ご、ごめんなさしゃい・・・。ひりえくん、明日試験らのにあたひったらこんな・・・。ほんろ疫病神れす、謝っても謝りきれましぇん・・・」


するとまだ呂律のの回らない琴子さんは涙目で謝るとぐすっと鼻を啜りました。


「いいからもう黙れ、また気分悪くなるぞ」


と、淡々とした口調で琴子さんに忠告するのは入江直樹。


「う・・・っ、その通りかも」
「ほら、言わんこっちゃない」


苦しそうな声を出す琴子様に呆れきったように深い溜息を吐くと、入江直樹は紀子様と裕樹に先に帰宅するよう促したのでした。




「ひりえくぅん、ほんとにごめんなしゃい・・・」


背中から下ろされ、わたくしの傍の壁に身を預けながら琴子さんは潤んだ眼で入江直樹を見つめます。


「明日ひりえくんがT大に試験を受けに行ったら、そひたらもうこれからは一緒の学校に通えなくなるんらなって思ったら、つい飲み過ぎちゃっらの・・・・」
「分かったよ。だから少し大人しくしてろ」


入江直樹は眉間に皺を寄せながら琴子さんの背中を擦ってやっていました。




「お前、そんなにおれと同じ大学通いたいの?」


琴子さんの顔色が少しばかり良くなった時、入江直樹がポツリとそんな事を尋ねました。
聞かなくても分かっているであろうに。


「行きたいよ・・・。ひりえくんと同じ景色を見て、色んな事感じながら過ごひたい。ひりえくんが何か将来の夢を見つけた時は、一緒に手を取り合って喜び合いたひ・・・」
「・・・ふぅん。まぁ、例え何か見つけられたところで、お前と手を取り合って喜ぶなんて事は無いけどね」


入江直樹はそう応じると切れ長の眼をオリオン座の輝く空へと向けました。



「ひりえくぅん、ひりえくんはこの星空みたいに無限の可能性を持ってひるんだよ」


すると琴子さんが入江直樹のコートの袖をきゅっと掴みました。


「だからきっと何か見つけて。その為なら、寂しくてもあたひ応援するから・・・」


また涙声になる琴子さんに、入江直樹は「この泣き上戸」と冷たく言いましたが、それでも手を振りほどく事はありませんでした。






「・・・あ、雪・・・・?」


暫くそうしていると、空からちらちらと白いものが落ちてきました。
どうりで今夜は冷えると思っていたのです。



「そろそろ大丈夫そうだな。行くぞ」


入江直樹はそういうとしゃがみこみ「ほら、乗れよ」と手を出しました。


「あっ、もう大丈夫。自分で歩けるよ」
「つべこべ言うな。ほら、早速よろめいてるじゃねーか」


辞退しようとする琴子さんを半ば強引に背負うと、入江直樹はゆっくりと歩き始めました。


「ありがとう。・・・頑張ってね、明日」
「・・・。」
「聞こえてる?」
「・・・はいはい、聞こえてるよ」


琴子さんの言葉に面倒そうに応じつつ、彼の顔は何かとても考えている風にわたくしには見えたのでした。





後日、わたくしは入江直樹がT大を受けず斗南大に進学を決めた事を知る事となりました。
この出来事は彼らが通う高校ではとてもショッキングなニュースとして報じられたとか。
入江直樹が進路を決めた理由については色々な憶測が飛び交ったようですが、それが間違いなく琴子さんを起因とするのは、あの夜入江直樹をずっと観ていたわたくしには断言出来ます。



「確かにお前が居たら刺激があって、大学生活も飽きないかもね」


自分で歩けるといったのに、背負われて直ぐに瞼を閉じた琴子さんを見て取った入江直樹はそう言うと少し優しい眼をしたのでした。


わたくしが思い出す限り、彼がそんな眼をするのを見たのはあれがはじめての事だったと思います――。


テーマ:二次創作:小説
ジャンル:小説・文学

プロフィール

ぴくもん

Author:ぴくもん
ご訪問頂きありがとうございます。
こちらは漫画好きの管理人・ぴくもんの創作ブログです。
各ジャンルの原作者様、著作権者様・出版その他関係者様等とは一切関係ございません。
原作のイメージを大切にされる方や二次創作を理解されない方、不快に思われる方は、此処でお引き返し下さい。
拙い作品ばかりですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


詳しくはこちらをご参照下さい。

カテゴリ

最新記事

online

現在の閲覧者数:

LINK

◆日々草子 (水玉様)

◆kiss shower (幻想夢 影菜様)

◆ 玉響のキセキ (ほろほろ様)

◆イタズラ★Days (ha様)

◆こんぺい糖と医学書 (千夜夢様)

◆Embrasse-moi (えま様)

◆ぼんやり日記 (よもぎ様)

◆雪月野原~snowmoon~ (ソウ様)

◆HAPPY☆SMILE(narack様)

◆*初恋*(miyaco様)

◆みぎての法則(嘉村のと様)

◆φ~ぴろりおのブログ~(ぴろりお様)

◆真の欲深は世界を救う(美和様)

◆むじかくのブログ(むじかく様)

◆つれづれ日和(あおい様)

◆イタKiss~The resident in another world ~(九戸ヒカル様)

◆Snow Blossom(ののの様)

素材拝借サイト様

Dolce様

空に咲く花様
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。