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::Is this that answer?
昨日、梅雨明けが気象庁から発表された。
平年より10日も遅い宣言だったが、ここ数日は日差しが痛いほど照りつけ、その灼熱は間違いなくもう夏がやってきている事を示している。

大学が夏期休暇になった後直ぐにあった合宿を終えて帰宅すると、母である紀子の独断で家の増築が始まっていた。
それはつまり、相原家との同居が半永続することを示し、そして琴子とまた一つ屋根の下暮らす事を意味している。

勿論母の横暴さには激昂したし、彼女にこんな突拍子もない行動を取らせた原因が、自分が琴子とキスをした所為だと分かった時には呆れ果てた。

たかが、キスである。どうって事はない。そんな事で自分の将来を勝手に決めようとする母にはうんざりさせられた。
しかし、その後無理矢理に参加させられたふぐ吉での再同居祝いで、金之助にその事を追及された時には、あの卒業式の日、突然のキスに目を丸くして驚いていた琴子が可愛く感じた事を素直に口にしていた。

・・・最も、周囲には金之助を挑発する為だけに発された言葉として受け止められていたが。


今日、直樹は紀伊国屋で予約していた専門書を受け取りに渋谷へ来ていた。
特段それ以上の用事はなかったので駅へ向かう。

夏休みを迎えたこの街は、地元の人間や地方から観光に来る若者で溢れ返っている。夏の解放感からか、一層熱気を増すこの街から早く抜け出すべく、直樹は足を速める。

改札口前で、切符を買おうとしていると、もはや誰よりも判別できるようになってしまった舌足らずの明るい声が聞こえた。



「あれぇ。入江君?珍しいよね、こんな所で会うなんて。今から家に帰るところ?」

振り向くと、琴子が鞄の他に大きな紙袋を2つ持って,大きな瞳をさらに大きくして立っていた。


「頼んでた本を受け取りに来たんだよ。・・・お前こそ何、その大荷物」

「ああ、これね。ほら、今日からセールが始まったから、理美とじんこと一緒に行ってきたの!へへ、いっぱい買っちゃった♪」

「また、安物買いしたんじゃねえの」

「そ、そんなことないわよ・・・・!・・・ちょっと浮かれすぎたかな、とは思うけど・・・」

「バーカ」

直樹は販売機から出てきた切符を手に取り、さっさと改札機に通してホームへ向かう。

「あ・・・、待って!一緒に帰ろうよ!!」
琴子も慌てて切符を取ると、直樹の背中を追いかけた。


琴子が急いで階段を駆け上り直樹の背中に追いついた時、丁度電車がホームに入ってくるとアナウンスされた。
日が沈むにはまだ早い時間。しかし太陽は確実に西に傾いて来ていて、ホームに立っている者を横から照り付けている。


「まったく、今日は一段と暑いな・・・」
直樹はTシャツの上から羽織っていたシャツを無造作に脱いだ。

「本当、梅雨が開けた途端お日様の照りつけ方が急に変わった気がするよね。でも私はほら、ノースリーブだから涼しいよ♪」
琴子は得意げに自分の腕を見せてくる。

直樹はチラリと琴子の全身を見た。
盛夏の暑さに加え、セールで試着する事を考慮に入れて選んだらしい琴子の服装は、襟元が大きく開かれたカットソーにミニスカートといういで立ちだった。

「えらく露出のある格好だな。ま、お前の幼児体型なんて誰も見やしないだろうけど」

「なっ・・・・・」
琴子は直樹に露出を指摘された事への羞恥と、体型を馬鹿にされた怒りで言葉に詰まるが、ドアが閉まるとのアナウンスに慌てて車内に乗り込んだ。


中途半端な時間であったため、もう少し時間が経てば混雑するであろう車両も今は座席が空いてる。

「ほら、お前は一番端へ行け」

琴子は直樹に促されるまま壁際の席に膝の上に紙袋を抱え込むようにして座った。
直樹はその荷物を取り上げ網棚に乗せる。

「こんな大荷物邪魔だろ。ったく、買い過ぎなんだよ」

「ご、ごめんなさい。・・・・ありがと」



電車が発車し、直樹は買ったばかりの本を取り出す。

「あ、入江君は本を買ったんだ。・・・また難しそうだね。何の本?」

「お前に言っても分からないだろ。これから読むからもう話しかけんなよ」

「・・・は~い」

詰らなさそうに返事をしてからもチラチラと直樹の様子を伺っていた琴子だったが、買い物の疲労感からか頭がこっくりこっくりとし出し、やがて壁に頭を預けるような形で居眠りを始めた。その様子を直樹はチラリと横目に見やると、再び本に集中した。



電車が進むにつれて、車内が込み合って来て直樹や琴子の前にも人が立つ。
何駅か進んだ時、前に立っている者たちの会話が直樹の耳に入って来た。

「どうよ。見える?」

「ああ。いい感じ」

妙な会話に、直樹は前に立っている者たちの足元を確認する。
揃いのチェックのパンツにローファー、足元には着替えが入っているのであろう大きな鞄。どうやら部活帰りの高校生らしい。
そしてこの会話・・・ 直樹は琴子を横目で素早く確認した。相変わらず気持ちよさそうに目を閉じたその顔から視線を下ろしていくと、深く開いた胸元が少しはだけている。男子高生の会話はどうやらこの事を言っているらしい。

ふと数日前目にしたバスタオル姿の琴子を思い出す。本人にも遠慮なしに言ったが全く色気のない体型。下着も大学生とは思えぬ幼さ。一体こんな奴の胸元を覗き込んで何が楽しいのか。
でも、気付いてしまったキメ細かい肌。その肌は、風呂上がりで火照って、ほんのり赤く上気していた――

「・・・・・」
直樹は膝に置いていた自分のシャツを手に取ると、琴子の上半身を覆うようにする。
素肌にあたる少し硬い生地の感覚に反応したのか、壁にもたれるようにしていた琴子の頭がビクッとして真っ直ぐになったかと思うと今度は反対方向に傾き、そのまま直樹の肩に頭を乗せるような形になった。
直樹はそれを追いやろうとはせず、そのまま本を読み続ける。
頭上では男子高生がヒソヒソトこちらに聞こえぬよう話しているのが伺えた。やがて電車が次の駅で止まると、彼らは降りて行った。

琴子は相変わらず無防備な姿で眠っている。密着している琴子の身体は冷房の利いた車内で冷えていた。
ミニスカートから伸びた脚も、鳥肌が立っている。

琴子からは、彼女が愛用しているシャンプーのバラの香りがする。長い髪がさらさらと落ちて直樹の腕を擽った。

――こいつはどうして何もかも甘ったるいんだ・・・・

直樹はバスルームに再び置かれるようになったシャンプーのボトルを思い出す。

共に暮らした1年と少しの間に増えた琴子の所有物が一度全て消えた時、妙な感慨を覚えた。
そして、再びそれらが目の前に現れた時、どういう訳か心が落ち着いた。

・・・一体この気持ちは何なのか。

琴子と出会い関わるようになってからというもの、直樹は何度も経験した事のない感情に振り回されている。
例えば琴子と須藤が仲良さそうに話しているのを見た時に沸いた苛立ち。・・・そして卒業式の夜、自分を好きなのをやめると琴子に言われた時の衝動。
この感情は、どんな言葉で表現すれば良いのか。
数多くの書籍を読み、豊富な語彙がこの頭の中には刻まれているはずなのに、直樹には適当な言葉が思い浮かばない。


自宅最寄りの駅に着く少し前、琴子が漸く目を覚ました。

「ん・・・あ、ご、ごめんなさい・・・!私ったら寝ちゃってて。あの・・・ずっと入江君の肩に頭乗せていたの?私///」

「ああ。お陰で肩が凝って仕方ねえよ。ったく、重い頭だな」

「そ、そんな言い方しなくたって・・・。・・てあれ、これ入江君のシャツ・・・?」

「電車の中は冷えるんだよ。羽織るものぐらい用意しておけ」

「う、うん。・・・実は寒いなって思ってたの。――ありがと」

「・・・バーカ。ほら、着いたぞ」
直樹は立ちあがると網棚から荷物を下ろしてさっさと降りて行く。乗り込んだ時と同様、琴子はそれを小走りで追いかけた。


「は~、冷たい場所から外に出ると 、身体がほわぁっとするよね。なんか解凍されていく感じ」
琴子が軽く伸びをしながら無邪気に話しかけてくる。

背後を子犬のように無邪気についてくる姿は、鬱陶しい気もするが、今は邪険に追い払えない。

――ったく、何なんだろうな、この感情は・・・

苦手だけど、傍に居ても嫌じゃない。寧ろ居ないと妙にイライラする。
神なんて存在が本当に居るのだとしたら、彼は一体自分に何を試そうとしているのだろう。

・・・そうか、これが所謂試練ってヤツなのかもしれない。

直樹は後ろを振り返る。
そこには今にも落ちそうな夕日に照らされて瞳をキラキラとさせている琴子の姿。



「ねえ入江君、隣、歩いてもいい・・・?」
遠慮がちに、でもとびきり幸せそうな声音で聞いてくる。



返事代わりに、直樹は大きな紙袋を車道側の手に持ち直した。





少し趣向を変えて、青臭い入江君を書きたくなりました(^^)


4巻スキマ  コメント(5)   トラックバック(0)  △ page top


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::コメントありがとうございました!
さわ様

こんにちは。なつかしいお話を読んでいただけて嬉しかったです。ありがとうございます(*^ ^*)
圧倒的に結婚10巻以降のお話が多い当サイトですが、この頃の入江くんが実は大好きだったりもします。
拙い文章の中に微妙なにおいや温度を感じて下さったんですね。この微妙な時期の入江くんの体温なども感じていただけたなんて最高です!!
よろしければまた遊びに来てください♪ありがとうございました。
編集 △ page top
::拍手コメントありがとうございます!
F様

こんにちは♪コメントの御礼が遅くなり申し訳ありません。
結婚後のLOVE×2な2人を妄想で肥大させて書いていたので
自分でお腹いっぱいになってしまいまして(苦笑)結婚前のお話を書いてみました。
入江くん、この時期青臭いですよね(笑)
でも、この微妙な心境の時期にも、彼なりの素直な気持ちを吐露しているシーンが色々あって、それもまたファンにとっては堪らないです(笑)
またそのあたりの話も少しずつ書ければいいな~、と思います。


R様

こんにちは♪御礼が遅くなり申し訳ありません。
このお話、松本姉とデートする前日を設定して書きました。『苦手だけど嫌いじゃない』を認識した瞬間みたいなイメージです。でも、まだ須藤さんとの仲を疑ってるから、少々意地悪な入江君。
デート当日、真相が分かって素直に琴子にその気持ちを告げたのかなぁ、なんて。
リアルにありそうと仰っていただいて嬉しいです!!


N様
こんにちは♪御礼が遅くなり申し訳ありません。
N様はこちらの入江君のほうがお好みですか♪ N様の仰る通り、苦手なのはこのはじめて味わう感情なんですよね!
とんだ鈍感さん(笑)
でも、このまどろっこしい期間が長かった分、思いの通い合った時の感動は特筆ものだったんですよね~。
編集 △ page top
::コメントありがとうございます!
繭様

こんにちは♪コメントありがとうございます!
入江君がいつから琴子を好きになったのかは、はっきりしない分読者の憶測を呼びますよね。
多田先生も、コミック巻末のインタビューで、はっきり分からないって仰っていますよね。
4巻のまさにこのお話の時期かなぁ、とそこでは書かれていましたが、後に書かれたエピソードで琴子に卒業式の夜「好きじゃなくなる」って言われたときが意識したときだと入江君が言ってますので・・・謎は深まるばかり(苦笑)
でも、それがまた楽しいんですけどね♪

題名にまでコメント頂いて嬉しいです!
いつも、書き終えた後に浮かんだものをぱぱっと付けている感じなんでお恥ずかしいです(笑)
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::
琴子が気になるけど、まだ自分の気持ちに気付かない入江君…いいですネ~。原作を読んでも、いつ自覚したのか、謎ですもんね。もし原作者の多田かおるさんが生きていらしたら、いつかは入江君の口から告白してくれたかもしれませんが…でも、だからこそファンの間では色々なanother storyが生まれるのでしょうね…
P.Sぴくもんさんの英語のタイトルも、訳すのがたのしみです。久々に辞書を引いて感嘆しております。
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::拍手コメントありがとうございます
M様

こんにちは♪早速のコメントありがとうございます!!
LOVE×2のイリコトばかり続いたので、気分転換に書かせていただきました。この時期の入江君もいいと言っていただけて良かった~!!需要が無い気がしましたので・・・(笑)
M様、紀子ママ化してるなんて、いいじゃありませんか!!こんな楽しいお母様大好きです♪♪でも、息子様は困ってしまうのかしら(笑)
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