::彼女が水着に着替えたら -高校生編・番外 4-
夏の始まりからスタートさせたシリーズでしたのに、気が付けばもう9月・・・(>_<)
いつもいつもこれを申し上げるのは心苦しいのですが・・・、遅くなり大変申し訳ありませんでした!!

「こんな季節外れの話、もういらねーよ」と思われるかもしれないですが、良かったらお付き合い下さい。
何度も申しておりますが、基本最初から最後までアニメ版と同じ展開です。
然し色々都合の良いように捏造しております。

また、最後は短めと予告しながら一番長くなってしまいました。
そのため其々はやや短めですが、2話に分けさせて頂きました。
5話(終)は今夜遅くなるかもしれませんが、見直した後直ぐにUPさせて頂きます。重ね重ねすみません。
どうかお暇な時に宜しくお願いします。
・・・・・・・・・・・・・・・







「ちょっ、危ないな!」

「すみません!」

幾度そんなやり取りを繰り返しただろう。
秩序無く人の往来のあるプールサイドを直樹は脇目も振らず駆けた。
通行人にぶつかりそうになるの際どいところで避ける。
たまたま耳にした溺れた子供が裕樹だとは限らないのに。否、分からないからこそ必死になってしまうのか。
その様子は普段沈着冷静な直樹からはとても想像できない姿。

「・・・なにかあったのかな?」

「さぁ・・・」

すれ違った人々は思わず振り返って直樹の背中を目で追ってしまう。




目指す水深の深い大型プールは施設の端に位置していた。
先程まで裕樹が遊んでいた子供用のプールは売店からその途中地点にある。
直樹は一旦其処で立ち止まるとぐるりと周囲を見渡した。
前方、後方、右、左。
だが残っているのは裕樹が午前中に流れるプールで使っていた浮き輪だけで、置き去りにされたそれは先程直樹が読書していたデッキの脚元に所在無さげに転がっている。
裕樹の姿は何処にもない。

(くそ・・・っ!)

直樹はいよいよ焦りの表情を浮かべ再び走り出した。
思いつくのはひたすら良からぬ想像ばかりで、額には暑さの所為ではない汗が浮かぶ。
そうして漸く大型プールが遠目に見えてきた時、直樹はプールサイドの一角に金之助と理美、じんこが固まってのに気付いた。
直樹に背中を向けるように立っている彼らは揃って中腰で前屈みになっていて、どうやら何かを注視しているようである。が、それが何なのかは此処からは見えない。ついでに言えば琴子の姿も見えない。

(あいつら、何をしている・・・?)

直樹は少し疑問に思ったものの、直ぐに彼らから視線を外そうとした。今はそんな事に構っている場合ではない。
だが、その時だった。
何やら大きな身振りで話していた金之助が少し身体を動かし、それまで見えなかった奥の景色が広がる。

(――― !!)

その瞬間、直樹は大きく息を呑むと足を止めた。
直樹の視線の先――、其処には少し顔色の悪い裕樹が座りこんでいた。
そしてそんな裕樹に向かい合うようにぺたんと座っているのは、ネイビーのスクール水着がやはり妙に目立つ琴子。
プールに遊びに来ている為、高い位置でポニーテールに結われた琴子の髪は水中に潜ったのか濡れそぼっていた。同じく先程までふんわりしていた裕樹の頭も全体的にびしょびしょになっている。
二人の姿は直樹に二つの事を確信させた。
溺れた子供というのがやはり裕樹だった事を。
同時に彼を助けたのが琴子であった事を。

「・・・無茶しやがって・・・」

それは一体誰に対して向けられた言葉だったのか。
判然としないが、直樹は搾り出すようにそう呟くとフゥと大きく息を吐いた。
不意にそれまで無音だった耳に水しぶきの音や人の歓声、蝉時雨が戻ってくるのを感じる。
十数メートル先では、琴子がしょんぼりと項垂れる裕樹の頭をやさしく撫でながら微笑みを浮かべていた。

『良かった、無事で・・・』

琴子の唇の動きを読みながら、直樹は自身も心の中で同じ事を思ったのだった。







「― 裕樹」

「「あっ 入江くん!」」

「入江ぇ!」

直樹が金之助たちの背後から声を掛けると、彼らは一斉に振り返り大きな声を出した。

「おう入江、やっと戻ってきおったか。ったく、こないな時に悠長なこっちゃのぉ!?」

開口一番、事情も話さず直樹に絡む金之助の頭をじんこが「ちょっと、いきなりやめなって」と小突く。

「入江くんはまだ何も知らないんだから。それにさっき聞いたでしょ?入江くんは弟くんにアイスを買ってきてあげる為に席を外していたのよ」

「せ、せやかて」

「そうよ、金ちゃん。金ちゃんが喋るとややこしくなるから、今はちょっと黙ってて」

「ちっ しゃーないな。分かったわ、黙ってりゃええねんな!?」

琴子の片思いを知りつつも、決して普段は直樹贔屓でない理美にも厳しく口出しを遮られた金之助はムスッとしながらプールサイドに胡坐をかく。

「あのね、実はあなたの弟、さっき此処のプールで溺れたのよ」

理美は改めて直樹に向き直ると事の次第を分かる範囲で説明した。
その内容は直樹が推測したのとほぼ同じで、皆で遊んでいると不意に琴子が後ろを振り返り、慌てて泳いでいったのだという。

「琴子はあの子の声が聞こえた気がしたって言ってたけど、何で分かったのかあたしたちには不思議なくらいだったよ」

「そうそう。だって声どころか、手の先さえ見えてなかったんだよ。なのにどうして分かったのかしら?」

彼女達の口振りから、この時の琴子はどこか野生的とも本能的ともいえる勘が働いていたと思わざるを得ない。

「大体、琴子って泳ぎ苦手な方なのに。よく助けられたわよね~~?」

首を傾げる友人達に、琴子は手を頭にやると「へへっ、火事場の馬鹿力ってヤツかな~?」と照れたように笑った。
然し例え小学生相手だとしても、か弱い女手ひとつで人命救助したのだから琴子が相当な体力を消耗したのは確かで(もっとも、途中から金之助らも加勢し助けはしたが)、それが証拠に琴子本人や周りは感じていないようだが、いつもより琴子の顔色が少々悪いのに直樹は気付いた。

「ありがとう」

直樹は琴子を真直ぐ見据え礼の言葉をかける。

「・・・そっ、そんなお礼なんて・・・!」

不意に直樹の口から零れた言葉に琴子は一瞬ポカーンとした後、慌てて首を振った。

(い、入江くんがお礼を言ってくれるなんて・・・)

弟を助けてくれた人間に礼を言うなんて当然の事だというのに、直樹が自分にそんな言葉を発するのはとても意外で琴子はバクバクと高鳴る心臓を思わず押さえる。



「裕樹、体調はどうだ?」

一方、直樹は裕樹の元に膝をつくと顔を傾け覗き込むようにして訊ねた。

「・・・ん、もう大丈夫」

裕樹は小さな声で答えるとそろそろと視線を直樹に合わせる。

「あの・・・、ごめんなさい。黙って他のプールに行っちゃって。待ってるように言われたのに・・・」

「そうだな。心配した」

正直に告げる兄に、裕樹は顔を曇らせ消え入るような声でもう一度「ごめんなさい」と謝った。
こういう状況で、叱責されるよりもそれは胸を深く突き刺し、裕樹はぐっと喉の奥に力を入れると込み上げてくるものを抑えるように歯を食いしばる。
琴子はそんな裕樹を心配そうに見つめる。

「どうして待てなかった?」

直樹は諭すように更に裕樹に訊ねた。
勿論それは追窮する為ではない。ただ純粋に何故と思ったからである。
もしそちらで遊びたければ連れて行ってやったのに。
その時は背が届かないから浮き輪を持っていくよう伝える事も出来た。
すると口篭る裕樹を他所に「何言うとんねん」と呆れたように口を挟んできたのは金之助である。

「そんなん決まっとるやろ。兄ちゃんにほっとかれて、一人でプールで遊んでてても面白ないからおれらの所に構ってもらいに来たんやろうが」

「―――!」

まるで悪びれる様子もなく言い切る金之助に直樹の表情が固まる。

(おれが、放っておいたから――?)

そんなつもりはなかった。
だが省みれば、そう捉えられても仕方がないとも思う。

「ちょっと、金ちゃん――!」慌てて金之助を制する琴子。
然し金之助はあくまでマイペースで、「なんや琴子。おれ何か間違った事言うてるか?」と首を傾げる。

「― 五月蝿い!お前に何が分かる!!」

すると裕樹が大きな声で叫んだ。

「僕はお兄ちゃんにプールに連れてきてもらっただけで十分なんだ!勝手な推測でお兄ちゃんを攻めるなっ!悪いのは僕だったんだから!」

目頭に浮かんだ涙を必死に堪えながらキッと金之助を睨む裕樹に、金之助はもちろん直樹も琴子たちも呆気にとられ彼を見つめる。

「ごめんね、お兄ちゃん。本当にごめんなさい・・・」

居た堪れない思いになった裕樹は立ち上がるとその場から逃げ出すようにパタパタと走り出した。

「待て、裕――・・・」
「待って!裕樹くんーー!!」

止めようとする直樹を尻目に、琴子が慌てて立ち上がると裕樹の背中を追いかける。


「・・・。」

しかしそんな中、直樹は直ぐに動くことが出来なかった。
遠ざかっていく二人の足跡を聞きながら、ただ呆然と熱をもったコンクリートの地面に目を落とすばかりだった。








それから少し時間が経過し、太陽が西に傾き始めた頃―。

「裕樹くん」

プールサイドの片隅にある小さな階段に所在無く佇む裕樹に琴子はゆっくりと近付くと隣に腰を下ろした。

「ちょっと風が出てきたね。気持ちいい」

「・・・。」

「ねぇ見て?階段に座っているとこんな影ができるんだね。面白い♪」

「・・・。」

隣り合った大小の影を指差しながらはしゃぐ琴子の横顔を裕樹はそっと見遣る。


「あのさ、琴子――」

裕樹は膝を抱えながらぽつりと口を開いた。
上手く言えないが、今琴子が傍に居てくれる事は決まり悪いが有難い事で、それを口にしたかったのだ。

「ねぇ裕樹くん。入江くんと裕樹くんっていい兄弟だね」

とその時、琴子が同時に口を開く。

「え・・・?」

唐突の意外な言葉に驚く裕樹。琴子はそんな裕樹ににっこり笑いかけると空を見上げた。
思い浮かべるのは昼間、裕樹が楽しそうだからと自分達と一緒に昼ごはんを食べる事にすると言った時の直樹の姿。
そして涙を浮かべながら必死に兄を庇った裕樹の姿。
歳の離れた弟に目線を合わせるのが上手くないと吐露した直樹と、そんな兄を受け入れ、尚、尊敬し思いやる事が出来る裕樹は互いに不器用ではあるが温かいと思う。
不思議そうに此方を見つける裕樹の視線を感じながら、琴子は「いいなぁ、兄弟って」と歌うように言った。
その表情が優しくて、しかしどこか寂しげで―、裕樹は困ったように「・・・へんな奴・・・」と呟く。
二人は暫く無言で茜色に変わりつつある空を眺めた。



「ねぇ裕樹くん。あれ乗ろう!」

やがて琴子は立ち上がると遠くを指差した。
其処にあるのはこのプールの名物、ウォータースライダー。
密かに興味津々だった裕樹はみるみる表情を明るくした。
が、すぐに「あ・・・。でも・・・」と躊躇する。

(行ってもいいのかな・・・)

ここで頷いて付いていくのは、どこか兄への裏切りのような気がして裕樹は素直に首を縦に振る事が出来ない。


「裕樹、行ってこいよ」

すると背後から不意に聞き慣れた声がした。

「「・・・?」」

その声に裕樹と琴子は顔を見合わせるとゆっくりと其方を振り返った。
そして同時にポカンと大きく口を開くと

「入江くん!?」
「お兄ちゃん!?」

と声を揃える。
なんと其処には一体何時から居たのか、直樹が腕を組み立っていたのだった。

「ぷっ 似たような顔して」

直樹は口元に手をやるとクスリと笑む。

「お前らこそ兄弟みたいだよ」

直樹の言葉に琴子は驚いたように目を見開き、裕樹はバツの悪そうな顔を見せる。

「裕樹、連れて行ってもらえよ。滑ってみたいんだろ?」

直樹は裕樹の頭にポンと手を置くと小さく笑った。

「おれは出てくる所で見てるから。怖がって泣いたりするんじゃないぞ?」

「な、泣かないよ!」

「よし。いい返事だ」

頷く直樹に裕樹の顔が綻ぶ。


「それじゃあ裕樹を頼むな」

直樹は琴子に向き直ると改まって言った。

「う、うん・・・!」

何時に無い直樹の頼みに琴子は声を上擦らせながら頷く。

「ま、まかせてちょうだい!あたしが責任もって裕樹くんを無事ウォータースライダーに乗せてあげるから!」

「一緒に滑る訳じゃなし。大げさな奴」

俄然張り切って胸を張る琴子に裕樹が眉を顰め呆れる。


「よし!それじゃあ裕樹くん、行こう!レッツゴー♪」

琴子は満面の笑みを浮かべると裕樹の手を取った。

「ちょっ、待てよ琴子!走るなよ!」

「だって~~、早く並ばなきゃ沢山順番待たなきゃいけなくなるよ?」

「今走ったからって大して変わらないだろ!ったくおバカ琴子っ!」

「むっ!言ったわね~~!?」

二人はケンカしているのかじゃれているのか分からない様子で駆けていく。
その後姿を眺めながら直樹はふっと微笑うと、裕樹に約束した通りウォータースライダーの出口の小さなプールへと足を向けたのだった。



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