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THE VOW 4

「イタキス Zircon Wedding 2012」

(上のバナーからemaさんが012年7月にemaさんが発行された「suite kiss」の再録ページに進めます♪)

・・・・・・・・・・・・・・・・・







音の無い乾杯をした後、直樹と琴子は早速食事を摂ることにした。
プラスチックのコップに注いで飲んだシャンパン同様、デパ地下で買ったままの容器に入ったデリを紙皿にとってする晩餐は見た目に味気なく、誕生日という特別感はどうにも希薄な印象になる。

が、結婚式が決まってから(いや、もっと言えば直樹が沙穂子との縁談を進めようとしていた頃から)こうして二人きりで過ごす時間など殆ど無に近かった二人であった。紀子により強引にセッティングされた時間に互いに戸惑いや苛立ちを少々感じたりはしたものの、その心の奥では今過ごす時間を大切にしたいという感情は強く持っている。
なので終始和やかに会話がされた。

加えて此処パンダイの24階から見える東京の夜の眺望はなかなかで、琴子はというと何かにつけついそちらに目を奪われてしまう。
お腹が満たされるととうとう立ち上がって窓辺に駆け寄り、子供のように手を付いてその景色にうっとりと見とれた。

「本当に素敵な夜景よねぇ。すっごくロマンチック」

「そうか?おれはすっかり見慣れちまったけど」

「え~、あたしならずっと感激すると思うけど」

ゆっくりと隣に立った直樹の気配を感じながら少し唇を尖らせる。
「まったくお前らしいな」少し呆れた口調でそう言直樹が、その実とても穏やかな目で夜景ではなく窓に映った自分の姿を眺めている事には全く気付いていない。

一方直樹はというと、隣で無防備にはしゃぐ琴子を前に思わず肩を引き寄せてしまいたい衝動と闘っていた。
というのも式に向け忙しい日々を送る間に少し痩せた琴子は、エステの効果もあり客観的にも数日前より急速に洗練されつつあったし、更に今夜はどうもうっすらとではあるが然し計算しつくされた化粧が山下によって施されていた。
つまり主観で見る直樹にはより眩しく映る訳であるが、場所柄の自制心と未だ蔓延る母の思惑への抵抗心が相まって伸びかけた手はそのまま元の位置でギュッと握りしめられる。

そしてこの誘惑を断ち切るにはその根源を此処から返さない限り無理だと判断すると、腕を前で組み窓の外に目を向けたまま口を開いた。


「そういえば琴子、お前お袋から何か預かってきてるんじゃねーの?」

「え?」

「なんか電話の時にお袋が、結婚式のおれの衣装がどうのって話をしてたんだけど」

唐突に話を振られ、此方に目を向けた琴子を横目でチラリと見下ろす。

「今日来たのはそれの為でもあるんだろ?」

用件を済ませたら琴子を早く家に帰してしまわなければ―、直樹は意識的に事務的な態度を醸し出すと踵を返しソファーに戻る。

「これ、もう片付けるぞ」

「あっ ごめん・・・!あたしがやるよ」

「二人でやればいい。その方が直ぐに終わる」

「う、うん・・・」

慌てて後を追ってきた琴子と食事の後片付けを手早く済ませ、元通りの整然とした応接スペースを作る。


「あの、これなんだけど・・・」

琴子は鞄から一冊のファイルを取り出すと直樹広げて差し出した。

「入江くんの衣装、お義母さんがこれでいいか?って」

「この白・黒・グレー三点あるのは?」

「挙式用には黒を着るように言ってたわ。あとの2枚は披露宴用だけど、こっちはあたしのドレスの色とかデザインに合わせて相性の良い方を其々合わせるって」

「つまりおれに選択権は何も無いって事か」

「不服なら自分で探して決めなさい、だそうです・・・」

「ふん、お袋の奴、そんな時間無いって分かってて言ってやがる。
 それにしてもお色直し二回するつもりかよ。勘弁しろよな」

悪態吐きつつもとにかくどの衣装も奇抜でなくオーソドックスなデザインだった為、直樹は「これでいいよ」と短く居告げると早々にファイルを閉じてしまった。

「じゃ、これ返すからよろしく」

「わ、分かった」

「で、お前の方はどうなの?」

「え、な、何?」

「ドレスだよ。決まったの?今日の打ち合わせで選ぶってお前、今朝言ってただろ」

あまりにテキパキと話を進める為、話のペースについて来れていない琴子に呆れはしないものの決して優しくない口調で尋ねる。

「あ、そうだったね。うん、選んだよ。
 実はすっごく沢山試着してちょっぴり疲れちゃった」

直樹の質問の意味が分かった琴子は眉尻を下げ恥ずかしそうに笑い答えた。

「お袋、相当張り切っただろうしな。
 どうせ着せ替え人形みたくとっかえひっかえ着替えさせられたんだろう?」

思い出したくないが、物心もつかない幼い子供の頃同じような経験をしたところから直樹は ハァ、と溜息を吐く。

「う、うん。でも楽しかったし嬉しかったんだよ?全部試着する度に綺麗に裾とか形を整えてポラロイドで写真を撮ってくれて、なんだかモデルさんにでもなった気分だった。こんな事、一生のうちできっと一回しか経験出来ないんだろうな、って」

一方琴子は慌てて紀子を庇った。
あんなに嬉しそうに一緒に選んでくれた紀子にそんなつもりはなかったものの、自分は今とんだ罰当たりな事を言ってしまった気がする。

「それでね、明日は披露宴用のドレスを選ぶの。楽しみだなぁ」

それで最後にこう締めくくるとにっこりと笑った。

「そうか。お前もご苦労なことだな。
 けどまぁそれなりに楽しんでるなら良かったじゃん」

「そ、そうなの。うん、良かった・・・」

こうして一通りの話が終わり一瞬会話が途切れる。
その時琴子は無性に泣きたい気持ちになった。

これは一体なんと事務的なやり取りなのだろうか―。

(入江くん、やっぱりこんな結婚式ほんとはしたくなんかないんだよね。
 だってそうじゃなきゃ、せめてどんなドレスを選んだのかくらい、訊いてくれるはずだよ・・・)

実は紀子に尋ねられたら“内緒”だと答えるよう言いつけられていたのだが、そんな会話には到底なり得そうにないと琴子は落胆した思いになる。

「あ、あの・・・。あたしそろそろ帰ろうかな・・・。明日また早いし」

それでつい口走ると立ち上がってしまった。

「入江くん、お仕事頑張ってね」

かろうじて笑顔を作って模範的と思われる科白を言う。
きっと直樹は今夜本当はもっと仕事に専念したかっただろうに、自分がやって来てしまったことで邪魔してしまった。
此処から自分は一秒でも早く立ち去った方が良い。
その方がきっと、自分もこれ以上無駄に傷つかないで済む――・・・。


「・・・そうか。分かった。じゃあ、これからタクシー呼ぶから」

琴子の様子に直樹は何か唇を動かしかけたが、最終的にはそれだけ告げるとデスクに向かい受話器を上げた。
慣れた手つきでダイヤルを押すとタクシーを一台手配する。

「10分程で来られるって。下まで送る」

「・・・ん、ありがとう」

無理な笑顔を作りコートを羽織る琴子を見遣りながらも、本心を伝える事はしなかった。
これ以上一緒に居ればずっと引き止めたくなってしまう。
ドレス姿の琴子なんて、間違いなく綺麗に決まっている。だから敢えてどんななのか尋ねなかったなんて絶対言わない。

(あと少し、あと少しすればこの思いだって余すことなく伝えられるんだから・・・)

直樹は自分に言い聞かせるとポーカーフェイスを貫き部屋の扉を開いた。

「ほら、行くぞ」

「うん・・・」

琴子を促しエレベーターホールへ向かう。

やがて24階に到着した無人のエレベーターの扉が静かに開き、二人は無言のままそれに乗り込んだ。
地階へ向う小さな箱の中には、なんともぎこちない静寂が流れた。




ちょっと短いですが一旦切ります。
後一話で最後までいきます。


ひーんごめんなさい!
もうあと二話・・・!

テーマ:二次創作:小説
ジャンル:小説・文学

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コメントありがとうございました

> YKママ様

再びこんにちはです^^
いや~今回YKママさんの入江くんへの叱咤には笑わせていただきました。
天才も言葉倒れ・・・まさにその通りですよね!琴子には言葉を尽くさなきゃ!
それにしてもリアル(?と言っていいのでしょうか?w)はもう不惑なんですよね~~、入江くん。
ちょっとびっくりです(^m^)

悶々と過ごす誕生日はこの歳までだけ・・・ふふっそうです、その通りです(≧m≦)
あとはどうぞKOTOKOorKOTOKOで何処までも好きにやっちゃってもらいたいと思いますw

色々番外編のご提案もありがとうございました^^
また参考にさせて頂きますね☆

コメントありがとうございました

> 紀子ママ様

再びこんにちはです♪
はいもう、まったく「もどかしい」の一言に尽きる回でした^^;
でもこれがイタキスの王道なんですよね。

そうなんですよね。もしこの直ぐの結婚なんて事がなかったとしたら、入江くんはもうちょっとくらい素直にラブラブしてたんじゃないかなぁ、と妄想する事があります。
けれどママの押し切りでこんな形になってしまって。

もちろんママにはママの考えがあって結婚という形を取ったと思いますし(こちらは他のお話で書いた事ありますよね^^)、二人の間を取り持つ大切な存在ではあるのだけれど、逆効果になる事も度々なんですよね。
加えて仰るとおりママの直樹が幼い頃に犯してしまったこともその通りだと思います。
自分の思いを伝えるのが極度に下手になってしまった入江君と、こう見えて人の気持ちを色々考える琴子は、だからこれからも色々な度々生じますもんね。
尤も、その成長をずっと見守るのがイタキスの醍醐味でもあるのですが(^m^)

いやしかし紀子ママさんの最後のお言葉、ほんとに入江君にしっかり言い聞かせてやりたいものです!

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