::乙女の夢、再び

「そろそろ戻るぞ」

「はーい」

俺が声を掛けると琴子はにっこり頷き立ち上がった。

リビングの電気を消し、連れ立って脱衣所に向う。
家族が皆寝静まった真夜中の廊下は当然ながら静かで、スリッパがフローリングを擦る音すら妙に響くような気がする。
俺と琴子はその間一言も言葉を交わさず、前後になって歩く。



「ふわぁ・・・」琴子が欠伸する姿が洗面台の鏡越しに見えた。

「でけー口」

「うっ・・・」

いつか交わしたことのあるやり取り。
琴子があの時のように俺を迫力のない目で人睨みする。

「誰のせいで・・・」

「はいはい、俺の所為だな」

俺は肩をすくめながら答えた。けれど振り返ると素早く琴子の耳に口を寄せる。

「けど、その割りにお前すごかったけど」

「やっ・・・///な、なにが――」

「言ってやろうか?」

「きゃ~~やめてやめて!」

「ば・・・っ!静かにしろよ、お袋たちが目を覚ましたらどうするんだ?!」

慌てて琴子の口を塞いで制する。
もしお袋が目を覚まして此処に踏み込んだら―、お袋はその場で歓声をあげ騒ぐだろう。
写真、写真と言いながらカメラを取りに走るかもしれない。

俺と琴子は今、ちょっと他人には見られたくない格好をしているのだ。
俺の寝間着の上を琴子が身につけている。
俺の上半身と琴子の脚はあっけらかんと晒されている。
それが何を意味するか―。
たとえそれが夫婦として普通の事であっても、やはり現場の証拠は掴まれたくないのは琴子だって同じだ。

「あっ、ご、ごめん・・・」

琴子は顔を赤くして謝ってきた。

「気をつけろよ」

「う、うん」

頷く琴子を見遣りつつ、俺は歯磨き粉をつけた歯ブラシを口に銜えた。
そして琴子の歯ブラシを取り、歯磨き粉のチューブを絞りつけると琴子に手渡した。

「ありがとう」

「ん」

軽く頷いてから手を動かし始めた。
琴子は歯ブラシを受け取ったものの、なかなか磨こうとしない。
鏡からブラッシングする俺を見ている。

(なんだよ?)

鏡越しに表情で訊ねる。
フフフと琴子は嬉しそうに微笑んだ。

「だって今このシチュエーションってすごく幸せなんだもん。もうちょっと見ていたいなぁって」

はぁ?これが?
二人して洗面台に向って歯磨きする姿なんて、日常に埋もれるほどあるじゃねーか。

「違うよぉ。そこじゃなくて、あたしが入江くんのシャツを着ているところがいいの♪」

琴子はにんまりと(本当ににんまり、という形容がぴったりである)笑うと俺の両脇を挟むようにして腕を伸ばした。

「この乙女心が分からないかなぁ?」

ふん、知るかよ。

「入江くんの匂いするしぃ。こうすると前から後ろから入江くんだよ~~」

腕を俺の胴に回すとくんくん、と鼻をひくつかせた。

乙女の夢

(クリックで大きく表示されます。傾きを少々修正しました(1/12))


「・・・バーカ」

「バカでいいもーん」

ご満悦の表情で更に腕の力を強めてきた。
俺は動きづらい身体を屈め口を濯ぐと、琴子の腕を引き剥がした。

「ほら、もういいからさっさとお前も磨けよ」

「はぁい」

子供が不貞腐れたような返事をして漸く琴子は歯を磨きだす。
俺はそれを後ろから眺める。

「まぁ、確かにな・・・」

「へ?はひ?」

「喋るなよ。涎垂れるぞ」

「はぐっ」

本当に垂れそうになったらしい。
琴子は慌ててそれを抑えると大人しくその後は歯磨きをしだした。
シャカシャカシャカシャカ
琴子が腕を動かすごとにパジャマがゆらゆらと揺らめく。
影になった琴子の太腿の奥――。
つい先程もさんざん触ったばかりだというのに。
俺はまたそこに手を伸ばしたい欲求がふつふつと昂ぶってくるのを自覚せざるをえない。


「ふぅ!すっきりすっきり」

まるでどこぞのおっさんのような科白を言いながら、琴子は俺の手をとるとニコッと笑った。

「入江くん、部屋まで手つなご?」

そして俺を引っ張るようにして廊下へ出る。
また静かに歩くよう心掛けながら、ひたひたと階段を上る。




「ふわぁ・・・」

部屋に入り鍵を閉めるとまた琴子が大きな欠伸をした。

「もうすっかり遅いね。さっ、早く寝なきゃ」

乱れたままだったベッドの上に上るとあちこちに放り投げられた自分のパジャマをかき集める。
ちょっと待ってね、と言いながら俺に背を向けるように座った。
俺のパジャマのボタンを外し、そっと肩から落とす。
恥じらいながらも無防備な後姿は、洗面台に向っていた時から俺が考えていた事などまるで予想だにしていない。


「悪いけど、まだこれは要らない」

俺は不遜に答えると琴子に近付いた。
そして「えっ」と琴子が声を出すそばから、その華奢な背中を包み込むように抱きしめる。

「前と後ろ同時には無理だけど、こっちの方がいいと思ってほしいね」

「う、うん・・・。それはもう――」

俺がさっきの自分の言動を言っているのだと分かったようだ。琴子はこくりと頷いた。


そうして明日の事はひとまず彼方にやり、俺達はまたシーツの海を泳いだのである―。


スキマ未設定(短編)  コメント(4)  △ page top


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::Re: ぎゃぼー
> みゆっち様

こんばんは。コメントありがとうございますっ。
そんな、遅いなんてとんでもありません。
そして放置なんて出来る訳がないじゃないですか!
こんなお話しか書けない私に構って下さり感謝です^^;
あ、でも個人的には好きなんです。こういうほんのひとコマを切り取ったお話♪

鼻血ぶびょん大歓迎!
一緒に垂らしてぶっ倒れましょうww
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::Re: 正座待機した甲斐がありました!
> ema様

おはようございます^^
おぉ~~正座だなんて!すみません&ありがとうございますーー!

か、神なんてとんでもないですっ。勿体無さすぎる・・・。
テキストにも貧血になっていただけるとは(≧m≦)
淡いLOVEしか書けない私であります。もう呆れられてるか飽きられているんでしょうが、ゆるゆるこんな物を公開していこうと思います(^_^;)

漫画・・・、私はemaさんのが読みたいです!!!!!!!
どうかハネムーンの続きを・・・・ばたっ(← 禁断症状で倒れました)
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::正座待機した甲斐がありました!
まさに「キュン死に」という言葉は、このイラストのためにあるのではないかと思うのです。

ぴくもんさん…か…神……\(^o^)/

そして鼻○で貧血になってしまいそうなテキスト付で…。


ありがとうございました!!!!
いえ、ありがとうございます!どんどんイラストお願いいたします!


そしていつか、このカラーイラストが表紙のぴくもんさんの漫画が読みたい!!!!!!!!です!

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