::新婚さん家に行ってみよう! 7
先にイラストを公開させて頂いた事で私も少し気持ちが軽くなりました^^
楽しみにしてくださる方が一人でもいらっしゃる事が分かったので、キューダイさんの恋バナを心ゆくまで書かせて頂こうかと思います。
良ければお付き合い下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・



「CAになるのが奈々の、子供の頃からの夢だったんだ」

俺はそう言いながらこのリビングの一角に目を遣った。
そこには入江家の人達の写真が様々な写真たてに飾られている。バラバラの種類ながら統一感のあるデザインのそれらはこの空間にしっとりと溶け込んでいた。
フレームに収められた写真もまた様々なひと時が切り取られていた。皆が其々の時間を色々な思いを抱きながら過ごしていたのが表情からも分かる。
その中の一枚に、ホノルル空港の待合席で仲睦まじく寄り添う入江と琴子ちゃんの姿があった。
(言うまでもなく、入江のお母さんの盗撮である)
その後ろに小さく偶然写った制服姿の見知らぬ女性―。

「CA・・・、CAって――」

「キャビンアテンダント。客室乗務員の事だよ」

「わ、分かってるもん。ただ急に言われてピンとこなかっただけ」

入江の声に琴子ちゃんが慌てて言い返す。入江はハイハイと受け流すと俺に目を向けた。

「航空会社を受けなおす為に語学留学に行ったって事ですか」

「うん。そういう事」

俺は頷くとまたいきさつを話し始める。


奈々がCAになるのを夢見ていたのは先に言った通りだ。
そのため彼女は就活で国内の航空会社を何社か受けていた。短大の授業とバイトの合間を縫って、専門のスクールにも通っていたという。自由奔放な雰囲気ながら、頑張る時は頑張るタイプの奈々である。

だが、狭き門であるのは言うまでもないだろう。
残念ながら奈々はどの会社からも内定をもらえなかった。
結果、並行して受けていたメーカーへの就職を決めたのである。
就職浪人という道もあるにはあったが、それは避けたかった。
たとえ受け直したとしても合格出来る保証はないのだ。自分だって不安だし、親にも心配をかけたくない。
そして何より―、夏が盛りを迎える前に将来の道を決めて羽を伸ばしたかった。
未来を真剣に考えつつも今を楽しみたい年頃である。奈々と同じような気持ちで言い方が悪いが妥協をする学生など多々居る。
開放感を得た奈々は海のバイトを決め、ドニーズを辞めた。
俺と付き合い始め、残りの学生生活を満喫し、そしてやがて新しい春を迎えた。

然し――。





「奈々はいつ、やっぱりCAに・・・って思ったんだろう」

琴子ちゃんがぽつりと言った。

「ん・・・、本人もこれという大きなきっかけがあった訳では無かったって。
 けど、少しずつ降り積もったって言ってた」

「そうですか・・・」

「うん」

俺は答えながら当時を思い出す。
俺も同じく入社間もない頃で、この頃奈々と過ごした時間はとても短かった。

「いつ相談を受けたんですか?」ごく自然に訊ねられる。
その質問に俺はついフッと笑ってしまう。

「え、何かあたし可笑しな事聞きましたか?」

「いや、違う。ちょっと痛いトコをつかれたなと思って」

「え・・・?」少し戸惑った表情を浮かべる琴子ちゃん。

「忙しいなりに目を凝らして見ていたつもりだったんだけどね。けど所詮目に見えるものはほんの僅かな事ばかりだから」

「・・・。」

入江が一呼吸置いてテーブルに手を伸ばした。コーヒーはもうすっかり冷たくなっているだろう。
こいつはきっともうその答えに気付いている。



「一度も相談されなかったんだ」 俺はそう言って首を竦めた。
 
「それどころか、奈々がCAになりたかった事さえ、ずっと知らなかったんだ」

「――!!」

琴子ちゃんの目がハッと見開かれる。
入江の組んでいた脚はいつしか戻されていた。

「既に就職先が決まっていたから、夢を尋ねるって発想も無かったと言ったら、彼氏として怠慢になるのかな」

あの時の事を思い出すと、俺は今でも少し自嘲めいてしまう。






それを見つけたのは偶然だった。


『・・・ん?何、これ』

久しぶりに訪れた奈々の部屋だった。
珍しく土曜日に休日を貰った俺は、金曜の夜に勤務を終えた後奈々と食事をし、彼女の部屋に行った。
泊まるつもりではあった。が、部屋に入った途端ベッドに雪崩込むなんて気はお互い無くて、まずは飲み直すつもりだった。
奈々がつまみを用意してくれる間、俺はグラスを食器棚から取り出し二人用のテーブルに並べる。
帰りに買った焼酎を取り出すとすぐ手持ち無沙汰になった。何となく、奈々が学生の頃から使ってるデスクに近付く。
そこで見つけたのだ。パンフレットには〔エアライン留学プログラム〕と大きく表記されていた。

『あっ・・・』

奈々はいつに無く慌てた声を出して駆け寄ってきた。俺の眼前からパッとパンフレットが消える。

『・・・え?今の何?』

『・・・。』

『・・・。どうして隠した?』

『・・・。』

『・・・黙ってたら分かんねーよ』

俺の声もいつに無く低く響いた。奈々が唇を噛んでいる。

『来年――、留学する事に決めたの。足りないのは英語力だって、専門学校の頃から言われてたから。
 行き先はアメリカかカナダかまだ迷ってる』

やがて奈々は苦しそうにそうに言った。

『諦められると思ったの。けど、やっぱり後悔したくない』

そしてずっと胸に溜め込んでいた思いを一気に吐き出す。

けれど俺はと言えば――、さっきまでの奈々以上に黙りこくって彼女の話を聞くしかなかったのだった。
よく知る顔も声も、まるで一枚の見えないフィルター越しにこちらに向ってくるような気がした。

漸く秋の夜風が気持ちよくなってきた、9月の終わりだった。




「奈々が一通り話し終えて、とにかく理解したのは彼女の意思がもう変わらないって事だった。
 両親は勿論、会社にももう直属の上司には伝えていて、近いうちに部長にも話す予定だって」

「そうですか。まだ半年で、惜しまれたでしょうに」入江が静かに言う。琴子ちゃんも頷く。

「あの・・・、こんな事聞いていいか分からないんですが」

「ん、いいよ。言ってくれて」俺は琴子ちゃんを促す。

「キューダイさんはどう思ったんですか?奈々にどんな言葉を掛けたんですか?」

必死な顔をして訊いてくる琴子ちゃんの目には涙が浮かんでいた。やがてそれは弾けてポタポタと膝に落ちていく。

「琴子ちゃん」

「あたし・・・、あたしはそんな事いきなり言われたらどうしていいか分かんないです・・・っ。
 ・・・何より、寂しい――・・・」

「琴子」

「奈々の事、あたし好きです。でもやっぱりキューダイさんに何も相談しなかった奈々の気持ちがあたしには分からない・・・!
 あたしでもこんなに悲しくて辛いなら・・・、キューダイさんはきっともっと辛かったですよね。・・・ぅ・・、ふぇっ・・・」

入江が琴子ちゃんの肩を抱く。側にあったティッシュを数枚引き取り琴子ちゃんの手に掴ませる。

「・・・ご、ごめんなさ・・・」

「いいから。とにかく落ち着け」

言葉は乱暴だが入江は優しかった。琴子ちゃんが涙を吹きこちらにまた目を向ける。

「ありがとう。知ってたけど、優しいよね」二人に俺は少し微笑う。

「どう思った、か。
 ・・・そうだな。うん、辛かったよ」

「・・・。」

「カッコ悪いけど俺、初めてあいつに向って怒鳴ってた。ふざけんな、って。
 事後報告かよ?そこに行き着くまで、お前の頭の中に俺は浮かばなかったのか?って」

「・・・。」

「だいたい、留学したからと言って必ずしも夢が叶う訳ではない。
 今働いている職場だって、そりゃ第一志望じゃなかったかもしれないけど、やり甲斐はそれなりにあるんだろ?だったらもう少し続けてみればいいんじゃないの?って正論ぶって言ったりもしたっけ」

「・・・間違った意見ではないと思います」入江が答える。
俺は曖昧に頷いた。

「俺の言い分に奈々は何も反論しなかったよ。言い訳もしなかった。
 ただ『ごめんなさい』って。『でも私はあなたとは違うから』ってさ。
 でもそれが余計に取り付く島もない感じに思えて。悔しくて腹が立って」

話しながら俺は、もう整理された筈の感情なのに、あの時の気持ちを思い出すとどうしても少し気持ちが昂ぶってしまう。

「俺は『分かった』って言って奈々から目をそむけた。本当は全然分かってなかったんだけど。
 “あなたとは違う”ってどういう意味だ?お前は俺をどんな風に見ていたんだ?って、頭の中がグチャグチャで」

目を伏せ言った奈々がひどく遠く見えた。

「今日はやっぱり帰ると言っても奈々は引き止めなかった。折角久々にゆっくり遊べるってちょっと前まで盛り上がってたのに、散々な週末になっちまって」

「それから・・・、どうしたんですか・・・?」

訊ねる琴子ちゃんの眼はまだ赤かった。なんだか申し訳ないくらいに。
でも此処まで話したのだから、俺は最後まできちんと話そうと思っていた。

「うん・・・、とにかく奈々が行くのは受け入れざるを得ないって分かってたから、あとはこれから俺達がどうするかって事だったんだけど」

「はい・・・」コクリと頷く琴子ちゃん。

「少し考えさせてほしい、って言った。必ず何らかの答えは出すから、俺が連絡するまで待ってくれって」

奈々はまた何も反論する事は無く了承した。

それから俺は悶々と考える日々を送る。
もっと冷静に話す時間を作らねばと思うけれど、つい浮かんでしまう疑念。


― 奈々にとって、自分はただ一瞬一瞬の楽しさを共有できれば良い相手でしかなかったのだろうか―?
  自分もそんなスタンスだと、奈々に捉えられていたのだろうか―?


例えば最初、海のバイトに行く奈々を笑顔で送り出したように、今回も「待ってる」と俺が言うと信じていたのだろうか。
然し全く違う反応を見せた俺に、この恋が終わる予感を感じたのだろうか。


終わらせたくなかった。
けれど頑張れ、と背を押して送り出す勇気もまた持てない。

そうして堂々巡りの思考を持て余しながら、俺は仕事だけは熱心にこなしていた。
そんなある日、入江と琴子ちゃんが店を訪れたのである―。





しつこくてごめんなさい。
私の「あとちょっと」はほんとアテになりません。



11巻スキマ  コメント(12)  △ page top


<<prevhomenext>>
::Re: 読んでます!
> ema様

こんにちは。すみません・・・!何かご心配をお掛けしてしまったみたいですね(>_<)
反応が薄かった事については大丈夫です。もう特に気にしておりません!
ただ単に、書いても書いてもまとまらなくてUP出来なかっただけなんですよ(苦笑)

emaさんの作品、私もいつも見せて(読ませて)頂いてます!
最近のあちらの更新にはもう拍手百万回お送りしたいくらいです(≧m≦)
応援しています!!
編集 △ page top
::Re: タイトルなし
> みゆっち様

こんにちは♪ありがとうございます。プロフ画像にコメントして下さって♪
サクラサク、なイメージだったので二人ともとっても幸せそうな表情になったかなと思ってます♪
みゆっちさんの踊る姿が見られて嬉しいですww

またイラストもちょこちょこ描きたいと思ってますので、時々覗いて頂けたら嬉しいです^^
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::Re: 涙涙
> みゆっち様

こんばんは。うわ~~ん、ありがとうございます!自分語りの九代さん(笑)に堕ちて下さって♪
そうなんですよね。こういう決断に関しては(いえ、それ以外もかな?)女子の方が大人だったり思い切りがあったりするんですよね。
けれどやはり・・・、言い出すタイミングがはかれないのは乙女なのです・・・>_<

物分りのいい男と評判の(← いつから?w)九代さんもなかなか気持ち良く背中は押せなくて。
人の事はよく見えているのに・・・というのは、入江くんもそうだけど九代さんも案外然りなんですよね。
入江くんは九代さんの気持ちは勿論ですが、奈々ちゃんの心境にも気付いていますよね。
そしてそんな風になれたのは、琴子ちゃんの存在があったからこそ!やはり琴子ちゃんの愛は偉大です^^
キューダイさんシリーズははじめこそ軽い語り口でしたが、回を重ねる毎に形が変わって来てます。
これに関しては正直NOのご意見の方が多いようが気がしますが、みゆっちさんはいつもついて来て下さって励まされています^^

最後に、narackさんのイラストいいでしょう♪
こんな素敵なプレゼントを頂けて本当に幸せです^^
みゆっちさんのお話を読ませて頂けたのもとても素敵なプレゼントです♪
ほんとに秀逸でした☆
編集 △ page top
::Re: キューダイさん…♪
> 水玉様

こんばんは。ありがとうございます♪こういうお話好きだと仰って下さって!
実は私も好きなんですです^^ ・・・なんて、実は、と言わなくても分かりますよね^^;

でもね・・・、ほんと悲しいくらい皆様の反応は薄いです・・・>_<
九代さんを好きと仰って下さる方は確かにいらっしゃいますが、あくまで入江くんをいじれるキャラである彼が好きな方が大半なのかなぁと思います。
でも、思うままに書かせて頂きますけどね!皆様に楽しんで頂きたいけれど、その前に自分が納得できるものでないと意味がないですし♪
昨日コメントに書かせて頂きましたが、私も水玉さんの頑張る姿に本当に励まされています。
一緒に頑張りましょう♪
編集 △ page top
::Re: こんばんは☆彡
> たまち様

こんばんは。

ありがとうございます。良かったです、心理描写、頑張った甲斐がありました^^
普段良い感じで力の抜けた印象の九代さんの葛藤に一緒に苦しくなって頂いて・・・本当に嬉しいです。
って、苦しませて嬉しいなんて言ってしまってすみません^^;

神戸とリンク・・・しますよね。今の段階で、入江くんはまだ小児外科を専門にする事を決めてるかはちょっと微妙ですが、もしかしたら自分たちの将来と重ね合わせて話を聞いてるのかもしれないと思いながら書いてます。
琴子ちゃんは九代さんの気持ちにすごく沿ってあげているのですが・・・、まさか自分も同じような経験をするとは思っていないんでしょうね^^;

どんどんやって良いと仰って下さるたまちさんの太っ腹に感謝です♪
はい、頑張りますね^^
編集 △ page top
::Re: コメントありがとうございます
> 紀子ママ様

こんばんは。
そうですね。二人とも切ないですよね。

奈々ちゃんの思いは仰るとおりだと思います。またその辺りは次回に書きますね^^
入江くんは自分が回り道をして夢を見つけたから、奈々ちゃんの気持ちも九代さんの気持ちも理解できるんでしょうね。
琴子ちゃんはいつも人の気持ちに添える子だし・・・。二人を優しいと言う九代さんの言葉は色んな気持ちが込められているんだと思います。

好きだから、特別だからもつれた二人のその後、またお付き合い下さい☆
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| home |
Copyright © 2017 Swinging Heart , All rights reserved.