::Présent de la surprise 3


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師走は他の月の倍のペースで時間が進むのではと勘繰りたくなる忙しさで、あっという間にクリスマスイヴ。

直樹と琴子の勤務表は、24日に直樹が当直。次の日が琴子の当直と、誰の、何の策略か、思い切りすれ違っていた。

いつもの琴子なら、あちこち奔走し、なんとか直樹と過ごす時間を作ろうと躍起になるのだが、珍しく大人しくしていた。

例え何とかしようとしても、3か月前にも周りを巻き込んで直樹の当直を操作したばかりであるので、だれも協力はしなかったであろうが・・・・



出勤するため玄関で靴を履く直樹に琴子が呼びかける。

「入江君、あ あの、あのね・・・」

「あのね、はもう分かったから。何だよ」

今日はクリスマスイヴだ。行事を特に意識していない直樹だが、カレンダーにはご丁寧にクリスマスイヴと書いているし、母親である紀子が、この時期やたらと張り切って準備をするので、嫌でも情報として脳にインプットされてしまう。

「・・・贈り物するのはお前の特技だろ?」

「あ・・・入江君気づいてたんだ。さすが!じゃあこれ、クリスマス中に渡せそうもないから・・・。メリークリスマス、入江君!」

少し顔を紅潮させながら直樹に贈り物をするする姿は、出会ったときから変わらない。
そんな琴子を堪らなく可愛く感じる直樹だが、態度は相変わらず素気ない。

「ありがとう」一言告げる。

「えへ、どういたしまして。あ、で でも此処で開けなくていいよ!」

「もう出ないといけないから、そうするつもりだったけど。お前がそこまで言うなら、今此処で開けてやるけど・・・?」

何時か言ったようなセリフを口にして、ニヤリと笑う直樹。

「い、いいの、いいの!ほら、入江君、急いでるんでしょ!?私の事なんて全然気にしなくていいから、ね?いってらっしゃい!!」

何を焦っているのか早口で捲し立て、直樹の背中を押して見送る琴子。
怪訝に思いながらも直樹はそのまま仕事に向かった。


24日、世間は恋人同士でロマンティックに過ごす者もいれば、気の置けない仲間とのパーティに興じる者もいる。

そして、羽目を外しすぎ、救急に頼らざるを得ない羽目になる者も少なくない。
結果、医療に従事する者は、この日いつも以上の激務を強いられることになる。

「ではこの患者のバイタルサインのチェックが終わったら教えてください」

夜半になりやっと一息つける状態になったので、看護師に指示をすると直樹は、自動販売機でコーヒーを買い、明かりを最小限に絞ったロビーのベンチに座った。

ふぅ・・・束の間であるが、漸く人心地を得、思わず溜息をつく。
そして、自分の白衣のポケットがいつもよりゴツゴツと膨らんでいるのを思い出す。

徐にポケットからそれを取り出し、膨らみの原因となっていた小さな箱を眺める。
包装紙を解くとそこには、直樹も良く知っている ―琴子の誕生日プレゼントにと選んだ指輪と同じ― ブランドの箱が入っていた。

「・・・・・・・・」

出勤する前の琴子の様子を思い出す。

(あいつ、指輪のメッセージに気付いたのか・・・?)
思わず口元が綻ぶ。
(ったく、遅いよな。まぁ、あいつらしいけど)

しかし、一体此処で何を選んだというのか。

直樹はアクセサリーをするような習慣は全くない。おそらくこれからもしないだろう。
琴子にもそんな事は予想できるであろうに。

そんなことを考えながら、直樹はふと、自分が琴子の誕生日プレゼントを
選びに行った時の事を思い出した・・・・。





「お前の誕生日にかける情熱は良く分かったよ」

自分の誕生日を直樹と二人きりで過ごしたいという琴子の願いを受け入れた時点で、それならば彼女が喜ぶような事をとことんやってやろうじゃないかと、らしくもなく考えた。


直樹は今まで琴子に物をプレゼントした事がなかった。
琴子はその事に、一度も不満を口にしたりした事はない。

でも、本心はやっぱり欲しいだろう。
歳の数のバラの花束なんて、そんな滑稽な真似は御免だが、自分が選んだ琴子へのプレゼントなら贈りたい。

そう思って直樹は某百貨店に足を運んだ。
取敢えず、何を贈りたいかだけは決まっている。
エスカレーターを上り、アクセサリー販売のフロアへ向かった。

このフロアに居るのは、店員も女性が殆どだが、客も女性かカップルが大半である。

男性(しかも容姿端麗な)が1人、ここに足を踏み入れるのは少々目立つ事であるようで、先程からあからさまであったり、こっそりとであったりの差はあるが、彼女らの視線は一斉に直樹に向いている。

物心ついてからずっと感じる視線なので特に何の感情も起こらない。
ショーケースをさっと見ながら、琴線に触れるものを探す。


ふと直樹の足が止まった。
そこには、サファイアを使った様々なデザインのアクセサリーが並んでいる。
直樹が興味を持った事を確認した店員が近づき、声をかける。


「いらっしゃいませ。プレゼントをお探しですか?」

「はい。誕生日の」ショーケースに目をやったまま短く答える。

「こちらに並んでいるのは、誕生日コレクションというラインのものです。天然の石それぞれの個性を生かしたデザインを重視して作られていて、アクセサリーごとの生産の個数もまちまちですし、追加生産もしないんです。人も一人ひとり個性があるように、ジュエリーにも個性を、というテーマで展開しています」

店員の説明を聞きながら、気になったものを指し、尋ねる。
「この指輪の在庫はありますか?」

「こちらは当店にも一つだけ入ってきたものなんです。
この指輪に使われているサファイアは、カラーチェンジサファイアといって、光源によって微妙に色が変わる希少価値の高い物でございます」

号数を尋ねると、琴子の左手薬指のそれと一致していた。
そして、カラーチェンジサファイア――、光源によって表情を変えるそれはクルクルと色んな表情を見せ、自分を飽きさせない琴子そのものだ。

(想像以上に早く決まったな)
直樹はフっと微笑うと店員に購入の意思を伝えた。

「///// ありがとうございます。お客様、こちらリングの裏側にメッセージを入れる事が出来ますが、いかがなさいますか?」

直樹の綺麗な表情に店員は一瞬動揺して顔を紅潮させたが、直ぐに接客のプロとしての顔を取り戻して対応した。

メッセージ・・・ふと直樹は思い出す。
それは、直樹が初めて琴子の誕生日を祝い、プレゼントを用意した二十歳のあの日の出来事・・・・・



そう、それは琴子の二十歳に誕生日。
俺が初めて琴子の誕生日を「おめでとう」と祝い、プレゼントを用意した誕生日。

おふくろが「形あるものばかりがプレゼントとは決まっていない」などとくだらない事を耳打ちしてくるので、いっその事からかってやろうとおふくろの言葉をそのまま引用して皆の前で宣言して、琴子を連れて2階へ上って行ってやったんだ。

もちろん、実際はおふくろの挑発に乗る気なんかサラサラ無く、目前に控えた試験の勉強を見てやるという内容だったが。


その日の琴子はうっすらと化粧をしていて、華奢な体に似合うドレスを身に着けていた。
2人きりになると、露出された白い肌が目のやり場を困らせ、さっさと上着を羽織らせたっけ・・・






1週間続いた試験勉強も今日が最終日。
英語さえ中学生レベルでも怪しいというのに、無謀にもフランス語を履修して後悔している琴子に呆れつつ、
完全に的を絞って単位を落とさない事だけを目標にしてその日の解説を始めた。


数時間後、何とか目処がついたと判断した俺は、勉強の終了を告げる。


「ま、待って!今日で最後でしょ。お礼にならないかもしれないけど、コーヒー淹れるから飲んで帰って!!」

独り暮らしの部屋へ帰ろうとする俺を琴子が引き留めた。

大学へ行けば、会えない事はないけれど(琴子はいつも必ずどこからか湧いて出る)、2人きりのこの時間が終わるのは名残惜しいのだろう。

「・・・わかったよ」
仕方なさそうに溜息をつき、俺は今暫くここに居る事を了承する。

「良かった!じゃあすぐに淹れるから待っててね!」
琴子は急いで階下へと降りて行った。

琴子がコーヒーを淹れている間の時間、俺は琴子の部屋に残り、
何故自分は誘いを断る事なく、今・此処で琴子が戻るのを待っているのだろうと考える。

本当は・・・分かってきている。

今暫く、この時間を過ごしたいと感じているのは、決してあいつだけじゃない。
俺の中であいつは、もうその他大勢の一人という存在ではありえない。

だけど・・・俺の中で芽生えてきているこの想いは、まだまだ青いままなんだ。
だから、あともう少し、今の状態でこの関係を―――

「おまちどうさま」
琴子が戻ってきてコーヒーを手渡してくる。

「・・・どうも」
今までの自分の思考をリセットするべく、その琥珀色の液体を一口含み、深呼吸をする。

暫しの沈黙。

深呼吸したものの、完全にはリセットしきれない感情の中、沈黙を破る言葉を考えあぐねていると、琴子の方から話しかけてきたので俺は何事もなかったように返事をし、会話が紡がれて行く。

琴子が珍しく漫画ではない本を読んだというので、どんな感想を持ったのか、ふと興味を持ち、問うてみる。

すると、返ってきたのは少し意外なものであった。

決して的外れなことなど言っていない。むしろ正しい読解だろう。ただ、琴子が主人公の複雑な感情の中に埋没させている真理をいとも容易く見出していたことに驚いたのだ。

無意識にノートにペンを走らせる。
【L'amour que j'ai caché ―― 隠し持った愛】

そう、これは今の俺の気持ちなのかもしれない。
いつも全力で俺を追いかけてくるお前を、鬱陶しそうな態度で見ているけれど
俺はそんなお前の姿が見えないと、何だか落ち着かないんだ。
でも、これはまだ俺の中の秘事。

直樹の記した言葉の意味を理解した琴子は、いかにもあいつらしい考えで、この気持ちを否定していく。

ああ、そうだな。だから俺はお前が眩しいんだ。
そう、それは俺を捉えてやまない、揺るぎない、絶対的なお前の俺への想い―――

琴子は今もまた、その絶対的な愛を俺に堂々と宣言し、そして恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にさせて、上目遣いに俺の事を見てくる。


・・・・勘弁してくれ

今、その瞳で見つめ続けられたなら、俺の理性はいつまで持つのだろう。


――――潮時だな。


「じゃ、俺帰るから。コーヒーご馳走様」
俺は急いで帰り仕度を整え、部屋を後にする。

「ま、待って。玄関まで送る!」

「いいよ、ここで。おやすみ」
今、これ以上一緒に居たら、感情が溢れてきてしまいそうな気がする。

今はまだ、この状態でこの関係を―――


10月ともなると、夜気が少し肌寒くなる。
駅までの道のりを俺は早足で歩いた。

琴子は言葉の意味を調べただろうか。
きっと、調べている。俺が記した言葉なのだから。

いつか、俺も同じ思いでお前を想う日が来るのだろうか。
そんな事を、思っていた――――





投稿サイト様に発表したものの再掲です。
なんなんだ!この過去に遡り遡りの話!!分かり辛い(>_<)
でも、やってしまったからには何とか終わらせなければ、と必死でした。




23巻スキマ  コメント(2)   トラックバック(0)  △ page top


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::Re: なおちゃん様
> なおちゃん様

色々文中から感じて下さりありがとうございます^^
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