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::アマイワナ 1/2

ふと思いついて・・・。っていつものパターンですが^^;
今回も前後編です。








・・・・・・・・・・・・・




電車が最寄の駅に着き、改札を抜けるとあたしは気付けばついハァ~と大きく息を付いていた。

通学用に使っている鞄は実用性を重視してキャンバス素材だというのにその重さは相当重たい。
大学の授業で使う教科書は一冊一冊が分厚くて重たいし、テニス部の練習用の着替えもあるから。

その部活は今日も須藤さんが有難くない絶好調で、あたしはすっかり絞り込まれてしまった。
走りこみやウェイトトレーニング、球拾いであたしの身体はもうボロボロ。これからお家までの坂道を上るのもちょっとしんどいなって思ってしまうくらい。

しかも・・・そのお家ときたら、少し前からあたしにとってちょっと困った事態が起きている。
それは何かと言えば――、犬の存在。
1ヵ月と少し前、お家に子犬がやって来たのは本当に突然の事だった。
なんでも裕樹くんが友達に貰ってきたのだという。
おば様は元々犬が好きだったようで、大喜びでその事を伝えてくれたんだけど、あたしはといえば顔面蒼白だった。
だって・・、あたし犬だけは大の苦手なんだもん!

けれど犬が嫌いなんて言ったら入江くんに優しさの欠片もない女だって思われるかもしれないなんて思っちゃってつい言いそびれてしまった。
それどころか、入江くんに唆されて好きなんて言っちゃったあたしは、足元にじゃれついてくる子犬を邪険にすることなど出来る筈もなく、鳥肌が立つのもひたすら我慢の日々。
(何故だか分からないけど、子犬はあたしのトコにすごくじゃれついてきた)

この子犬、名前は早々にチビと名付けられたんだけど、ゆくゆくはその名前が滑稽なほどすっごく大きくなるって事を知ったのはつい先日の事だ。
その日の夕方から入江くんにチビの散歩に誘われたあたしは、嬉しいような困ったような複雑な思いで歩いていた。
そして突然あたしに飛びついてきたチビに慌てふためき、つい大声を出してリードを手放してしまったのだ。
驚いたチビは入江くんの制止も聞かず走り出してしまった。あたしと入江くんはチビを見失ってしまった。
幼いチビを迷子にさせてしまい激しい自己嫌悪に陥ったあたしは、チビを見つけるまでは家に帰らないって気付けば夢中で捜して走り回った。
苦手な存在だったのに、いつの間にか大切な存在になっていたチビ。

・・・ま、実際のところ迷子になってしまったのはあたしの方だったんだけど。
あとで知った話、チビはそれからすぐにちゃんとお家に戻っていたらしい。それどころかチビがあたしを探し出してくれたといんだから、ああ、なんて情けないやら。

それはともかく、なんとか入江くんとチビに再会出来てお家に帰るすがら、入江くんはしれっと『こいつの成犬の姿』って他所の御宅の立派すぎる大きさの犬を指差して教えてくれたのだった。
 
『でも琴子はすっごい犬好きだもんな。大きかろうが小さかろうが、震えて鳥肌が立つくらい好きなんだよな』って、あの時の楽しそうな顔ときたら――!

天使のような綺麗な顔で、その実は悪魔そのものだと思ったわ。
もう、あたしの我慢ってなんだったのかしらってね!
でも思えば少し前、大学のテニスコートに松本さんの家で飼っているという江口犬を見た時の反応で入江くんは早々に察していたみたい。
なにもかも承知の上であたしのこと試してくるんだから、入江くんって本当にイジワル。


・・・と、あれこれ愚痴を言いつつもあたしはこの頃こうして帰宅する際についついコンビニに寄ってしまうことが多くなった。
真っ白い明かりが灯る店内に入ると真直ぐに足を向ける場所――、ほんの小さなスペースに置かれたペットのおやつコーナー。
チビに少しでも慣れるためにここでジャーキーを買って帰って食べさせたところ、チビは思いのほかそれが気に入ったようで、あたしはこれを手土産にするのが定番になってしまった。

カゴにジャーキーの袋を入れ、部活で疲れた身体を癒す甘味を求めてもう少し店内を見て回る。

「あっ、これ今朝CMでやってた新商品♪」

ちょっと美味しそうと思っていた和スイーツにテンションがあがって手にとった。
入江くんと裕樹くん、おば様も食べるかな・・・?そう思って全部で4つカゴに追加。
こうして手荷物は重くなってしまったけれど、現金なものであたしは少し元気を取り戻す。

「よし、この坂を上ればおやつが待ってる!」

自ら目の前に人参をぶら下げることで活を入れ、緩やかな坂道を一歩一歩前進し始めた。






・・・けれど。





「ただいまぁ。・・・ってあれ、もしや誰も居ない――?」

もう外はすっかり暗くなっている時間だというのに、帰宅した家には珍しく人の気配がなかった。
玄関は勿論、いつもは温かい明かりが灯るリビングも真っ暗。
食欲がそそられる夕飯の匂いもしない。

電気をつけるとダイニングテーブルにおば様の書置きが置かれているのに気付いた。

「“裕樹を連れて少し出掛けます。夕飯は作れそうにないのでお惣菜買って帰るわね。ちょっと遅くなりそうで申し訳ないけど、お兄ちゃんと留守番よろしくね~♪”・・・かぁ」

でもこうして見渡す限りでは、入江くんも家には居ない感じ。
今日大学で入江くんを見かけた(捜し歩いていた)時に、部活に出るか訊ねたら、入江くんは今日は真直ぐ帰るって言ってた。
だとしたらこの書置きは見ただろうから、もしかしたらあたしと2人きりになるのが嫌でどこか出掛けちゃったのかな。
そうだったら悲しいし寂しい。
あたし、やっぱり嫌われてるのかな。

・・・ううん、そんな弱気になっちゃダメ!
だってこないだ(といってももうけっこう前の話だけど)入江くん、あたしの事『苦手だけど嫌いじゃない』って言ってくれたもん!
なぁんて、あの時の事を思い出すとまだちょっとドキドキして顔が熱くなっちゃうあたし。
好きって言われた訳でもないのに、何度思い出してもこうなんて我ながらどんな初心なのって思う。
ここは平静に、平静になるのよ、琴子!

「そ、そうだ、まずは買ってきたものを冷蔵庫にいれておかなきゃね・・・!」

あたしは自分に言い聞かせるように呟き、手にしたままだったコンビニの袋をテーブルの上に載せた。

「これがパフェ♪フフッ 美味しそう~~。あとで皆で食べようっと。それからこっちがチビの好物のジャーキー♪」

と、そこまで言ってふとある事に気が付いた。

「・・・ってあれ・・・? そういえば今この家、チビの気配もないような」

そう首を傾げた瞬間―、



「ったく、よくそれだけ一人でぶつぶつ喋れるもんだな。感心するよ」

心底呆れたような口調が背後から聞こえて思わず「ひ、ひゃああっっ!」と悲鳴をあげてしまう。

「うるせーな。まるで化け物でも出たような声出しやがって」

「・・・い、入江くん・・・? あ・・・チビまで」

いつの間に其処に居たのか、眉を顰めこちらを睨み見る入江くんは、チビを赤ちゃんでも抱くように腕に抱えて立っていた。

「こいつを散歩に連れて行ってて、今帰ってきたんだよ。それでこれから足洗ってやろうと思ってたとこ」

「あ、ああ、お散歩・・・。だから抱っこしてるんだね」

「そういう事」

事情を把握したあたしにフンと鼻を鳴らすと踵を返しリビングを出て行こうとする。


「・・・あ、待って!」

その背中をあたしは慌てて引き止めた。

「なんだよ?」入江くんが面倒そうに振り返る。
あたしはうっかり忘れそうになっていたジャーキーを入江くんに見えるように高く持ち上げた。

「あの、今日もまたチビにジャーキー買ってきてるの。足洗ったあと食べさせてもいいかな?」

入江くんはチビのしつけ全般をしているから、こういう事もちゃんと確認しておかなきゃいけない。

「そういやさっきお前、そんな事言ってたな。いいよ。ちょうどご飯時だし」

「そう?よかったぁ~」入江くんからのOKが出たところで今度はチビに向って話し掛ける。

「じゃあチビ、あとで入江くんに食べさせてもらってね」

「ワン!」言葉が分かったのかとひとつ元気に吼えるチビ。

とそこで入江くんがフッと小さく笑う。

「つかお前、まだ慣れねーの?チビはお前が好きそうなのに、可愛そうになぁ?報われなくて」

「な、なによ。そんな言い方しなくていいでしょっ」

図星を言い当てられたあたしは思わずどもりながら言い返した。
だって、チビにだいぶ慣れてきたというものの、やっぱり犬はちょっと苦手なんだもん。
チビは可愛いし好きだけど、成長著し過ぎてあたしはなかなかそれについていけない。
なるべくなら直接お世話するよりは遠くから見守りたいってのが本音。

「そっか、そうだよなぁ。お前今、チビと向き合うよう努力してる最中なんだもんな」

入江くんは相変わらずからかうような口ぶりで言ってくる。

「試練に立ち向かうって大変だよな。よーく知ってるよ」

最後そう言い残し、ニヤリと口角を引き上げるとチビを連れてリビングを出て行った。
チビがじゃれているのかワンワンと楽しそうに鳴いている。

また一人になったリビングで、なんだか色々聞き覚えのある言い回しにあたしは小さく「・・・やっぱりイジワル」と呟いたのだった。





後半もすぐ出しますので^^v
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