::Late present ~cannot be without you~
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



  看護師の試験の日の帰りにね、雪が降って来たの。
  その日は朝から寒くて、空は鼠色で。
  今にも降って来そうだとは思っていたんだけどね。
  
  皆と別れて電車に乗ってたら、窓から見える雪の粒はどんどん大きくなっていって、
  駅についた頃には少し地面に降り積もっていたの。
  その中をお家までザクザク歩いて帰ったの。
  折りたたみの傘を差して、時々傘を傾けて街頭に反射する雪の白を眺めながら。

  そしてね、思ったの。
  今度雪が降る時には、入江君と一緒に見たいって――






23時30分。長い1日は漸く終焉を迎え、琴子は直樹の胸の中に包まれた。

―― やっと、一緒に働けるな――
―― けっこういいじゃん、そのカッコ――

優しい笑顔で直樹に祝ってもらえ、それまでの苦労が吹き飛んだ琴子は、寒さも忘れて構内で直樹に話続けていた。
今日どうしても会いたかった理由なら、一晩中でも話し続ける自信がある琴子はベンチに座った直樹の前に立ちはだかるようにして身振り手振りで此処に至った経緯を話し続ける。


「でも今日は雪じゃなくて嵐だったぞ」

「そ、そうなんだけど。でも受かった事、どうしても入江君に会って伝えたかったんだよ!」

「はいはい、わかったよ。お前の根性はホント凄えよ。しかし…そのカッコで鞄も置き忘れて。お前ってやっぱり…ククッ」

「もう、これも入江君を驚かせたかっただけなんだもん!」

「ほら、これ羽織れ」

「でも、それじゃ入江君が風邪引くよ」

「そのカッコでこれから外歩く気か?」

「///// ありがと」

小柄な琴子が直樹のコートを羽織る様は、父親のコートを借りて着た子供のような姿であった。

「ぷっ、まるで合羽着た子供みたいだな。長靴だし」

「し、しょうがないでしょ!?本当に凄い嵐だったんだから!」

「よしよし、頑張った頑張った。そんなに頑張って…これからどこに行くの、お嬢さん?」

からかわれているのだか可愛がられているの分からないが、頭を撫でながら琴子を見つめる直樹の瞳は優しく、琴子は嬉しくなって無邪気に返事をする。

「えーっとね、旦那サマのお家!!」

「それじゃそろそろ行くか?」

「うん♪」

2人は共に歩きだす。直樹の左腕には琴子の小さな手が引っ掛かっていた。

***


「なんだかどんどん寒くなって来てるね。あ、入江君。ちょっと寄ってもいいかな」

立ち止まった場所はコンビニ。

「ほら…私、荷物持ってないから。それに、お財布も無いんだけど///その、買ってもらってもいいかな」

確かに必要なものが色々とあるだろう。一人暮らしの直樹の家にある琴子専用の物と言えば、マグカップ位だった。それはつまり、琴子がこの1年なるべく直樹を頼ることなく日々を過ごした事の証。

「腹も減ってるしな。この時間じゃ空いてる店も殆どないし、部屋に食料も無いから何か買っていくか」

2人は煌々とした明りの中に足を向けた。

-入江君に買ってもらうんだから、必要最小限にしなきゃ。あ、一日お泊りセットだって。急なお泊りって結構あるものなのかしら。ふふ、なんだか彼氏の家に急に泊る事になった女の子みたい!!

「…また何か妄想してるだろ、お前」

「ハッ べ、別に何も…」

「ふーん。で、これだけでいいのか?」

琴子がカゴに入れたのは歯ブラシと基礎化粧品が1日分セットされたもの。それと下着のみだった。

「シャンプーとかいらねえの?俺のしかないぞ」

「うん、入江君ので大丈夫だよ。あとはお弁当だね」

2人は弁当売り場へ移動する。

「…何も無い……」

「時間が時間だからな。何か別の物選ぶか」

陳列棚を少しずつずれながら見ていく。新しい商品を入れる直前の店内は、悲しくなるほど品数が少なかった。

「しょうがねーな。これにしとくか」
直樹はご飯のパックとレトルトパウチをカゴに放り込む。

「で、でも入江君も疲れてるのに。お腹なら平気よ、食べなさすぎで空腹感もどこか行っちゃったみたい――」
  ぐううぅぅぅ―――

直樹を気遣って食事を辞退しようとする琴子の言葉とは裏腹に、お腹は正直な反応を示した。

「//////」

「ったく正直な腹だな。俺も腹減ってるから構わないよ」

「う、うん///」

会計を済ませ、再び並んで直樹のマンションへと足を向けた。

***

「もしもし。俺、直樹。ああ、最終でこっちに着いた。とりあえず無事だった事報告しようと思って。…ああ、俺も明日は休みだから。夕方にはこっち出るようにさせる。…はいはい、分かったよ。じゃあ切るから、おやすみ」

ガチャ 紀子の声が受話器からまだ聞こえていたが、直樹は受話器を元に戻した 。
部屋の中は漸く暖房が効いてきた。

「おかあさん、心配してた?」

「無事着いたって言ったらいつも通りになったよ」

「そっか」

「ほら、出来たぞ」

そう言って直樹は小鍋とご飯茶碗を琴子の目の前に置く。

「ありがとう。実はお腹ペコペコだったの」

小鍋の中身は、雑炊。いつかの夜を再現したようなそれは、今晩は2人食べられる量が作られていた。


「ふふ。やっぱり入江君が作ってくれる雑炊はおいしいね」

「作るって言うほどのもんじゃないぞ」

「ううん、それでもやっぱりおいしい!」

「それはどうも。それにしても…変な気分だよな」

「ん?」

「なんで俺の前で飯食ってる女は今、ナース姿なんだろうな、って」

直樹は自分のカーディガンを羽織った琴子を眺めてクスリを笑う。

「…新幹線でもコスプレだとか色々言われた」

「だろうな。さ、風呂も湯入ったし、お前から入っていいぞ。そのカッコじゃ寒いだろ」

「ううん、部屋も暖まっているし大丈夫。入江君こそ3日連続手術でヘトヘトの所に、あんな寒い所でずっと待ってもらって。疲れたでしょ。せめて後片付けは私がするから入江君、先に入って」

「そうか?じゃ、お先に」

***

「お風呂ありがと。すっかり暖まったよ」

風呂を終えた琴子が脱衣所から出てきた。身に付けているのは直樹のパジャマ。小柄な琴子が直樹のものを着るとやはりぶかぶかで、琴子は袖やズボンの裾をを幾重にも折りこんでいる。

「そろそろ寝るか」

「そ、そうだね。今日は大変な一日だったし」



シーンとした室内・・・


豆球の明りの元、実家の寝室とは大違いの狭さのシングルベッドで2人は横になっていた。

「…入江君、起きてる?」

「ああ」

「ね、こうしているとあの日のバレンタイン思いだすね」

「…そうだな」

もう何年前のバレンタインになるのだろう。あの日の琴子は、色んな事情で突如直樹の一人暮らしの部屋に泊る事になったのであった。

「クスッ 今日は雪じゃなくて嵐だったけど。でもあの日は本当に私、ドッキドキだったんだから」

「知ってるよ。すげえ動揺してたもんな」

「だって、入江君と一夜を過ごすと思うと緊張しちゃって」

「そのわりに、凄い寝相で寝てたけど」

「あ、はは……」

「俺の方が参ってたのかもな」

「え?」

「あの日、実は俺の方がお前と一晩過ごさないといけなくて動揺していたのかも」

「///そ、そんな訳ないよ!だ、だってあの時の入江君、『悪いけど何もしない』って…」

「お袋の思うつぼにはなりたくない、とも言ったぞ」

「うん。おかあさんに無理矢理私を押しつけられたんだもんね」

「フッ お前ってほんとに言葉を額面通りにしか受け取らないんだな」

「どういう事?」

「お袋の策略じゃなかったら?俺があの時自分の判断でお前を泊らせていたら、あの時我慢出来たかな」

直樹は半身を起き上がらせてじりじりと琴子に顔を近づける。

「キスしたり、もっとそれ以上の事したり…」

「い、入江君///」

「時の流れは偉大だな。今は躊躇なくお前に触れる事が出来る――」

そう言って直樹は琴子の着ているパジャマのボタンに手を掛けた…


***


「フフ 入江君、くすぐったいよ」

先程までの激しさはなりを潜め、琴子は直樹の腕の中に優しく包まれていた。琴子を背中から抱きしめ脚を絡ませていた直樹は、琴子の項に鼻を近づけている。

「もう、なにしてるの」

「いや、今日は同じ石鹸とか使ってるのに、やっぱり匂いは違うと思って」

「そう?」

琴子は身体を直樹に向き直し、直樹の首筋をクンクンと嗅いでみる。

「ほんとだ、私とは少し違う。入江君の匂い…大好き」

琴子は少し顔をずらして直樹の鎖骨に唇を滑らせ、少し強く吸う。

「えへへ、ついちゃった」

「…ついたじゃなくてつけた、だろ」

イタズラ気に笑う琴子を直樹は睨む。

「さっきの仕返しだもん」

「バーカ」

2人は見つめ合い、軽いキスをしながら再び脚を絡め合う。

「あの日ね、雪のバレンタインの日。同じシャンプー使ったり入江君のパジャマ借りたり…それから何よりも入江君と一晩一緒って事にドキドキし過ぎて目的のチョコを渡す事、忘れちゃったんだよね」

「そういや貰ってないな、あの時には」

「でもね、今日まとめてあの日の分もバレンタインって気分を味わえたなぁ。初めて入江君の部屋で過ごした夜と、それから、今年の分と」

「今年は当日必着で、宅配が届いたけど」

「そ、そうだけどやっぱり何よりも会いたかったから。で…、でね?昨日の合格発表の後、入江君に会いに行くって決めてから急いでブラウニー焼いてきたんだよ。でも、鞄の中だからやっぱり渡せなかったな。私、つくづくバレンタインに縁がないんだよね」

「お前は毎日がバレンタインみたいなもんだし。それに…今回はちゃんとプレゼント貰えたよ」

「え?そ、それって///私…?」

「ぷっ、バーカ」

「えっ違うの…!?」

とんでもなく恥ずかしい事を言ってしまったと、琴子は真っ赤になる。隠れるようにシーツに顔を埋めると、それを直樹に引き剥がされてしまった。

「や、ちょっ…!見ないで、恥ずかしいから!」

「いや、間違ってはいないよ。ただ、今日はそれよりもっと…」

そう言いながら直樹は琴子の瞳を自分に向けさせる。

「…?」

「合格の報告。それが一番のプレゼント」

琴子の目から、瞬く間に涙が零れる。

「うん、うん…!入江君の隣に居られる為に、この1年頑張ったの…!」

「ああ、嬉しいよ」

琴子が落ち着くまで、直樹は静かに琴子を抱き締めながら髪を撫でてやった。



「…ありがと、落ち着いた。今日は涙腺緩いや」

漸く琴子は顔を上げ、直樹に微笑んだ。

「そうか」

直樹も琴子を見つめて微笑む。…しかしその笑顔はイタズラを思いついた時のもの。そして、琴子はこの笑顔の意味を知っている。

「あの、入江君…?」

「なに?」

直樹は琴子の髪を耳に掻き上げながら返事をする。

「良かったら…、もう一度///どうかな、なんて…」

珍しい琴子からの先手に直樹は一瞬驚くが、直ぐ体勢を立て直す。

「お前にしては積極的だな」

「だって、今日は遅れてやってきたバレンタインだから」

「…じゃ、遠慮なく頂くかな」

直樹は琴子の細い腰に手をあてがい、自分の上へと誘導した――。





  2人はまだ知らない。今、外に雪が降っている事を。
  でも大丈夫。この雪はまだ当分降り続けるから…。

  暫く経てば共に見られる。
  空から舞い降りる、美しい白を―。





勝手にバレンタイン企画第3段です。

なんとか間に合いました(^-^)

最後のお話だし、バレンタイン当日なので甘く甘く~と唱えながら書きました。
どうでしょう。甘いかな…

鍵付きは断念。望んでいる方も、多分少ないでしょうし^_^;

お付き合い頂き、ありがとうございましたm(__)m


20巻スキマ  コメント(6)  △ page top


<<prevhomenext>>
::コメントありがとうございます!
繭様
お返事下さってありがとうございます(^-^)
今どきの女の子はスゴいんですね!ウチもいずれそうなるのかしら…?本命が出来た時は頑張って自力で作るのかな(^-^)寧ろそっちを手伝ってあげたくなるのが母心かもです☆
大雪や嵐の日は…心配過ぎなので私もご遠慮願いたいです(笑)
編集 △ page top
::コメントありがとうございます!
ルナルナ様こんばんは!
ホント雪の日の一夜は、入江君にとって大変だったでしょうね(;^_^A
甘甘がいいと仰って頂けてホッとしてます。かなり原作から遠ざかってきてる気がしてたので(笑)スキマを強調しているのに、いいのか?って。でも折角の二次の世界ですもの、好きなように、これからも甘い話を妄想させていただきます♪成る程、確かに入江君って自分を曝け出すという意味で琴子には甘えてますね!そう考えると、入江君ってかっこいいだけじゃなく、可愛く見えてきました~(//∀//)
編集 △ page top
::拍手コメントありがとうございます!
なおき&まーママ様
こんにちは。お久しぶりです^^
もしかして体調を崩されているのでは・・・と思っていたら新型だったんですね><
大変でしたね。復活されたとの事でひとまず安心しましたが、まだまだ寒い日が続きそうなのでお体にはどうぞお気をつけ下さいね。

そして、バレンタイン企画全ての作品へのコメントを寄せてくださってありがとうございます!!凄く嬉しいです^^
まずは一つ目。
祐樹にいつから琴子のことを好きだったのか尋ねられて答えたのをコミックで読んだときに、「それ、琴子に言ってあげて!」と思った所から始まったお話。多分直樹は言わないでしょうが、ここは私の自由な妄想部屋ですので(笑)自分達が兄弟なんだなとヒシヒシと感じたのであれば、相手が言葉を求めているときには伝えなければいけないと改めて感じたのでは・・・と。琴子が言葉での意思を欲している以上は答えてあげるんじゃないかな、と自分の良いように転がしてみました。
そして、なおき&まーママ様に言われてハっとしたんですが・・・確かに祐樹と好美ちゃんがパーティをふけてしまう可能性もありますよね!でも好美ちゃんもセーターの完成は未だみたいだったし。何より2人は素直な子達ですから(笑)という事でまた自分の都合の良いように解釈しました♪

次、モトちゃんのお話。
妖艶なオカマww(笑)
はい、私が店員なら同じく妄想しますね。プレゼントって誰に?彼氏?みたいな(笑)
琴子は天然なので、モトちゃんの深い愛には気付かない事でしょう。でも、モトちゃんもそれでいいんですよ、きっと^^

次、雪の日シンクロ話。
あの大雪の日、直樹は絶対に悶々としたはず!!「本当に信じられないヤツだな」の言葉は、寝相もさることながら、この状況で爆睡できる琴子の無防備さも指していますよね、きっと。
今はやりたい放題(笑)
ほんと、めっちゃ調教してそうですよねって、すいません。お気を悪くされたら(汗)
最後の琴子の行動に驚いていただけてよかった!構想を修正して正解でした♪
今、キリリク作品書き始めていますので、今しばらくお待ち下さいね^^
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
::No title
拍手コメントありがとうございます!

かやん様
こんばんは♪
直樹だって男の子ですもの。はっきりした気持ちが出ていない時とは言え、我慢したんじゃないでしょうか(笑)
そして…えへへ、当初はいつものパターンで直樹から仕掛ける予定だったのですが、バレンタインだし!と思って琴子から^m^
琴子って時々積極的なんじゃないかな、と思いまして(笑)急きょ方向転換してみました。

繭様
こんばんは♪
週末はお疲れ様でございました!20個ものともチョコ…!!女の子って大変ですねww
ウチは今年長さんですが、お友達2人とあとはパパと、土曜日に遊びに来たパパの会社の後輩君にプレゼントしました^m^
私は旦那の分も含めて全部買いました(笑)一応、限定ものを年明けから予約していました。私もおこぼれを…と狙っていたけれど、全部彼に食べられてしまいました(T_T)
すいません、話が逸れて(苦笑)
忙しかった繭様のご褒美になったなんて、撮っても嬉しいです(^^)元々甘い直樹ばかりのブログですが、今回はさらに甘く甘く書いてしまいました。胸やけしていませんか(笑)?
P.S. ナース服に欲情させると収拾がつかなくなりそうなので、今回はあえてのスル―です(笑)やっぱりつっこまれましたねww
私も根っからの大阪人なので、センスはともかく、ツッコミ、ツッコマレには慣れています(笑)どうぞ、どんどんして下さいな(^^)

りきまる様
こんばんは♪
ありがとうございます^m^ドキドキしていただけましたかww♪
このブログって、本当に胸やけしそうなほど直樹が甘甘なんです(苦笑)でも、バレンタインなので更に糖分全開で行かせて頂きました!!
入江君の、新幹線で琴子に「よく頑張った」っていう所の表情、大、大、大好きなんです!!めっちゃカッコイイ!!って(*^_^*)
そのままの優しい入江君を書いてみたくて☆
鍵付きも大歓迎と仰って下さってありがとうございます。また、そのうち…(笑)

藤夏様
こんばんは♪
またまた過去に遡るお話を書いてしまいました^_^;このパターン、私好きですねww
このお話、はじめは受験を終えたばかりの琴子を書こうとして、書ききれず放っておいたものから派生したんです。取りあえず、無駄にならなくてよかった♪
琴子から誘うのは、最後の最後に変更したんですよww意外性としては良い方向に転がったかな、と思います(*^_^*)
藤夏様にとってのバレンタインプレゼントになれたなんてとっても嬉しいです(^^♪こちらこそ、そんなお言葉が最高のプレゼントになりました。ありがとうございます!!
編集 △ page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| home |
Copyright © 2017 Swinging Heart , All rights reserved.