::スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
スポンサー広告 △ page top


::One-man play
10

秋が少しずつ深まっていく中、街が黄昏に染まる時刻も段々と速まってきている。


その紅い色が今日はやけに目障りだ。

自分の心奥底を、やっとの思いで蓋しているというのに、その蓋をこじ開けるようにボコボコと沸騰するマグマ。

それは、誤魔化し続けている己の心が叫び声あげているかのよう。

それでも、その蓋を開けてはいけない。覗いてもいけない。

そう、それは同じような黄昏色に染まる街の中を、あいつと並んで歩いた家までの道すがら、心に決めた事だから―――



「素晴らしい絵画を沢山見られて、本当に堪能出来ましたわ。私、一点一点時間をかけて眺めてしまったものだから、気が付いたら閉館時間になってしまって。直樹さん、飽きちゃいませんでしたか?」

綺麗に笑いながら直樹への気遣いの言葉を掛ける沙穂子に、直樹は機械的に優しそうな笑顔をつくり、

「いえ、俺も楽しんでいたので大丈夫ですよ。フェルメールが特に良かったですね」

と答える。

元々メトロポリタン美術館展に行きたいと言ったのは沙穂子だった。

どの作品も熱心に見入っていたので、本当に美術鑑賞が好きなのだろう。

その中でも特にその画家の作品の前では絵画と解説を何度も熱心に見ていたので、特に気に入った事は充分推察できた。

正直全ての作品を集中して鑑賞することは出来なかったのだが、彼女の一番喜びそうな言葉を選び出し、口にする。


「まぁ、直樹さんもそうでしたの?実は私もフェルメールが一番印象に残ったんです。フフ、同じものが気にったなんて、私たち、趣味が合うのかしら。あの、今度年明けにフェルメール展があるんですよ。宜しければそちらも観に行きませんか?」


予想通りの嬉しそうな反応に、直樹は「ええ、是非」と答えながらまた笑顔を作る。



ああ、自分はいつまでこの仮面を被り続けるのか。

そう、いずれ結婚するのだから、これを脱ぎ捨てることは出来ないのだ。

年が明けても、おれの隣に居るのは、この綺麗な女性。

決して、あいつではないんだ・・・



閉館時間まで美術館に滞在する事を見越して予約しているレストラン。

そのレストランまでタクシーで移動する際の所要時間。

全て的確に把握している。

彼女の喜ぶ言葉を瞬時に選んで言葉にし、スマートにエスコートする。

今の自分は、精巧に出来上がったロボットのようだ。




でも、心奥底の蓋の下で、血の通った思いが声を振り絞っている。



こんな型にはまったデートより、いつか、あいつの手を引いて行ったあの公園の方がどれだけ楽しかったか。


洗練されたレストランで食べるコースより、あいつと食べたハンバーガーの方がどれだけ美味かったか。



己が今、隣に居て欲しい人、逢いたい人は誰なのか―――




あいつの描いた夢の中で生きたかった。

それは、俺が初めて描けた将来のビジョン。

でも、どうやらそれはもう叶えられない絵空事に成り下がってしまったらしい。


今、あいつは何処で何をしているのだろう。


さっきあいつが俺に見せた表情は、

「会いたくなかった」

「見られたくなかった」

「馬鹿にしないで」

「そっとしておいて・・・・」



どれも、俺の望む言葉じゃない。

自分で仕向けた事なのに、もう、俺が心から欲しているあの言葉を聞くことは出来ないのか。

隣に居る男に向ける、その笑顔が、俺に向けられることはないのか―――


今、俺はこの隣にいる綺麗な女性に、心のない優しさを見せているが、賢いこの人は、こんな馬鹿な猿芝居、気付き始めているのだろう。


それでも、演技を止められない俺が居る。滑稽な道化師だ。



そして、道化師は芝居を続ける。



「これから、どうしますか?夜景でも見に行きましょうか」


早くに帰りたい。あいつが「おかえり」と迎えてくれる家に。

あいつは、まだ俺をそう出迎えてくれるのだろうか。



・・・琴子に、逢いたい。



でも、今日はまだ帰る事が出来ない。

先に帰って、あいつの帰りを待ちわびてしまう訳にはいかないから――――






こちらも投稿サイト様にて掲載させていただきました。
余談ですがこちら、福山雅治さんの「恋人」をイメージしながら書かせて頂きました。

10
10巻スキマ  コメント(2)   トラックバック(0)  △ page top


<<prevhomenext>>
::コメントありがとうございました。
おかきさん

こんにちは。先日はコメントをありがとうございました!
ここまで読み進めて下さったんですね~。これはあとがきにも書かせていただいているとおり、投稿サイト様に出させていただいた物を再掲したものです。今よりさらに拙くってお恥ずかしいです(^^;)

福山さんの歌も検索してくださったんですね!たしか『君が描いた夢の中で~』という部分に気持ちがリンクしてしまったんです。2人にとって辛く切ない秋でしたよね。

それから、ゼロのスキマ!そうなんですよね。ここまで創作してきて、それなりに数も書いたはずなのに、まだ何も書いていないスキマがあるんですよね。
このあたりもいずれ妄想を膨らませて書いてみたいと思います。ありがとうございました!
編集 △ page top
::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
編集 △ page top
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

| home |
Copyright © 2017 Swinging Heart , All rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。