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夕暮れ時。空が赤く染まる中、直樹は久しぶりに早めの帰途についていた。

今年に入り漸く落ち着いて医学の道を目指せるようになってからというもの、夜遅い時刻まで研究室に留まる事が多かった。特にここ二週間は、論文発表に向けての準備で家に帰ってからも書斎に向かう時間が長く、結果琴子と過ごす時間は少なかった。

思う所が無い訳はなかろうが、その事について琴子が不平を言う事は無かった。これまでの付き合いの中で、直樹が今真摯に勉強している事を誰より理解し、応援しているからというのは勿論であるが、長い片思いの中で、ただ直樹が傍にいるだけで幸せだという思いが強い所為だろう。

その事について一番口煩く言ってくるのは、いつもの如く母である紀子である。今日の午後、3限目が終わるのを見計らったように、直樹の携帯が鳴った。

今までの遅れを取り戻すべく(実際は遅れるどころか追い越して今や抜きん出ている)、春休み返上で大学に通う直樹と違って、来月からは文学部4回生の琴子は春の長い休暇を過ごしていた。その間、未だテニス部に顔を出したり、友人と会ったりもしているが、入江家の嫁として不得手ながらも家事の手伝いを懸命にこなしていた。いつも元気なその姿は入江家の中を明るく彩っている。
しかし、今日はどうも様子が違うというのだ。

紀子が言うには、朝からどこかぼんやりしていて、話しかけても生返事らしい。午後のお茶の時間にリビングで琴子の好きなケーキを一緒に食べようと誘っても、食欲が余りないからと断って寝室に入ってしまったという。

――お兄ちゃんが琴子ちゃんを放っておくからよ!!春休みなのに勉強ばっかりしてちっとも愛する妻との時間を大切にしないから!!いい、今日こそは早く帰ってらっしゃい。それで琴子ちゃんに優しくしてあげるのよ。邪魔者は退散しといてあげるから、分かってるわね!?

一体何処の世界にこんなに嫁の肩を持って、昼間から夫婦生活を煽る姑がいるのか…。直樹は一方的に通話が切られツーツーとなる携帯を切ると溜息をついた。
言われなくとも、昨夜から琴子が考え事をしている事位分かっている。論文の区切りもついた事もあって、もとより早めに帰るつもりだった。
話を聞いてやる為という建前と、直樹自身が琴子と過ごす時間を渇望していたからである。


門戸で立ち止まり、念のために呼び鈴を鳴らすがドアが開く事もなければ、インターホンから応じる様子もない。直樹は階段を上り、自らの玄関を解錠した。
リビングに立ち寄るが誰も居ない。宣言通り紀子は家を留守にしているらしい。テーブルには2人分の夕食が温めるだけで良いように用意されていた。
ドアを閉めて2階へ上がると、寝室の前で立ち止まり中の様子を窺う。まるで誰も居ないような静けさだ。
軽くノックして扉を開けると、琴子はデスクに向かっていた。しかしノックにもドアが開いた事にも気が付いていないらしくこちらを振り向く事は無い。しかし、その訳はすぐに分かった。琴子の頭にはヘッドホンがセットされていた。

寝室にもオーディオぐらい置いてある。何故、ヘッドホンで聞いているのかと思いつつ、琴子が気付くまで待ってみる事にしてベッドに腰掛けて琴子を眺める。
目を瞑って音楽を聴き入っているらしい琴子は曲に合わせてハミングしていたが、やがて声に出して歌いだした。
はじめはギョッとした直樹だが、聞いている歌手の歌い方を真似ているのだろうか、甘い独特の囁くような声で歌う姿に琴子の意外な一面を発見しながらそのまま様子を観察する事にした。しかし、なかなか気が付かない琴子に痺れを切らして近づき、背後からヘッドホンを取り去る。
琴子にしてみればそれは突然の出来事で、顔を真っ赤にしながら椅子からピョンと立ちあがった。

「へっ…え、ええ!?い、入江君!!」

「…よぉ。ご機嫌だな」

「あ///いつからここに…?」

「お前が気持ちよく歌いだす少し前から」

「き、聞いてたの…?」

「演歌以外も歌うんだな」

「あ、あのね、昨日じんこから借りたの」

「そういや昨日小森達と会うって言ってたな。で、なんでわざわざポータブルプレーヤーで聴いてるんだ?」

「別に大した意味なんてなんて無いのよ?ただ、ほら…、邦楽って普段入江君聴かないじゃない?」

「変なトコで気遣うんだな。あえて聞く事は無いけど邦楽が嫌いな訳じゃないんだしオーディオで聴けばいいのに。で、何聞いてたの」

「新しいものでは無いんだけどね。たまたまじんこがポータブルに入れているCDに飽きた時用にって鞄に入れていたの。話の流れで聴かせてもらったら気に入っちゃって、そのまま借りたの」

そういって琴子はアルバムのジャケットを差し出す。それは一般的には十分な知名度の女性アーティストのアルバム。しかし、そういった方面には疎い入江家で流れるような類のものでは無かった。

「ふうん」直樹は受け取ってしげしげとそれを眺めた。

「…そう言えばお前、食欲無いの?お袋が買ってきたフルーツタルト、食べなかったんだってな。珍しいじゃん」

「あ、違うの。このCDが聴きたかっただけで…悪い事しちゃった。お義母さんは?」

「出掛けたよ。夕飯も外で済ましてくるって。テーブルに俺達の夕食置いて行ってる」

「そっか。じゃあ今日は2人きりなんだね。そうだ、まだ夕飯食べるには早いし、ケーキ食べようかな」

「じゃ、俺にコーヒー入れて」

「うんっ、ちょっと待っててね!」

琴子はにっこり笑って階下へ駆け降りて行った。



直樹は琴子のポータブルプレーヤーからCDを取り出してオーディオにセットし、再生させた。先程琴子が口ずさんでいたような、独特の甘い歌声が流れる。
普段聴かない類の歌だが、その直接心に響くような曲に、悪くないと直樹は素直に思った。
琴子の座っていた椅子に腰かけ、デスクに置かれていた歌詞カードを眺める。
やがて開かれたままの扉からコーヒーの香りが漂い、階段を上って来る足跡が聞こえてきた。

「おまたせ。…入江君、聴いてたんだ」

そう言いながら琴子は直樹の前にブラックコーヒーを置く。そして直樹に対して90度の角度で、自分用にミルクのたっぷり入ったコーヒーとフルーツのタルトを置いた。



「このCDを入江君と一緒に聴く事なんて無いと思ってたな。…どう?」

タルトを一口食べ、コーヒーで喉を潤しながら琴子が尋ねた。

「たまにはこんな曲を聴くのも悪くないな」

「ふふ、良かった。独特の歌い方でしょ?」

「ああ。さっきお前も真似して歌ってたじゃん」

「へへ…。聴いていると同じように歌ってみたくなっちゃって。なんか感情移入しちゃうって言うか」

「へぇ。どの辺が?」

先程歌詞カードを眺めていたので、琴子の言わんとする事は分かっているのだが、あえて直樹は琴子の口からその答えを求める。

「上手く言えないんだけど、私が入江君に思っているような気持ちが、沢山歌われているの」

「成程ね」

見つめ合う2人の間には、先程琴子が歌っていたフレーズが丁度流れている。


 ~ 愛でも何でもKissでもいいから色々してたいわ。ギュッと私を抱きしめて ~



「…こっち来いよ」

直樹に言われるがまま、琴子は直樹の膝に座り、直樹を見上げた。そして、2人は短く唇を重ねる。


「こうして入江君と向き合うの、久しぶりだね」

「そうだな。ここ最近特に忙しかったし。でもお前、珍しく文句ひとつ言わなかったじゃん」

「珍しくって…、これでも入江君の事一番応援しているのは私なんだから!」

「知ってるよ」

直樹はニヤリと笑って琴子の頬にキスをする。

「////」

「…腹、減ったな」

直樹はそういいながら琴子に熱のこもった視線を送る。

「あ、じ、じゃあ入江君にもケーキ持ってこようか?それとも早いけど夕飯食べようか?」

何かを感じ取った琴子はあたふたと返事をして直樹の膝を降りようとするが、しっかり腰を捉えられてしまう。

「…お前、このCD全部聴いたんだよな」

「う、うん」

「じゃあ、俺が腹減ったって言ったら、お前が言うのはそんな科白じゃないだろ?」

「あ…なんで……まだ、そこまで流れてないのに///」

「ん?お前もちゃんと覚えてるんだな」

直樹はイタズラ気に笑うとそのまま琴子を抱き上げて、ゆっくりベッドに下ろした。


 ~ お腹が空いた時のあなたの決まり文句を待ちながら冷蔵庫をしめた。…『あたし以外は何もないんだから』 ~

テーブルには、まだ一口しか食べられていないタルトと、まだ温もりを残したままのコーヒーが残されていた――




***


オーディオから流れるCDは、リピート設定の為流れ続けていた。



「…で?小森から借りたこのCDでなんでお前はそんなに考え込んでる訳?」

シーツに包まり、直樹は琴子の髪を撫でながら尋ねた。

「…気付いてたんだ」

「まぁな。お前、分かりやすいし」

琴子は少し憂いた表情をみせ、ポツポツと話し始めた。


「そっか。うん、あのね…私も来月から4回生じゃない?昨日理美とじんこと会ったときにね、卒業後の進路の事を話したの。4回生なら当たり前なんだけど2人は就活なんてとっくに始めていてね、特にじんこはきちんとやりたい事も明確になっているんだよね。なのに私は…これから何がしたいのかなって」

「前にもこんな話した事あるよな。…で?」

「うん。…このCD聴いてみて、さっきも言ったけど、ストンってきたの。私、入江君に出逢ってからというものいつでも入江君が生活の中心で、今こうして結婚で来て本当に幸せなんだけど…でもこれで満足しちゃっていいのかなって。
入江君は昔何でも出来るからこそ夢をなかなか見つけられなかったけど、今はちゃんと見つけてそれに向けて前進しているわ。私も、入江君にふさわしい人でありたいの。入江君は…、私にどうなってほしい?」

琴子はひとしきり話し切ると、直樹の瞳を真剣に見つめた。そんな琴子を直樹は静かに見返した。

琴子の将来。それは直樹も考えている事であった。

さっき琴子が自ら話した通り、誰の目から見ても間違えようも無く琴子の世界は直樹を中心に動いている。片思いの頃ならいざ知らず、今やれっきとした直樹の妻である琴子がそのまま直樹に寄りかかる事は、見方によっては全く問題の無い事だ。
直樹だって、琴子が本当に望んでいる事であるのなら、大学卒業後専業主婦になったとしても全く構わないと思っている。しかし琴子が求めている答えがそれとは違う事は、前々から分かっていた事だった。

直樹は自分が医者を志すと決めて間もない頃の琴子との会話を思い出す。

まだ琴子にだけしか自分の将来の夢を打ち明けていなかった頃にも、2人で将来について少し話した事がある。
その時も琴子は、「入江君のお嫁さん」ではなく、直樹をサポート出来る人間になりたいと願っていた。

つまり、直樹が医者を目指す以上、琴子の夢も心の奥底にではあるが、自ずと存在しているはずなのだ。しかし、それが昔直樹が言ったように「超非現実的な夢」であるため、なかなか直視できずにいるのであろう。
だから、今自分がその事に言及すべきではないと思っている直樹は、ただ聞いてやることしかできない。

「ゆっくりでいいから…、ちゃんと考えろ。誰の為でもない、お前の人生なんだから」

「うん、そうだね。…ありがと」

琴子は漸く少し微笑うと、直樹の胸に身を寄せた。






【あとがき】

う~ん、湿っぽいですねぇ。最近また寒いですから…私の頭まで冷え込んでいるようです。
こんなものをUPしてすみません。

大学4年の頃の琴子って、幸せなんだけど、将来が見えていなくてジタバタしていますよね。
直樹は、そんな琴子を静観していて…
きっと、こんな時間もあったんじゃないかなぁと…

あ、私も今ジタバタしています。妄想、降りてこい!!

因みにこの話で出てくる女性アーティストはC/h/a/r/aで、アルバムは【Junior / Sweet】です。
かなり前のアルバムですが、大好きです。
はじめのフレーズは[や/さ/し/い気持ち]、あとのフレーズは[Junior / Sweet]から引用させていただきました。






12巻スキマ  コメント(5)  △ page top


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::コメントありがとうございます
せっかくの金曜の夜、思う存分妄想したいのに、旦那にパソを使われていてふてくされて携帯からコメント入れているぴくもんです。こんばんは。
コメントありがとうございます!以下、お礼です(^-^)

藤夏様
おねだりしたら、実は続きを出して下さっていたんですね!失礼しました、そしてありがとうございます(^O^)猛反省直樹が待ってるなんて、ダッシュで迎えに行きましたよ!!(笑)
早速コメ残させて頂きました!嫉妬直樹、書いてみたい~(何度言うのか?じゃ、書けよって感じですが…)続き、楽しみにしてます!とここでもLOVE call♪

なおき&まーママ様
そうそう、歌より甘~い2人でした(;^_^A
CHARA、やっぱり真似て歌っちゃいますよねww私もです(笑)CHARAに限らず、林檎なら巻き舌とかね(;^_^A友人に、「ぴくもんの声、森高真似出来そう」と言われれば即効披露。聖子ちゃんもと言われ更に調子をこき(笑)こうなると芸人か?って感じですね…ハハ。
色々とスランプ脱出の案を教えて下さってありがとうございます!お題で修業、そのうちするかも!!スキマに拘ると行き止まりが直ぐにやって来そうですし(爆)キキのお友達の言葉、拾って下さって(^O^)そうです!そこです!!それでもダメなら?とキキが聞くと「書くのやめる」って言うんですが(汗)いえいえ、私はあがきます(笑)またお付き合いください(^-^)

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このコメントは管理人のみ閲覧できます
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::コメントありがとうございます
一人勝手にスランプな気分に陥り(元々稚拙なのに何言ってんだか、って自分で激しく突っこんでいます。すいません)、ジタバタしながら書いたお話に暖かい拍手やコメントを残して下さってありがとうございます。
冷え切った頭も少し温まりました(^^)

それでは以下、お礼です。

くーこ様
こんばんは(^^)
ほんとですか?こんなお話でも好きと仰って頂けて良かった…!!
無謀にも詩とリンクさせてみたのですが、こんなクサイ事をして許されるのは直樹だからですよね^_^;
私の方こそ、くーこ様のコメントを拝読して幸せな気持ちになりました。ありがとうございます♪

藤夏様
こんばんは(^^)
藤夏様のお住まいの辺りも寒いんですね~。ほんと、早く春が来てほしいです!!花粉症持ちなので、辛い季節なんですがね^_^;
今回は素直にLOVELOVEではなく、どこか不安定な感じを書いてみたくて挑戦したんですが、書きあげて『あちゃ~』と思ってました。自称スランプ時に書く話ではなかったとちょっと落ち込んでたんです(苦笑)励まして下さってありがとうございます!!藤夏様にそう言って頂けたら少し気が楽になりました。
書けない時でも書いて書いて書きまくる!の精神でいきますww
ほら、『魔女/の/宅急便』でも絵描きの女の子がそう言ってたし^m^(お分かりになりますか?すいません、思考がすぐどこかに飛んでいってしまう癖があります)
藤夏様の再会の裏側の更新もお待ちしています!!と辺境の地からおねだり(*^_^*)♪

りきまる様
こんばんは(^^)
ありがとうございます。凄く不安な気持ちでUPしたので、そんな風に仰って頂けて本当に嬉しいです。
自分の不安にちゃんと気が付いて、話しやすい状況を作ってくれるパートナーなんて確かに素敵ですよね!直樹、イイ男だ…!!(このお話の直樹というより、直樹すきーな私の暴走コメントです^_^;)
こんな直樹に愛される琴子って本当に幸せ者ですね(^-^)

繭様
こんばんは(^^)
そうなんですよね…私が書くと直樹のあの鋭さが全くなくて(苦笑)どうすればいいのでしょうかねぇ(遠い目)
裏設定として、ゆっくり考えた末に何故か琴子は教生を申し込んだ…みたいな感じで想像しています。おいおい、そーじゃねーだろ!!と直樹罵声、ってイメージで(笑)
そう言えば、また琴子の髪を撫で撫でさせてました!!気が付かなかった…これ、私の癖!?いやいやいやいや、直樹の癖!!ですよ…?^_^;







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::素敵なお話ですね。
こんばんは、ぴくもんさま。
ベッドの中で夫婦二人、将来のお話をするっていうのもなかなか良いですね。
こんなやさしい時間を愛する人と過ごせるなんて琴子は幸せなんじゃないかなって思いました。

次回も楽しみにしています。
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::ラブラブ~♪
好きです~(*^_^*)
ラブラブ話はやっぱり見てて一番ホッとするし
幸せな気持ちになります♪

詩のフレーズに合わせて直樹が琴子を
ギュッと抱きしめる・・・素敵っ!!
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