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イルミネーション

配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。
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ホテルのエントランスを出てタクシーに乗り、「世田谷方向へ」と短く運転手に告げると、直樹は自分の襟元を窮屈に締め付けているネクタイに手をやり、その結び目を緩めて大きく息を吐きだした。

2人はロイヤルホテル鳳凰の間で執り行われたパンダイ新作ゲームソフトの完成披露パーティを中座し、タクシーで帰宅の途についている。


「お疲れさま。この何週間か、大変だったね」

「ああ。年末商戦に間に合わせなきゃいけなかったからな」

そう返事しながら、直樹はこめかみを指圧して相当疲れている事を自覚する。
眉間に皺を寄せる表情が、先程までの物腰柔らかく来賓と談笑する姿よりもずっと直樹らしく感じられ、琴子はクスリと微笑った。


「そういえばね、入江君があんなに愛想良く話してるところ見たの、はじめてだったかも」

「そりゃーな。企画・開発者だし、商品の事一番説明できるのは俺だったから」

「でも、本当にびっくりしたよ、入江君ってやっぱりすごいなってあらためて思っちゃった」

直樹は隣でテニスラケットのガットを手直ししながら嬉しそうに話す琴子にチラリと目をやった。


―― その原動力になったのは間違いなくお前なんだけどな。

本当にこの数週間で、良くもまあこの無謀なプロジェクトを完遂したものだと人ごとのように考える。
とにかく必死だった。自分の男としてのけじめを目に見える形で証明するために。


自分の足元を見つめた。手入れの行き届いた革のビジネスシューズ。漸くこれを履きなれたスニーカーに変えられる日の目途が付いたのだ――。


「それにしても、スーツ姿の入江君って素敵よね!須藤さんも『板に着いてる』って悔しがっていたよー」

そんな事を言いながら、琴子は直樹の姿を上から下までうっとりした眼で見つめる。その暢気さに直樹は内心苦笑する。早く脱いでしまいたいこのスーツを素敵だと言われても複雑な気分だ。


「パーティの間も、入江君が私の事を『妻だ』って紹介してくれたばっかりなのに、女の人が色めき立って入江君の事を噂してたわ。もう、これは入江君の妻になったからには覚悟はしなきゃなんだけどね」

そう言って琴子は額をポリポリと掻く。

「せめてこんな恰好じゃなくて綺麗なドレスでも着て出席していたら、もう少しあの人たちを威嚇できたかもしれなかったな。今日パーティだって事くらい話してくれていても良かったのに」

琴子は今、パーティに出席するのには全く似つかわしくないスコートにウィンドブレーカーとういういでたち。
少し恨めしそうに睨んでくる琴子を見て、直樹はニヤリと笑った。

「コトリンのイメージとピッタリだからな、その姿で正解だったよ。これから販促の広告やらでお前有名人だぜ?」

さも楽しそうに琴子を見る直樹とは逆に、琴子はぷぅと口を尖らせる。

「『コトリン』でじゃなぁ…。それはちょっとイヤかも」

「おれが作ったゲームの主人公でも?」

そう、父親の会社の業績を回復させる切り札であると同時に、自分の琴子への思いを目に見えるひとつの形にしたのが今回のゲームソフトだった。大抵の者がこのパーティでその意味に気が付いているだろうに、肝心の本人には伝わっていない。でも、それでいい。直樹は瞳を閉じてクスリと笑う。


「入江君が作ったゲームだから許してあげるてるのっ。もしアニメ部が作ったゲームなら肖像権侵害で訴えるわよ!」

「へぇ。お前にしてはまともな発言だな」

「し、失礼ね!私はいつだってまともよ!」

「どうだか」

「もう、やっぱりイジワルなんだから!―― わぁ、ねぇ入江君、窓の外、綺麗…」

プイと窓の方に顔を向けたた琴子は、その風景にさっきまでの軽い諍いをあっという間に吹き飛ばして直樹のスーツの袖をクイクイと引っ張った。

「なんだよ― 」

少し身を屈めて右にいる琴子側の窓の外に目をやると、琴子の視線の先には中央分離帯を挟んだ反対車線の向こうにある歩道の街路樹や建物を彩るイルミネーションがあった。


「ああ。それならほら、こっち側の方がよく見えるぞ」

直樹は自分側の窓を親指でクイと指差す。


「えっ、わ、わぁ…… 凄い」

琴子は少し直樹に寄りかかるように身を寄せる。自然と直樹の太腿に乗せられた手を直樹はそっと握った。

「ぁ…」

琴子は小さく呟いて直樹を見つめたが、直樹は相変わらず窓の外の光を見ている。琴子は握られたその手に少しだけ力を加えた。


「もうすぐクリスマスなんだよね。フフ、あれから1年経つんだね。懐かしいな」

「何が」


琴子は幸せそうな顔をして外を眺めている。直樹はその表情を窓ガラス越しに見つめた。

「ほら、去年のクリスマス。入江君、パーティ抜け出して家に帰って来てくれたでしょ?」

「そうだったっけな」

適当な相槌を打つように答えるが、このタクシーから見る光景は去年のクリスマスそのもので、直樹はその光を不思議な思いで眺める。



あの日もこうしてタクシーの中からこの光を 眺めていた。座席の隣に置いた大きなケーキとチキンバーレルが車体の揺れで落ちそうになるのを時々庇いながら、何故自分はこんな急いた気持ちで家路についているのかがよく分からなった。

でもあの時、寂しそうに犬のチビとダンスを踊ろうとしていた琴子の表情がパアっと明るくなる姿を目にした時、大いに満足した自分が居た。そしてそんな琴子が今自分の妻となって隣に居る事に、この1年の密度の濃さをあらためて感じた。


「あの日のイルミネーションは、リビングにある小さなツリーの光だったなぁ。あれはあれでなかなかのムードだったわよね」

琴子があの日を思い出し、ムフフと笑う。

「ケーキ、美味しかったよね」

「バカ食いしてたよな」

当日大急ぎで買ったそのケーキはキャンセルの入った売れ残りで、2人で食べるには大きすぎるものだった。健康上、勿論あのケーキはチビの口には入れていない。

「だって、お腹空いていたし…!」

「そう言ってチキンも食ってたっけ」

「うっ。だ、だって…!」

「誰も食うななんて言ってねーよ」

「う、うん。 あ、そうだ… ねぇ入江君、左手だして?」


ムキになって言い訳していた琴子だったが直樹の言葉に漸く静かになった。そしてふと思い出したように、声音を変え微笑むと直樹の左腕をとる。


「なんだよ」

「ん?ちゃんと使ってくれているんだな~と思って」

「… ああ」

直樹の左腕にはあの日琴子が贈った時計がはめられていた。

「お前から貰ったもので唯一使えるものかもな」

「なっ、でもまぁそうかも」

2人はクスリと笑った。

「そうだ。ねぇ入江君、今年のクリスマスは何が欲しい?」

「別に何もいらないよ」

「えー、遠慮しなくていいのよ?ってそんな高いものは無理なんだけど」

ねぇねぇと直樹に身を寄せて聞いてくる琴子の姿に直樹は内心苦笑する。そして、その華奢な肩を自分の方にグッと寄せた。


「― もう欲しいものは手に入ったよ」

「えっ あ、あのそれって…もしかして///」

「ああ。ここ最近仮眠のソファで寝てばっかだったからな。やっとゆっくり布団の上で眠れるよ」

片頬をクイっと引き上げていつもの表情で笑って見せる。


「あっ そ、そうね。今までずっと仕事漬けだったもんねっ!ゆっくり横になって眠りたいよね///」

そして、そう言いながら想定通り顔を真っ赤にしてどんどん小声になっていく琴子を見て、自分はいつからこの表情を見るのを楽しむようになったのだろうと思った。


先の言葉の裏には琴子が言う通りの言葉の意味が含まれている。この状況、おそらく大抵の者にそれは伝わるだろう。その証拠に2人の会話がずっと耳に入っている初老の運転手はバックミラー越しに微笑している。しかし言葉の面だけを掬い取る琴子には真意が零れ落ちて伝わるのだ。勿論、それすらも直樹の想定の範囲内なのだが――


「ほら、もうすぐイルミネーション終わるぞ。よそ見していいいのか?」

「え、うそっ み、見る見る!」

直樹の言葉に琴子は慌てて顔を上げると窓の向こうの景色を見つめる。タクシーのスピードが少し落とされるのを直樹は感じた。


しかしほどなく車はイルミネーションを通り過ぎ、暗闇の中、車のテールランプのみが光となった。

「あー、、終わっちゃったね」

名残惜しそうに後方の窓から遠ざかるイルミネーションを見つめる琴子の瞳に光が入ってキラキラとしている。直樹はもう一度琴子の小さな手を自分の掌中に収めた。

「また見られるよ、きっと」

自分らしからぬ言葉が出た。でもそれは本音。
漸く胸を張って2人で歩いていけるようになったのだ。これから色々な事がまだまだ待ち受けているのだろうが、その道は光に溢れているだろう。

「うん、…そうだね」

琴子もその言葉に微笑って同意する。

「そうだ、明日またあのツリー出すよ。それで、寝室に飾るね!」

「ああ」

今年のクリスマスは去年とはまた違った思いであのツリーを囲んで過ごすことになる。2人の繋いだ手の力が自然と強くなった。








The Gift of the Magi ~ I send you the bouquet with love.~【下】 3/3(了)とあとがきに拍手、コメントを頂きありがとうございました!暖かいお言葉、本当に嬉しくて何度も何度も読ませて頂きました。
あらためてお礼のお返事書かせて頂きます。

さて、またまたお題で修行です。季節感まるでなし!すいませんっ
イルミネーションで妄想するとなんとなく冬になってしまいました(^_^;)




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拍手コメントありがとうございました

藤夏様

こんばんは(^^)
いつもコメント下さってありがとうございます!!
イルミネーションは企画モノを書きながらチマチマと書いていたんですよ♪だから何となく話のイメージが似通っているでしょ(^_^;)
それでも甘甘テンション上げて頂けて嬉しです~♪
クリスマスのシーン、まだくっついていない2人だけど、結構甘いですよね^m^ 私はh様が創作された『晩餐』の直樹の妖艶さにクラクラきて、さらにこのエピソードが大好きになってしまったんですよ!正装した直樹も、ドレスアップした琴子も素敵ですよね~。
藤夏さんの仰るように、私も本当の意味で2人の結婚記念日はこの日かなぁって思います。いつもの会話の流れも気に入って頂けて嬉しかったです(^^♪

拍手コメントありがとうございます

繭様
こんばんは。連投したこちらにもコメント下さってありがとうございます!
このお話、『The Gift of~』と並行して書いていたものでしたので、確かに通じるものがありますね(*^_^*)
車窓から見える道への繭さんの読解が非常に深くて、また私の方が「成程!」と納得させて頂きました。いつも素敵なメッセージありがとうございます!!

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