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::帰り道
配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「では、お疲れさまでした」

改札口へと入っていくスーツ姿を見届けたあと、裕子は一つ息を吐きだした。
入社して数日。同行した出先の仕事が早めに終わり、そのまま直帰しても良いと言われて駅で上司と別れた。
思いもかけぬちょっとした休暇を得られた事に心と体が妙に浮足立つ。

高級住宅が立ち並ぶこの周辺は評判のブランジュリーもある。明日の朝食用に買って帰ろうか、などと考えていると、駅に着いた電車からはき出された人間が群れをなして改札口に向かって来る。その様子を何とはなしに見ながら目的の方角へ歩いていこうとした時、裕子はその姿を見つけた。



「入江君」

「― ああ、松本か。久しぶり」

裕子が見つけたのは、学部が離れてからめっきり会う機会も少なくなったかつての片思いの人物、入江直樹だった。そういえば彼の家の最寄り駅はここだったと裕子はふと思い出した。

「こんなところで会うなんて、偶然ね」

「そうだな。仕事の打ち合わせか何かだったのか?」

「ええ。予定より早く終わって今はもうオフなの。おかげで入江君に会えるなんてラッキーだわ」

裕子のイタズラな表情とその言葉に、直樹がクスリと笑う。

「なら折角だし家来るか?仕事の話も興味あるし、きっとあいつも喜ぶよ」

「琴子さん?」

「ああ」

「ふ~ん・・・。そうね、私も久しぶりに会いたいわ。急で失礼だけど、お邪魔させてもらうわね」



― 見事にかわされたわね。いえ、あてられたのかしら。

平然と返事をしつつ、裕子は内心苦笑する。
勿論、とっくに直樹の事は諦めている。いや、二人の事を認めている。
直樹をからかってみたのはただの出来心だが、それをも加味したした上で、直樹は琴子の名前を出してきた。つまり、それは直樹の琴子への思いの大きさを意味していた。



「たしかM社だったっけ」

入江家までの道すがら、直樹が訪ねてくる。

「そうよ、今はプレス担当なの。本当は開発の方が希望だったんだけれど」

「まぁ、松本の容姿ならそっちに配属されるのも無理ない話だな」

「あら、いつからそんな上手い口を利くようになったのかしら」


懐かしいテンポ。たとえそこに恋愛感情がなかったにせよ、直樹との会話はウィットに富んでいて心地よかった。しかし直樹がそんなものよりも、奇想天外な彼女の発言を楽しんでいたのは認めたくないが最初から分かっていた。

「琴子さんは今どうしてるの?確か落第して、それからの事聞いてなかったわ」

ふと思い出して尋ねてみる。

「ああ、この四月から看護科に編入したんだ。」

「こ、琴子さんが看護科?」

「ああ。今また2年からやり直してるよ」

「……。それでもよく編入試験に受かったわね。入江君、手を貸したわね?」

「― 泣きつかれてな」


― 良く言うわ。裕子はそっと笑った。




家付近にまで来た頃、裕子は奇妙な数人の人影に気づく。そして、その中に長い栗色の髪を見つけた。

「ねぇ入江君、あんなところで琴子さん、何しているの」

小声で直樹に問うと、直樹は一瞬呆れたような、不機嫌そうな顔を見せた。

「… ほっとけばそのうち帰ってくるよ。さ、どうぞ」

妙ににこやかな顔で裕子をエスコートする直樹に大体の理由を察知した裕子は、合わせるように艶やかに微笑むと玄関に足を踏み入れた。




* * * * * * * * *





「じゃ 私、そろそろお暇させていただくわ」

琴子も帰宅して暫く談笑したのち、裕子はそう言って席を立った。

「駅まで送るよ」

さっと立ちあがった直樹を裕子は制し、琴子を振り返ってにこっと笑った。

「いいえ、今日は琴子さんに送ってもらうわ。まだそんな遅い時間じゃないし、構わないわよね?」

「えっ!?あ、う うん」

まさかの指名に驚いた琴子はしどろもどろで返事をする。直樹は裕子の様子を少し見ていたが、小さく息を吐いて頷いた。


「ほら、ご指名だ。頼んだぞ」

「わ、分かったわよ。じ、じゃあ松本さん、行こっか」

「ええ。今日はお邪魔しました。入江君、また」

「ああ」

裕子と琴子はふたり並んで夕焼けの中を歩き始めた。





「ね、ねぇ松本さ・・・」

暫く無言で坂道を下っていたが、とうとう沈黙に耐えられなくなったのか琴子が裕子に話しかけようとする。裕子はそれを遮るように立ち止って琴子を直視した。

「― 相原さん」

その改まった口調に琴子も自然と足を止め返事をする。

「なっ なに?って… あー!今また私の事、『相原さん』って言ったわね!さっきまではずっと名前で呼んでくれていたのに、二人っきりになった途端――」

「だって、今日のあなた、ちょっと変なんだもの。相原さんって呼んであげた方が良かったのかなって思ったのよ」

顔を真っ赤にさせながら裕子に食ってかかるその姿に裕子は懐かしさを覚え、あの頃と同じようにイジワルな笑顔を作って見せる。

「そ、そんな訳ないでしょ!私はもう『入江 琴子』なんですからねっ」

「知ってるわよ、十分にね」

「じ、じゃあなんで…」

「『なんで』はこっちの科白。やっと念願かなって看護科で勉強を始めたばかりのあなたがどうしてそんな浮かない顔をしているの?それは、さっき自分の家を誰かと物の陰から覗いていた事に関係しているの?」

裕子は琴子の目をまっすぐ捉えると、ずっと思っていた質問を口にした。
琴子は驚いた表情を見せた後、困ったような笑い顔を見せてまたゆっくりと坂道を歩き始めた。

「びっくりした。気付いてたんだ」

「まぁね。あなたのドンくさい隠れ方じゃどうやったって気が付いてしまうわ」

「は~、そっかぁ。へへ」

琴子は笑って少し頭を掻いて見せる。
裕子は琴子が尚も直樹もその事に気が付いている事にまで考えが及ばない事に呆れ驚いた。



「さっき一緒にいたのは、同じ看護科の仲間なの。入江君のファンクラブ会員だって」

「…ファンクラブ?」

「うん。なんだかね、私もその一員に認められちゃって…」

その幼稚な響きに裕子は暫く絶句する。


「― で、その会員様はあそこで何をしていたのかしら」

「そ、それは『入江邸見学ツアー』に…」

「自分の家でしょう」

「う、そ、そうなんだけど…」

「ったく…」

裕子は盛大に溜息をついた。

「どうして、自分が『入江 直樹の妻だ』って言えないの」

「い、言おうとしたのよ?でも、なんだかタイミングを逃しちゃって…」

「本当に馬鹿なんだから」

「仰る通りで…」

いくら毒を吐いても柳に風の反応を示す琴子に、裕子はむんずと近寄ると、その額にピンと指を弾いて見せた。

「いっ イタイ!何するのよ!!」

「やっといつものあなたらしい声が出たわね」

「え…?」

裕子は表情を少し和らげて、琴子を見つめた。

「― いきさつは大体予想がつくけどね。あなたって、変な所で遠慮がちになるものね。いつもは散々図々しいくせに」

「ど、どういう意味よぉ」

ぷうっと頬を膨らませた琴子を見て、裕子はクスリと笑った。

「今更入江君に関して下手に遠慮する必要なんて無いって言ってるのよ。入江君はどんな理由であれあなたを選んでいるんだから、もっと堂々としていなさいよ」

「松本さん…」

「それが、私を含めて入江君を好きだった人間に対してのせめてもの姿勢の見せ方だと思うわ」

「ご、ごめんなさい」

「なに謝ってるのよ。勘違いしないで。もう未練なんて全くないし、私は入江君以上のひとをちゃんと見つけるから心配しないで頂戴」

「…入江君より素敵な人なんていないわよ?」

「フッ それでこそ『入江 琴子』よ」

ニッと笑って裕子の言葉を否定する琴子の姿に、裕子も漸く穏やかに笑って見せた。
気がつけば、改札口はもうそこに迫っていた。


「じゃ、送ってくれてありがと。しっかりね」

「うん。ありがとう、松本さん」

「別に何もしてないわ。じゃあね」

軽く手をあげると、裕子は一度も振り返る事なく改札を通り抜け、階段を上っていった。


― もしもし。入江君?そう、今琴子さんと別れた所。
― いいえ、こちらこそ色々ありがとうね。

― ん?ええ、私の言いたい事は言わせてもらったわよ。そのついでに入江君にも言わせてもらうわね。

― ええ、私って容赦のない性格なのよ、知ってるでしょ?

―少しだけでも、助け舟を出してやったら?琴子さんの事、誰よりも分かってるでしょ?入江君は。 クスっ、そうよ、私って結構お節介なの。それじゃ、そう言う事で。今日は会えて楽しかったわ・・・・・・


パタンと携帯を閉じたところで、電車がホームに入ってきた。
心地よいひと仕事を終えた気分の裕子は、背筋を伸ばし、ヒールの音を響かせながら乗車口へと一歩踏み出した。







どこのシーンを書いたか、分かりますでしょうか(^_^;)



14巻スキマ  コメント(6)  △ page top


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::Re:ねーさん様
懐かしいお話にコメントありがとうございました!
私も直樹の看護科に「失礼」と言って入ってくるところ好きです。
琴子が看護科のメンバー^になかなか自分が直樹の妻だと話せずにいる事に直樹もやきもきしていたと思うんですよね。
だからきっといつかは助け舟を出すのではと思っていて。そのきっかけとして前日に松本姉が家を訪問しているところに着目してこの話を書いたような記憶があります。
「なるほど、そうだったのか」と思って頂けてとても嬉しいです。

そしてこれを受けての直樹目線ですか!お~それは見てみたい!
どうぞどうぞ、松本姉の台詞でもなんでも、お気に入りの箇所がございましたらお持ち帰り下さいね。
またUPされるのを楽しみにお待ちしております^^
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::管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
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::まあち様、ふたたびこんばんは(^^)
いえいえ、全然失礼じゃありません(笑)嬉しいですよ^m^
またそのうち書かせて頂きますね~。つまらなかったら笑って許して下さいね(^_^;)
そして、『Gift~』についてのコメントもありがとうございます!勿体ないお言葉を・・・<m(__)m>
本当に、読んで頂けるだけで嬉しいですから、どうかお気になさらないでくださいね♪
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::拍手&コメントありがとうございます
まあち様
こんばんは。お久しぶりです(^^♪
まあちさんも分かって下さったのですね、よかった♪
そうそう、原作は携帯の普及していない時代でした…時の経過ってすごいな~なんてシミジミ^m^
今回はご都合主義で14巻スキマと言いながら、アニキスの時代設定を採用させて頂きました(^_^;)
だって、松本姉に公衆電話とか似合わないし(笑)
この流れで実習中に入江君バーンと登場、ありと仰って下さってありがとうございます!因みに私も紀子ママの伝言は入江君の口から出まかせだと思っていたり!捏造でお話書くかもです(笑)


くーこ様
こんばんは。
くーこさんも分かって下さったんですね、挙手してくださるくーこさんのお姿が脳内で浮かびました(^^)
松本姉、いい仕事してますか?うふふ、ありがとうございます(*^_^*)
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::No title
わかりますわかります!!
懐かしいです(*^_^*)

この後の二人の会話も気になるとこです♪
松本姉もいい仕事しますね~♪
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::拍手コメントありがとうございます
chan-BB様
こんばんは。久しぶりに早めに書きあげられました(^^)
新学期…本当に次から次へと渡される書類などにうんざりしています(苦笑)
今回は初めての二次創作以来の松本姉目線で書いてみました。なんだか懐かしいです(*^_^*)
Blessing to youで、松本姉を書いてみたいと思ったきっかけは原作のここを読んだ時の、松本姉の表情が素敵だったからなんですよ~。
なので、ここのスキマはお題じゃなくてもいつか書こうと思っていたんです。お褒め頂いて嬉しいです♪そしてそして…ありですか?良かった!直樹ならこんな態度をとりかねないかなぁ、なんて(笑)
少ないながらもまだ考えてるネタがあるので、また文章に起こしていきたいと思います(^^)


藤夏様
こんばんは。ありがとうございます!分かって下さった事&Blessing to youをそんな風に仰って下さって(*^_^*)嬉しいです!
そうそう、琴子の行動なんて、直樹と松本姉にはバレバレですよね(笑)そして、原作の直樹が琴子たちの教室に入って来たのは偶然ではないと信じて止まない私はこうして捏造話を思いついてしまいました(^^♪藤夏さんも同じご意見のようで…握手♪
そうそう、藤夏さんの仰る話、勿論分かりますよwwあの方のお話も相当ツボなものが満載でしたので、更新が無いのは寂しいです(T_T)あのお話と脳内リンクして頂けたなんて!恐縮ですがありがとうございます!!

りきまる様
こんばんは。りきまるさんも分かって下さったんですね!ありがとうございますww(*^_^*)
そうそう、『家庭訪問&嫁!!見学』ですよね♪
原作でこの展開で松本姉を登場させるあたりに、多田先生の松本姉への愛を感じてしまった私です。彼女の表情もとっても素敵に描かれていますし。そんなところからも是非書いてみたかったスキマだったので、りきまるさんのコメントとっても嬉しかったです!ありがとうございました(^^)

繭様
こんばんは。繭さんも分かって下さって、しかも原作を読み返して下さったんですね!ありがとうございます(^^)
私も、直樹の教室乱入には「実習中ww!!」と突っ込みいれましたよ(笑)直樹も講義中のはずなんですが…(^_^;)とにかくあれはやっぱり、直樹はタイミングを見計らっていたという事で^m^同じ意見の方が多そうですね!
そして、松本姉、おっとこ前ですか(笑)確かに!塩ww(^^♪つまり松本姉は武将ですねっ(すいません、意味不明で(汗))女版入江直樹の異名をとる彼女ですから、琴子の事もなんだかんだ言って好きなんですよねww繭さんのコメントがやさしくって、嬉しくなっちゃいました(^^)

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