::を、繋ぐ
配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。
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―― 入江くんの背中を見ながら歩いてる。

「早くしろよ」って、あたしを待っていてくれたはずの入江くんは、あたしが駆け寄って追いついた途端、またくるりと背中を向けて歩きだし出してしまったの。

でもね、今こうして入江くんの背中を誰憚ることなく追いかけられるあたしって、実は結構幸せ者なんだって改めて実感してる。

どうやらあたしには一生駆け引きなんて出来ないって事が、今日はっきり分かった。

ちょっと悔しいけれど、入江くんにはお見通しなんだ。
あたしは入江くんの事が好きで、それが揺るがない思いであることを―――



「ねぇ入江くん、今、何時?」
あたしが尋ねると、入江くんは歩みを止めることなく少しだけこちらを向いた。

「お前、時計もってねーの?」

「うん。あたし、腕時計ってあんまりしないんだ」
そう答えたら、入江くんはハァって盛大に溜息を吐いた。

「それ、威張って言う事じゃねぇだろ、ったく。…3時半だけど、それがどーかした?」
入江くんはそれだけ言うと、また前を向いてしまった。でも…入江くん、何も思わないのかな?

「ねぇ」

「なんだよ」

「入江くん、今日のシフト覚えてる?」

「は?覚えてるに決まってるだろ。だからこうして今向かってんじゃねぇか」
入江くんはちっとも歩幅を緩めない。

「…あのね、あたしも入江くんと同じシフトなんだ」

「知ってるよ。お前が伊藤さんに拝み倒してこのシフトと交換してもらったって事もな」

「うっ そ、そうなんだ。入江くんってば、地獄耳ね…?ぶっ!!」

急にピタっと入江くんの歩みが止まって、直ぐ後ろを歩いていたあたしは、その背中にドンとぶつかった。

「い、いた~い…」 鼻を擦りながら見上げると、そこにはあたしを睨みつける入江くんの呆れた顔。

「あんだけでっかい声で頼んでりゃ、聞きたくなくても聞こえるんだよ!

「そ、そっか。へへ」

「で、シフトが何なんだよ」
入江くんの冷たい視線が容赦なく向けられるけど、今回ばかりはあたしの方が正論よ。

「シフト、5時からだよ?さすがにまだ、早すぎない?」

「「………」」 ほんの一瞬、沈黙が流れた。

ふふっ……、入江くんってば今、少しだけ変な顔をした――。





「・・・しっかりケーキも食うんだな」
入江くんがまた呆れた顔を見せてくる。

「だってこれから10時まで何も食べられないのよ?ちゃんと食べておかなきゃ。入江君はコーヒーだけでいいの?」

「お前みたいに食い意地張ってないからな」

「なっ し、失礼ね…!」

「何か違うとでも?」
入江くんはしれっと答えると、ゆっくりとカップを口元に運んだ。


あたしたちは今、セルフサービスのコーヒーショップ入っている。

バイトまでの時間つぶしに、目に付いた店に入ったあたしたち。中途半端な時間の店内は、一人でひと時の寛ぎの時間を過ごす学生やサラリーマンが殆どのようだった。
2人で座れる席を見つけ、あたしたちは向かい合うように腰掛けていた。

妙に甘ったるい味のケーキを食べ終え、グラスに入ったストローに口をつける。
「ふ~、とりあえずお腹は満たされたわ」 あたしは素直な感想を言った。

「ぷっ、ケーキ美味くなかったんだ?だからどこでも食うもんじゃねーんだよ」
入江くんが、イジワルな顔で笑ってくる。

「うっ、…でも確かにそうかも。これならファミレスのケーキの方がまだ良かったわ。ドニーズ、結構ケーキ美味しいのよね。アイスミティは、こっちの方が美味しいけど」
そう言いながら、あたしはもう一度ストローを吸った。夏真っ盛りの今日は、無性に喉が渇く。

「そういえばお前、武人とのデートにわざわざ店、使ってたよな」 入江くんがクスリと笑う。

「あんなことで俺が妬くとでも思った?」

「そ、それは…そうだといいな、とは思ったけど…。でも、考えてみればすぐ分かる事だったんだよね。入江くんがあたしに妬くはずないもんねっ……」

悲しいかな、入江くんがあたしの事を何とも思っていないって事を自ら口に出してドツボに嵌るあたし。
入江くんはそんなあたしを読みとれない表情でじっと見ていて、そして口を開いた。

「― あの日、武人とどこ行ったの?」

「え、あ あの…、 はなうりランドだよ。知ってる?すごいジェットコースターがあるんだ」

「…おまえ、好きそうだな」

「へへ、実は4回も連続で乗っちゃった。そしたらさすがに気持ち悪くなっちゃたんだけど」

「当たり前だ。ったく、考えろよ。武人も武人だけど」

「で、でもね、その後武人くんが介抱してくれたからすぐに平気になったんだよ?ホントに優しくて、初デートとしてはなかなかいい思い出になったかも」 良く分からない弁明をあたしはする。

「…へぇ。お前にとっての初デートって、それなんだ」 入江くんがフンと笑った。

「だ、だって…。井の頭公園のはおこぼれで…。カウントしていいのかどうか…」

「まぁ、お前がそう言うならそうなんだろうな。良かったじゃん。今回の方がよっぽどいい思い出じゃねーの?」 
そう言って入江くんがせせら笑う。なんだか急に、いつにも増して冷たい感じ―

「そ、そんな事ないもん!あたし…あたしにとっては、入江くんとボートに乗ったり、ハンバーガー食べた事の方が嬉しかったもんっ。で、でもあたしだけがデートって思っていても…、それは違うじゃない…?」
入江くんの態度が少し怖くて、あたしの声は少し泣き声になってしまった。ぼやけた視界を隠す様に、あたしはテーブルを睨みつける。

「…そんなの、お前の自由じゃねーの?」

「― え…?」
さっきまでとは全然違う、穏やかな入江くんの声が頭の上から降って来て、あたしは思わず顔を上げた。

「ど、どういう意味…?」

「だから、お前があの日の事をデートだって思うならそれはデートなんじゃねえの?って言ってるんだよ」
また少し怒ったような顔をした入江くんは、そう一息に言って残ったコーヒーをぐっと飲み干した。

「…するっ!あの時があたしにとっての初デートにするっ!!」 あたしは勢いよく答えた。
そうすると、入江くんはプッと笑って「どうぞ、ご勝手に」って言った。つられるように、あたしも思わず笑顔になる。

「…きっともう武人くんはあたしの事誘わないだろうなぁ。19歳の女の子らしいデートは最初で最後だったってわけね」
カップの中にわずかに残ったアイスミティを音を立てて吸いこみながらあたしは呟く。なんだろう、入江くんとの仲は相変わらず何にも進展していないはずなのに、口元からは自然と笑みが零れてしまう。

「なんなら俺から頼んでやろうか?またデートに誘ってくれって」 そう言う入江くんの顔は、またいつものイジワルな顔だ。

「ううん、いらない!だってあたし、今もデートしてるから」 
そう言ってあたしは入江くんにイジワルな笑顔のお返しをする。

「…だって、あたしがそう思うならデートなんでしょ?」

「…… ゲンキンな奴。」 入江くんはまた呆れたような顔をして、そしてクスリと笑った。



「ねぇ、ところで今何時?」 あたしはさっきと同じ質問を入江くんにする。

「わざわざ俺に聞かなくても、確かこの後ろに時計があるだろ……っておい、まじかよ…」
背後を振り返りながら、店の掛け時計の時刻を確認した入江くんが――― すくっと立ちあがった。




「お前、目の前に時計あるのに、もっと確認しとけよ!」 入江くんが怒声をあげる。

入江くんは目一杯の早歩きをしていた。コンパスがまるで違うあたしは、その後を小走りで追いかけている。
さっき慌てて店を出た時の時刻、午後4時45分。店までの距離と着替える時間を考えたら、時間内にタイムカードを押せるかどうかの瀬戸際の時間。

「だ…、だって夢中、だったんだもん……!そ、それに…、入江君だって…ハァ、ハァ …気付いてなかったんじゃない…っ」
息が上がっているので途切れ途切れになりながら、あたしは反論する。 だって…、そうだよね!?入江君だって時間、忘れてたんじゃない…!

「ったく……、やっぱお前と居るとロクな事ねーよ!」
そう言って、入江くんは振り返るとギロリとあたしを睨みつける。

「ひ、ひどっ…!それって八つ当たりじゃな――」
「―― ほら、走るぞ!」

あたしが言い返そうとするのと、入江くんがあたしの手をすっと取ったのは同時だった。

「あ…」
この感覚… あたし、覚えてる。あの時…、はじめてのデートの時もこうしてあたし達、こうして一緒に走った。
あの時も入江くんはあたしの手をすっと取って、そしてその手は今と同じようにひんやりとしていた――。


息が上がる。

加減してくれているけど、入江くんと一緒に走るのはやっぱり大変で、もうあたしは何も言えずに肩で息して走っている。多分その姿は不格好で、傍から見ると情けない姿。でも、こうして今、入江くんと同じ景色の中を走っているあたしは、すっごくすっごく幸せな気持ちなの。


入江くんの何気ない一言が、沈んだあたしの気持ちを繋ぎとめて元気にさせる。
今こうして繋いだ手から、今までの何倍もの好きが溢れてくる。
あたしの心って本当に単純。単純な心で、最大の「好き」が出来あがって、今のあたしはなんだか無敵な気分。

あの角を曲がればこの手はパッと離されてしまうんだろうけど、今のあたしは無敵だから…… あたしは今繋がれたこの手にギュッと力を入れてみた――――。






武人くんにキスされそうになった琴子を金ちゃんが見つけて、2人が喧嘩を始めて…。
でも、あとからゆっくり現れた入江くんは、余裕で「琴子が好きなのはオレなんだぜ」って言う―――

原作の中でのこのエピソードに、今になってムショーに萌える私です(^m^)

この時、入江君ってどの時点で図書室を出たんでしょうね?そんな事とかも色々妄想すると、なんだかとっても楽しくなってしまい、その後の2人を書いてみました♪

7巻スキマ  コメント(2)  △ page top


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::拍手コメントありがとうございます
まあち様

こんばんは!わぁい♪必殺技大歓迎ですよ~~(^^♪
こちらこそご心配をお掛けして申し訳なかったです(汗)電車は頻発しているので大丈夫です(^^)そして、仕事前に朝マックでコーヒー飲むぐらい余裕を持って出社してるので♪ついでに言うと、乗り越しはちょこちょこやってしまう間抜け者ですので、自己責任です(^_^;)しっかりしないと…(笑)

今まで書いた作品に着いて、そんな風に仰って頂けて、すごく嬉しいです!!「え?どれどれ??」と思っちゃいましたよ♪そして、今回のお話には本能のままに(キャー!!)書き出して頂けたなんて…嬉しい、嬉しすぎます~~!!
すみません、私の方こそ興奮モードで(笑)ほんとありがとうございましたーー!!


藤夏様

こんばんは!やった~~、藤夏さんにも萌えを感じて頂けたなんて!!ああ、この話書いて良かった~~(^^♪
そうそう、原作のお話での直樹にはほんとに突っこみ入れずにはいられませんよね。藤夏さんの素の言葉が聞けて私、なんだかニヤニヤしてしまいました…(^m^)ナイス突っこみ☆☆
そして、この時期の無自覚嫉妬はやっぱりたまりませんよね!藤夏さんの仰って下さったセリフ、もう今回私が直樹に言わせたかった嫉妬発言そのものですよ!ざまーみろですね♪(←壊れ気味)
ほんとに、なんで自分がイライラしているのかに気が付かないんでしょう、直樹。ある意味天然ですよね。お返事が暴走し気味ですみませんっ(^_^;)ほんとツボ部分で…(しつこい)
今回のテーマは「繋ぐ」なのに、違う部分にばかり気持ちが(笑)でも、この繋ぐの意味が手だけではなく2人の絆とか見えないものの繋がりが近づいていく様子だと思って頂けて嬉しかったです。ありがとうございました!!

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::拍手コメントありがとうございました
まあち様

こんにちは~。わっ まあち様の雄たけびが聞けるなんて(笑)私も「よっしゃー!」って感じになっちゃいましたよ♪コメントを拝読したのが電車の中だったのですが、興奮していたのでしょうか、乗りこしてしまいました(^_^;)
そうですよね!?原作のこのエピソード、いいですよね!!
読んだ当時はなんともじれったい気分でしたが、何度も読み返すうちにジャブのように効いてきたようです(笑)
入江くんってほんと…ぷぷっ!!萌えますよね~~。賛同していただけて嬉しかったです♪

chan-BB様

こんにちは!うふふ~嬉しいです♪chan-BBさんにも萌えを感じて頂けて(笑)
今回イリコトには、お互い相手の一挙一動に色んな反応をさせてみました。琴子は片思いモード全開だから勿論の事、入江くんも琴子が自分の事を好きなのは分かってるけど、武人くんとデートしてた事は面白くはなかったでしょうから、探りを入れつつ不機嫌になってみたり、ニヤリとしたり。本当…むっつり(^m^)
もう、井の頭デート以降はずっと入江くんはむっつり(ぶぶっ!)ですから~~!ここ、きっと他にも膨らませられますよね!?
色々片付いたら、こっちの妄想色々してみたいです♪


繭様

こんにちは!今回も2度もコメント下さって(^^)
一度目は入江くん、次は琴子の目線で読み、其々の感想をして頂きありがとうございます★
紀子ママの作戦だったとはいえ、やはり琴子にはヤキモチを焼かせるような小細工をするよりも、直球が一番ですね。実はその方が直樹の気持ちを刺激しているんですよね^m^
初デートに関する琴子の発言で機嫌悪くするあたり、自分でもどこまで琴子への気持ちを理解しているんでしょうね?
そして、今回の「繋ぐ」について、描写としては単純に手を繋いでるだけなのですが、2人の距離感が近づいてきている様子を汲んでくださって嬉しいです。ありがとうございました!!
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