::三人目
配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。



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放課後。斗南高校から駅までの道のりを直樹と渡辺は共に歩いていた。

「悪いな、入江。急に家に押しかける事になって」
渡辺がそう言うと、直樹はそっけなく「家に帰って特に何か用事があるわけでもなし、構わないよ」と応じた。
一見迷惑そうな、冷たい返事。それでも渡辺の口元は綻んだ。


時刻は5時前。授業はとっくに終わっていたのだが、その後も教室で、渡辺は受験勉強する中で分かり辛かった所を直樹に質問していた。
直樹の説明は学校の教師や予備校の講師よりも余程明瞭で、渡辺はここぞとばかりに直樹に沢山の質問をする。この貴重な時間はあっという間に過ぎ、下校を促す放送が流れるが、渡辺にはまだ聞いておきたい質問が残っていた。

勢いがついていた所で打ち切るのは残念だが、仕方が無いので渡辺が諦めたその時―
直樹は渡辺の本心を見透かしたように「続きは家で」と申し出たのであった。



相変わらず表情を露にする事なく前を向いて歩く直樹の横顔を渡辺はチラリと盗み見る。
綺麗に整い過ぎていて近寄りがたい容貌。敬遠するクラスメイトもいる中、それでも入学してから今まで、渡辺は直樹とはずっと親しくしてきたつもりだ。
しかし、表面上そつなく交流していてもどこか距離を感じさせる直樹に、頼みごと― 勉強の質問をすることさえ ―するのは何となく憚られた。

それがここ半年で、ずっと感じていたその距離が随分狭まったように渡辺は感じる。

今でも周りの人間にはクールフェイスと評される直樹だが、渡辺からすれば随分表情豊かになったものだと感じるのである。…例えそれが眉間に皺をよせていたり、意地悪な笑みを湛えた表情であったとしても。そして、今回の件にしてもそうであるが、以前より随分面倒見も良くなった。

渡辺は知っている。直樹の変化の理由を…。それは、突然現れた彼女の存在――






「あれ?ほら、前にいるの…琴子ちゃんじゃない?」
駅に近づいた時、前方に見える女生徒が目に止まって渡辺は直樹に話しかけた。そこには他校の制服姿の男子生徒に声をかけられている琴子の姿があった。

「…ああ、よく気付いたな、渡辺」
一瞬険しい目をした気がするが、直樹はぷいと顔を背けるとさっさと改札を潜ろうとする。
「……」思わず渡辺は直樹を見た。
― "よく気がついた"って…入江、お前はもっと前から琴子ちゃんの姿に気が付いてたってことだよな…?


「いいの?琴子ちゃんの事放っておいて。なんか困ってそうだったけど」
ホームまでの階段を上りながら、渡辺は直樹に尋ねる。

「あいつが困っていようがいまいが、俺には関係ねーし」
直樹はそう言って、出発待ちで停車している電車にさっさと乗り込んだ。

「入江の最寄り駅、もっと前の車両のほうが降りやすくなかったっけ?」
相変わらず冷たい反応だと思いながら、渡辺は直樹に声をかける。

「…まるでオバサンみたいな事言うんだな、お前」

「え、でも昔入江が言ってたんだぞ?降りた時に人とぶつかりながら歩くのが鬱陶しいから一番近いドアから降りるって」

「…そうだったっけ」

そんな会話をしていると発車のベルが鳴り、ドアが閉まる直前に女生徒が駆け込んできた。何とか間に合ったその女生徒は軽く肩で息をして、それからゆっくりと人気の少ない場所へと歩いていった。

「あれ、琴子ちゃんだよね。上手く断れたのかな」
渡辺はその姿を捉えて、先程と同じように直樹に話しかける。きっと先程の男子生徒をまいて、電車に間に合うよう急いで駆けこんで来たのであろう。

「さあね。…ったく、いっつも駆け込み乗車、ほんと迷惑な奴」

「………」
渡辺はまた直樹を見る。

「なんだよ」

「いや?…別に」
直樹が不審な目でこちらを見て来るが渡辺の口からは笑みが漏れる。
成程と、どうして直樹が階段を上ってすぐの車両に乗り込んだのかを渡辺は理解した。しかし今そんな事を言おうものなら、直樹に約束を反故にされそうなので口を慎む事にする。よって、代わりに変化球を投げる事にした。

「なあ入江。こうして見るとさ、琴子ちゃんって可愛いよな」

「は?どこが」
直樹がさも馬鹿にしたように言うが、渡辺は気にしない。

「うーん、例えばあのストレートのロングとかさ、いつも凄く綺麗じゃん?色も天然で茶色くって。背も高過ぎず、低過ぎずで顔も可愛い。さっきのS校の奴じゃないけど、声かけたくもなるよな」

「ふーん、そんなもの?」
直樹の声音は相変わらず無機質で、そこからは殆ど感情を伺えない。それでも何となく不機嫌になっていく直樹を察知して、渡辺はやはり密かに笑ってしまうのであった。


電車が次の停車駅に着き、新たな乗客が車内に乗り込んできた。
まだラッシュには早い時刻で、その数は多すぎず少なすぎず。その乗客たちはドア付近に固まって乗り込むので、座っていた直樹や渡辺の前は相変わらずの空き具合だが、琴子の立っている場所はそれなりに混雑している。
と、ひとりの中年の男が琴子に何やら話しかけはじめた。

「おい、入江。琴子ちゃん、へんなオヤジにからまれてるぞ」
渡辺は再び直樹に助けを促す。しかし直樹は相変わらずつれない反応で、「アイツも子供じゃないんだから、自力で何とかするだろ」と無視を決め込もうとする。

「それって可愛そうじゃないか?ほら、困ってるみたいじゃん」

「分かったよ、ったく・・・。毎度毎度世話が焼けるヤツ」
渡辺に言われて仕方なく直樹は立ち上がり、琴子の居るほうへと歩いていく。その後ろを付いて歩きながら渡辺はふと思った。

― 毎度毎度って、結構助けた事あるってことだよな。それから、この車両を選んだ本当のわけはこれだったのか・・・


ドア付近では琴子が小さな声で不審な中年男相手に四苦八苦している最中だった。

「そんな事言わないで、教えてよ。メアド」
「― すいません、ちょっと…」

からんでくるその男から顔を背ける琴子に直樹は近づく。

「おい、何やってんだ」

「あっ い、入江くん…!」

「あ…?何かよ………う……」
自分の背後から聞こえる低く冷たい声と、琴子の目線を追って男が振り返る。そしてそこに居る直樹の姿を見て絶句した。そこにいる男子生徒は自分の事などまるで見ていない。恐らくこの質問も自分にではなく女子生徒に向けられたものらしい。それでも、直樹のその目の迫力に男はそれ以上何も言い返せずに、すごすごとその場を去っていった。

「いい加減学べよ。ドア付近に立つなっての」

「うっうん」

「琴子ちゃん、大丈夫?」直樹の背後にいた渡辺がひょいと顔を出す。

「あ、渡辺さん。こんにちは」琴子もそれに答えるようににこっと笑った。

「電車、同じ方向なんですね」

「うん。だけど今日は家に帰るんじゃなくて、これから入江の家に行かせてもらうんだ」

「あ、そうなんだ」

「だから琴子ちゃん、これから家までは一緒に帰ろうね」

「えっ で、でも…」
「おい、渡辺!」
琴子が直樹を伺い見るのと、直樹が渡辺を怒鳴ったのはほぼ同時だった。

「同じ家に帰るんだから、いいじゃん」
渡辺は意に介さず2人を見てニコリと笑った。
直樹は渡辺を一目睨んだ後、「勝手にしろ」と言って車窓に目を向けた。


「あの、渡辺さんは今日何しに…?」
琴子が渡辺に話しかける。

「うん、入江に勉強見てもらおうと思って」

「え、渡辺さんA組なのに?」

「はは。A組でも分からない事なんて沢山あるよ。入江は特別だけど」

「そっか。入江君、勉強教えるのもすっごく上手だしね」

「ああ。琴子ちゃんと出逢うまで知らなかったけどね」

「そ、そうなの?」

「…おい、降りるぞ」
渡辺と琴子が話をしている間に電車は最寄駅に着いたらしく、3人の前の扉がぱっと開いた。直樹は開くと同時にさっさと降りてホームを歩いていく。渡辺と琴子も慌ててホームに降りた。



「ん?あれ?私、定期どこにしまったっけ」
改札口前で、直樹と渡辺が制服のポケットから定期を取り出し通過していく中、琴子は定期が見当たらずに立ち往生する。

「入江、琴子ちゃんが定期見当たらないみたいだから……」
「俺には関係ない」
渡辺が直樹に待とうと声をかけようとするが、直樹はぴしゃりとそれを遮り歩いていく。渡辺は小さく溜息をついて直樹の後を追った。


「なにもそんな意固地にならなくたって」
渡辺が直樹の背中に語りかけると、直樹が振り向いて渡辺をキッと睨む。

「…誰が意固地だって?」

「いや、誰も……」渡辺は肩を竦めた。

「それにしても琴子ちゃん、遅いな…」
話題を変えて、渡辺は後ろを振り返って琴子の姿を探した。
すると、改札を出てすぐのところで、琴子が数名の若い男の集団に囲まれていた。

「おい、入江。琴子ちゃんがまた…」
渡辺が直樹に声をかけるのと、直樹が来た道を戻っていくのは同時だった。



「あ、あの…なんですかイキナリ」
琴子は男たちに囲まれてしどろもどろになっていた。
よく見ると、琴子の前には1人の男が立っていて、2人の周りを囲むように数人の男たちが立っている。

「いや、だからパッと見かけてタイプだったんで、お友達になってもらえないかなって」
琴子の前に立っている男がそう言って笑う。

「そ、そんな急に言われても」
琴子はその展開についていけずに目を丸くするばかりであった。

「おいっ 琴子!!!」
その時、自分を呼ぶ怒声がして琴子は振り返った。そしてその姿を見て助けを請う目を向ける。

「入江く~ん」

「なにやってんだ!さっさと来い!!」
そう言って輪の中に入った直樹は琴子の腕をがしっと掴んで引っ張っていく。

「いや…、てか誰?アンタ」
突然目の前から琴子を連れ去られた男が、漸く直樹に声を掛ける。直樹はゆっくりと振り返り、冷たい目でその男を見返した。

「こいつと一緒に暮らしてんだけど。何か?」

「!!!!」

絶句した男たちを残し、直樹は琴子の腕を掴んだままその場をあとにしたのだった――



「おかえり」
一部始終を少し離れた場所から見物していた渡辺は笑顔で2人を出迎えた。

「琴子ちゃん、モテモテだね」
渡辺の言葉に、琴子は困った顔をして笑った。

「う~ん、というより…意味分かんない。だって、なんか変じゃない?」

「変?」

「うん。だってあんなの、からかわれているとしか思えない」

「そっか。琴子ちゃんはもっとストレートだもんね。好きなら好き、っていうもんね」

「うん♪」琴子は思い切り頷いて直樹の方を見た。

「入江くん、さっきはありがとね?」琴子はそう言って小首を傾げる。

「…別に。渡辺、行こうぜ」
直樹はそっぽを向くと、またさっさと歩きだした。

「ああ。ほら、琴子ちゃんも行こう」

「うん!」
琴子は直樹の後ろを渡辺と共に歩きはじめた。


直樹の背中を見ながら、渡辺は思う。

―― 今日は3人目のちょっかいでやっと行動したけれど…、もしこれが本気の相手なら入江、お前はどうする?

渡辺はひそかに予感する。いつか必ず、その日が来る事を。
しかしその日が訪れるのは、まだまだ先の話―――。






久しぶりの高校時代でした。
最近どんどん1話が長くなっている気がします…(^_^;)


2巻スキマ  コメント(10)  △ page top


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::訂正いたしました。
無記名様(08/31 19:01ご投稿)

古い作品に目をお通し頂きありがとうございます。
本当ですね。ご指摘の通りです。
訂正させて頂きました。申し訳ございませんでした。


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::拍手コメントありがとうございます!
Fox様

こんばんは♪ひそかに好きな渡辺くんから見た直樹の姿を書いた作品でした(^^)
直樹自身はまるで自覚が無いですが、この頃には既に琴子から目が離せなくなっているんすよね~~。でも琴子は全く気が付いていない。
ずっと直樹の傍に居る渡辺くんはそんな直樹の様子がつぶさに感じられていたはずだろうなぁ、でも、決してはっきりとは口に出さないのが渡辺くん!とごちゃごちゃと心の中で三人にツッコミを入れながら書いていました(笑)
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::拍手コメントありがとうございます
無記名様
こんばんは。原作のイメージを損なわなずに描けていたとしたら、私にとってそれ以上の事はありません(^^)
励ましのお言葉ありがとうございます!これからもがんばります★
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::コメントありがとうございます
さくら様
こんにちは(^^)
ベクトル違いでお互い無自覚な2人を楽しんで頂けたようで良かったです^m^
さくらさんにも「ツンデレ」と言って頂けた事が嬉しい私♪
さて、パスワードなのですが、色々な記事に目を通して見て下さい。ヒントはとりあえずパスワード入力画面をぽちっとして下さったら…ということで☆
難しくないので探してみて下さいね。
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::素敵です
琴子がモテモテで やきもきする入江君
素敵すぎます。
琴子も自分がモテる自覚がないのがいいですね!自分の気持ちがわからない直樹も若いですよね!この ツンデレ感が 直樹ですね
こいつと一緒に住んでるって言って 直樹も優越感ですね

あと パスワードがわからないので他のが読めないので残念です
教えてくださいませ
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::拍手コメントありがとうございます
chan-BB様
こんばんは。ふー、ご飯やらお風呂やら済ませてやっと再浮上です。夕方は携帯から失礼しました!
もう、色々書きたいんですけど、ここはコメントのお返事を…^m^
chan-BBさん、そこに食いつきますか(笑)いや、chan-BBさんならひょっとしたらここに何か思うかも…なんて予感はありましたが(笑)
うふふ、意見が一致しましたね♪けっして悪い意味じゃないんですよねww
3人目…無理矢理お題に食い込ませた感じで(^_^;)
寧ろ「無意識」の方があってるかもと思いましたが、このお題なら他にも思いつきそうだから、取りあえず温存しました(^^)v

藤夏様
こんばんは!うふふ~、青い直樹入りました!!(笑)
糖分過多になっても甘くておバカな妄想~の所に藤夏さんのお話が走馬灯のように蘇り、コメを拝見しながらニタニタしてしまいました(^^♪
脳内補完万歳!!ありがとうございますm(__)m☆
そうそう、イタキスは後半こそ頭の切れるキャラが出てきますが、前半は渡辺君くらいなんですよね、冷静に直樹を見られて、そのうえでソフトですけど「琴子ちゃんが気になるんだろ」って事を言えるのは。そうそう、2人がずっと一緒にいる事、予言していましたね!
あと、藤夏さんのお言葉で吹いたのが「無自覚ジェラシー発動」^m^!
ああ、それもまた妄想したいですww
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::拍手コメントありがとうございます
繭様
こんばんは!わ~い、ツンデレって仰っていただけた~(*^^)vと思っていた私です(笑)
渡辺君、親友だからこそ直樹の言葉、行動の裏を読めるんですよね。
そして、繭様のコメントの「助けてあげないと駄目な時~」っていうのに成程!っと思いました。私、そこまで考えていなかったです(^_^;)
直樹のかっさらい方をかっこいいと仰っていただけて嬉しいです~。もどかしいやり取りを書いた甲斐がありました(^^)

RuRu様
こんばんは!お久しぶりです~(^^)
嬉しいです!高校時代のイリコト、入江君のツンデレを書けてる自信がなくて(T_T)
RuRu様に嵌っていただけるものだった事、幸せです^m^
そして、琴子ちゃんをモテモテにしてしまいましたが、ここもあり!!ってことでありがとうございます♪原作ではあまり描かれていませんが、読者なら皆さん「琴子ちゃん=可愛い=モテル♪」ですよね!
最後に、高校生気分に戻ってくださったようで(笑)うふふ、嬉しいです(^^♪
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::コメントありがとうございます
くーこ様
こんばんは。またまたお返事下さってありがとうございます(*^^)v
そして、あの話をまた読んで下さっていたんですね!!ははは、お恥ずかしいです///
でも幸せな気持ちになっていただけるなんて、こちらこそ幸せです(^^)
どうぞ、また読んでくださいね♪
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::拍手コメントありがとうございます
くーこ様
こんばんは。高校時代もいいと仰って下さってありがとうございます~♪
どっちかいうと結婚後の方が書きやすいですが、自分で糖分過多になって発作的に高校時代(もしくは青い入江君)を妄想したくなります(笑)
交互に…なんて、なんて嬉しいリクエストなんでしょう(^^♪くーこさんの仰る辺りはまたそのうちかいてみたいですね~。
また色々妄想に更け込みたいと思います^m^

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