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眩暈

配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「… これ位で大丈夫だろう。まだ痛むとは思うけど」
琴子の脚を冷やし続けていたシャワーを止め、直樹は言った。

「ううん、…もう平気だよ。ありがとう」
琴子は首を横に振って、そして直樹に笑いかける。

本当はまだ痛むはずだ。その証拠に膝下は今も尚、薄赤く腫れている。
それでも琴子は感謝の言葉を口にするのだ。 本当に、まるで何もなかったかのように――

「…ならいいけど」
直樹はシャワーをフックにかけると、琴子の手を取り立り上らせた。

「ごめんね、入江くん。お風呂入ったばっかりだったのに…。ズボン、濡れちゃったね。私、やっぱり入江くんに迷惑かけちゃうね…」

琴子が直樹の脚下を見て悲しそうな顔をする。そう言う琴子のロングスカートは、直樹よりずっとズブ濡れだった。

「……」

直樹は居たたまれなくなる。元はと言えば、この事態を招いたのは自分だ。自分の言動全てが琴子の心を揺り動かす事など、出会った頃から知っているのに―― 
楽しそうに鼻歌を歌う琴子を見て苛立った感情を琴子にぶつけた自分の浅はかさに、直樹の胸は締め付けられる。

「…着替えれば済む事だから。 それより琴子、お前このまま風呂に入れ。その後、薬塗るから」
漸くそれだけ口にした。

「えっ いいの…?」
琴子は顔を赤らめて直樹を見つめた。

「ああ。お前、不器用だから包帯巻けねーだろ」

「うっ それもそうね…。あ、じゃあ私、着替え取ってこなきゃ―」

琴子はそう言うと、水を含んで重くなったロングスカートの裾をたくし上げ、絞り始めた。
風呂場の黄色っぽい明りの中で、その真直ぐで白い足が晒される。直樹は思わず目をそらした。

「ここで待ってろ。今日の洗濯物なら、おふくろが畳んでお前の部屋に置いてるはずだから。それでいいか?」

「え、う、うん。で、でも///」

「…お前の色気の無い下着なんて見ねーよ。だから、…ちょっと待ってろ」

そう言って直樹は浴室から出ると扉を閉め、ズボンの濡れた裾を雑に折り曲げた。
2階へと上がり、自室に入ると着ていたパジャマを脱ぎ棄て、新しいものへ着替える。そして、琴子の部屋へと足を向けた。

カチャリとノブを回してその部屋の中に足を踏み入れ、電気を付ける。
入ってすぐのチェストの上に着替えは置かれていて、直樹はそれを無造作に取り上げた。

「………」
部屋を出て行く前、直樹は何とはなしに室内を見渡す。
何度か入った事のあるその部屋は、母曰く将来2人の寝室にするという理由で、自分や裕樹の部屋よりも大きめの間取りになっていた。装飾も母好みの少女趣味に彩られていて、何を期待しているのか、ベッドはセミダブルが置かれている。

「ったく。…使わねーよ」わざと大きな声で呟く。
ついでに、見たくないものを見つけてしまった。

ベッドの上には、幾通りかコーディネートされた洋服の残骸が残されていた。
きっと出掛ける間際まで、何を着て出掛けるか迷ったのだろう。自分以外の男と会う為に服を選ぶ琴子を想像すると、直樹は胸の奥がチリっと焼ける感覚に陥る。感情に蓋をするように、直樹はその部屋の扉を閉めた。



「…おい、入るぞ」

ノックしても返事がないので扉を開けると、浴室からは既にシャワーの流れる音がしていた。脱衣所には、ふわっとシャンプーの匂いが充満している。
― おれが戻ってくる事が分かっているのに、全く無防備だな…
思わず苦笑してしまう。
さんざん好きだと公言し、追いかけてくるわりに、どこか直樹を男だと思っていない節が琴子にはある。そうでなければ、どうして今扉を隔てて裸になれるのか――。
今更ながらにこの奇妙な同居生活を疎ましく感じる。バスケットの中に琴子の着替えを入れると、直樹は足早にそこから離れた。





床に散らばった湯や急須を片付け終わり、一息吐いた頃、琴子がリビングに入ってきた。

「あの…。お風呂、あがったよ」
さっきの言葉は本当かと、捨てられた子猫のような目で直樹を伺い見る琴子に、直樹は救急箱を持ち上げてみせた。

「じゃあ薬。ほら、さっさと来い」

「…うん――!」琴子は直樹の傍にいそいそと歩み寄ると、ぺたんと床に腰を落とした。


「― 入江くんって、本当にお医者さんに向いてるよね」
手際良く巻かれた包帯に、琴子がぽつりと呟く。

「だから、これで医者になれたら誰でもなれるって言っただろ。―― はい、おしまい」」直樹はそう言って最後に結び目を縛って救急箱を片付け始める。

「…ねぇ、入江くんも今日、デートだったの…?」琴子が俯いた姿勢で直樹に問いかける。

「…ああ、まぁね」直樹も琴子を見ようとはせずに返事した。

「でも…、今日は早かったんだね」

「― 明日親父、退院だから。朝から何かと忙しいだろうし」
…勿論理由のひとつだが、これが最大の理由では、無い。

「そ、そっか…、そうだよね。退院準備があるもんねっ。 でもおじさん…、退院良かったね」
しかし琴子は一人納得して顔を赤くし、恥ずかしそうに笑う。

「でも…、おじさんが仕事に復帰しても…。入江くんは仕事、続けるんだよね…」再び琴子の声が沈んだ。

「そうだな。相変わらず俺、社長代理だし」直樹は淡々と答える。

「で、でも…、入江君は何にでもなれちゃうもんね…!お医者様じゃなくても、おじさんの右腕として活躍して、子供たちが喜ぶおもちゃを沢山作って……!!そ、それから…、理想の女の人と結婚…し、て……」
はじめこそ無理に明るく話していた琴子の声は、どんどん小さくなり、震えていく。

「沙穂子さん…。本当に、綺麗な人だよね……。おしとやかで、頭もよくって…」

「…そうだな」

「こないだ、エレベータで会った時も…香水の良い匂いがしてて……」
琴子の声は涙声になってきている。

「― もういいよ。沙穂子さんの話は」
とうとう直樹は言葉を遮った。そして、ずっと聞きたかった事を尋ねる。

「…お前こそ、今日、デートだったんだろ?」

「え、あ あの…デートっていうか……」

「…誰と?」

「き、金ちゃんだけど……」

金之助――。 琴子の返事に、直樹は心にかかっていた靄がやっと少し晴れて行くのを感じた――
「ぷっ 金之助か。お前、ほんっとモテねーな」

「なっ なによ!ほっといて――」

「――さっきはごめん。熱かったよな、熱湯」
心が軽くなった今、直樹から漸く素直な言葉が零れ出た。

「え…?」

「…ひどい火傷にならなくて、急須もヒビだけだったから、怪我することもなくて…。― 良かった、本当に」
片付けをした時、もし破片で琴子が怪我をしていたら…と想像すると、直樹はぞっとしたのだった。

「入江くん……」

「それから…。― あんな時間から、茶漬けなんか食ったら太るぞ」

「そ、そうよね…」

「じゃ…、今日はもう寝ろよ。」
そう言って、直樹は立ち上がると、リビングの扉に手をかけた。

「う、うん。おやすみ…。あ、あの、入江くん……!」

「… 何?」

「― ありがとう……」

「…何も。おやすみ」
直樹はそう言い残して、部屋を後にした。自己嫌悪に陥りながら、自室へと引き上げる。



バタン
扉を閉めて明かりをつけると、まだカーテンを引いていなかった部屋に、自分の姿が映った。

「誰だ、こいつ――」直樹は呟く。



琴子が誰かとデートしていた事に苛立ち、不用意に琴子を追い詰めた自分。

デートの相手が金之助と知った途端、侮りを覚えた自分。

沙穂子さんの香水よりも、風呂上がりの琴子のシャンプーの匂いに正気を失いそうになった自分――



振り返ってはいけない。まだ今なら、自分を誤魔化す事が出来る――



直樹は携帯のリダイヤルボタンを押す。

「もしもし、沙穂子さんですか。直樹です、今日は短い時間しかお会いできなくて…。ええ、そうですね。
それから、今日話した親父の退院パーティの件なんですが…。やはり、明日いらして頂けないでしょうか?父に沙穂子さんの事、きちんと紹介したいですし…。ええ、勿論、会長も是非。それではまた明日。おやすみなさい」

携帯を電源ごと切った直樹は、部屋の明かりも消してしまうと、ベッドに突っ伏した。




―― 振り返る事が出来ない道ならば、いっそ何も見えないように、辺りを暗くして進めば良い。

振り返ったその先に、もし光を見つけたとしたなら…今度こそ、自分は本当に眩暈を起こす。






久しぶりに禁断の10巻に手を付けてしまいました…
暗い。直樹が暗い…。
今度はキリリクのお話をUPさせて頂く予定です。って、まだ何にも書けていませんが(+_+)
お目汚し、すいませんでした。。

コメントの投稿

secret

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comment

拍手コメントありがとうございます

chan-BB様

こんばんは。こちらにもコメント入れて下さってありがとうございます(^^)
そうですよね、この時期の直樹が暗いのは当然なんですよね。ただ先が分かっているとはいえ、こうした終わり方の話は殆ど書いていなかったんで、自分で苦しくなっちゃいました(^_^;)
「生まれて初めての葛藤」のお言葉に、深く頷きました。こんな大きな問題でそれを経験するなんて、直樹の人生もヘビーだな…。
沙穂子さんへの電話のシーンはこの話を描く時直ぐに浮かんだ所です。自分を枠にはめ込もうとする直樹に注目して頂けて嬉しいです。
そして…スキマについてのお言葉、ありがとうございます~!chan-BBさんにそんな風に仰っていただけたら、もうもう!!感激です☆

拍手コメントありがとうございます

繭様
こんにちは(^^)
冒頭で直ぐにシーンを再現して頂けたようで嬉しいです。そして繭様の読解力にはすっかり脱帽です!私が描きたかった直樹の孤独を、この拙い文章からよく掬い取って下さいました!感動です(T_T)
「本当は自分の感情を押さえるの上手くて、自分の気持ちを上手く表現する事が出来ない」…まさにその通りだと思います。この頃の直樹は本当に、色んな意味で孤独だったと思います。原作初見時はどうしても琴子目線で読んでしまいましたが、直樹にフォーカスすると更に切なく感じました。
琴子がシャワーを浴びていた時の、琴子の心理もまさに私が思い描いたイメージ通りです。こんな所にも注目して頂けて…!
とにかく今回の繭さんのコメント、もうこの話の解説として載せたいくらい感動しました。読み込んで下さって本当にありがとうござますm(__)m

くーこ様へ

何度もコメント寄せて下さりありがとうございます!
分かりにくい描写で申し訳ないです(T_T)そして納得していただけたようで良かったです。
もう完全に私の解釈・妄想のスキマですが、原作につなげて頂いて嬉しいです(^^)

すみません

「↑」ではなく「↓」でした(^▽^;)

すみません!!

なるほど!

↑のRuRuさんへの返信を読んで納得です!

ぴくもんさんのお話の中でデートの相手が
金ちゃんとわかってなんでホッとしたのか
少し疑問だったんです。
でもこの返信内容を読んでよくわかりました!

そうですよね、そこではあまり大げさなことととらえてなかったからこそ続きの原作のあの
入江くんの嫉妬や動揺がある・・納得!!

さすがです!

コメント・拍手コメントありがとうございます

苦手と自分自身でもよく分かっている10巻に手を出してしまいました…。
そんな中、コメント頂けて本当に嬉しかったです。ありがとうございますm(__)m

舞様
こんばんは。コメントありがとうございます!
そうですよね、入江君、この日一日、琴子が誰とデートしていたのか気になっていたと思います。(裕樹君にも思わず「誰と?」と尋ねていましたものね)
そして、舞さんの気になられた所ですが…
確かに原作で、入江君が素直に謝るシーンって、見た事ないですよね。でも、琴子を傷付けてしまった後はいつも何とも言えない表情をしているので、ちゃんと、人の気持ちを分かっている人だと思います。なので、見えないところできっと、謝ったりしているんじゃないかな…と思います。(スキマ⑯で書いている【Swinging Heart】もそういう発想のお話でしたし(^^))
琴子はきっとそんな気持ちだったのでしょうね。健気ですよね…


くーこ様
こんばんは(^^)
すいません、先の展開が分かっているとはいえ、私が書く話の中では珍しく救いのない終わり方をしてしまいました(>_<)
10巻を読むのが辛いなんて、くーこさんはお優しいんですね(^^)
次はキリリクの明るい(?)お話ですので、どうぞ楽しみにお待ち下さい♪(って、そんな大風呂敷引いていいのか!?って感じですが(^_^;))

RuRu様
こんばんは(^^)
本当、10巻は何度読み返しても切ないですよね。
私も原作初見の時は、どうしても琴子の視点で読んでしまって、「入江君、こんな時までイジワル言って!」と思いましたよ~。とにかく琴子が可哀想に感じましたが、大人になった今、この時一番苦しんでいたのは入江くんなんですよね。ふふ、私も歳をとったものです(^_^;)
デートから中々戻らない琴子に、この時きっと、凄くヤキモキしていたんでしょうね。沙穂子さんとのデートも早々に切り上げてしまう位に。
金ちゃんとデートしてたと分かって少し安心した入江君。本心は…どうだったんでしょうね?
私の解釈で恐縮ですが、本文でも書いた通り、この時はまだ、金ちゃんを侮っていたと思うんです。琴子が相手にしていなかったのも良く知っていますし。
だからその後、デート中に偶然出会った時に、思いがけず楽しそうな2人に更に嫉妬したし、理美とじんこから聞いたプロポーズの話で愕然としたのではないかなぁ…と思います。

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