::理由
配付元…kara no kiss様
50音・26文字お題よりお借りしています。
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仕事が休みだったある日の夜。夕食も済み、直樹はリビングのソファで読書をしていた。
向こうのキッチンでは紀子と琴子が後片付けをしていて、彼女たちの話し声や食器が重なる音が何となく耳に入ってくる。

「琴子ちゃん、本当にもうゆっくりしておいて頂戴。そんなに大きなお腹でずっと立っていたら疲れちゃうでしょ」

琴子を気遣う紀子の声が聞こえる。
妊娠が発覚してはや35週目。琴子のお腹はもうすぐ母親になる貫禄を十分に見せていた。

「いえ、大丈夫です!お医者様にも今日の検診で、適度な運動はしておいた方がいいって言われましたし。それにやりたいんです、あたし。産休に入ってからなんだか時間がありすぎて手持ち無沙汰なんです」

そう言って琴子は笑う。
その表情に紀子もつられて笑顔になると、「無理しないようにね」とだけ言ってそのまま一緒に片付けを続けることにしたようで、その後は世間話をする2人の和気あいあいとした声が聞こえてきた。


「さ、後はゴミの片付けだけだから私がしておくわ。琴子ちゃん、お風呂に入っていらっしゃい」

水音が途切れ、紀子の声がハッキリと聞こえてくる。

「はい、じゃあそうさせてもらいますね」
琴子はそう言うと手を拭き、エプロンを外した。顕わになったその腹の膨らみに紀子は目を細める。

「それにしても大きくなったわね~。もうすぐね、あと1カ月と少しすれば琴子ちゃんとお兄ちゃんの赤ちゃんが生まれてくるのよね~~!あんもう、私までドキドキしちゃうわっ」

「ふふ、おかあさんったら~。実はあたしも最近いよいよって実感が湧いてきてドキドキなんです。でもなんだか不思議。このお腹も、あと少ししたらペタンコに戻るんですよね」

琴子は愛おしそうにお腹をさすって微笑む。

「それにしても琴子ちゃん、それだけお腹が大きくなるとお風呂も一苦労でしょう。私もお兄ちゃんや裕樹がお腹に居た時はそれは大変だったもの。髪を洗うのも大変だから短くして、足の爪なんてパパに切って貰っていたわ。琴子ちゃんも遠慮しないでお兄ちゃんに切って貰いなさいね!」

「そ、そんなっ 入江くんにそんなこと///――」
琴子はとんでもないという風に手を振る。


「・・・・・・」
パタンと本を閉じると直樹は立ち上がり、リビングを出て行った。
紀子はそれを見て憤慨する。

「もう!お兄ちゃんはどうしてあんなに冷たいのかしら!!こんな事言われなくても自分からしてあげて当然よ!? 琴子ちゃん、気にせずどんどんお兄ちゃんを顎で使っておやりなさいな」

「あ、顎でなんて滅相も無いっ! いいんです、確かにちょっとお腹が閊えるけど、出来ないってわけじゃないですし。じ、じゃあお風呂頂いてきますねっ」

琴子はさらに顔を赤らめてそう言うと、そそくさと階段を上って行った。





「― あ、あれ?もしかして入江くん、これからお風呂に入るの?」
琴子は驚いて直樹に尋ねた。

「ああ、そうだけど」
寝室では直樹が風呂上がりの着替えを用意しているところだった。

「そっか、じゃああたしは入江くんの後にお風呂入ろうっと。あ、ゆっくり入って来てね」

これから自分が風呂に入ろうとしている事を知っているだろうと思っていた琴子にとって、直樹の行動は意外だったが、にっこり笑うとベッドに座った。

「なに寛いでんだよ、お前もさっさと用意しろ」
直樹は淡々と琴子に指示する。

「え?だって入江くん、これからお風呂に入るんじゃないの…?」
意味が分からないというような表情の琴子に直樹は平然と答えた。

「入るよ、お前と一緒にな」

「あ そっか、一緒にね、一緒に。…一緒に、お風呂……?え、あ あたしと入江くんが!?え、えええええ~~~!!!??」

その声は防音の効いたこの寝室の外にも盛大に響き渡った。直樹は溜息を吐くと、「先に入っとくから」と言って部屋を出て行った。



カチャ

遠慮がちにバスルームの扉が開く。直樹は湯船に浸かりながら、「遅い」と一言言った。

「ご、ごめん。で、でもなんで急に……///。今まで皆が居る時にこんな一緒になんて、入った事ないじゃない…?」

そう言いながら琴子は、バスタオルで身体を覆った姿でおずおずと入ってきた。

「そうだっけ」
しれっと言う直樹に琴子は真っ赤になって「そうだよ!」と答える。

「入江くん、絶対あっち向いててね。振り返ったりしたら絶対ダメだからね!!」

そう言ってシャワーのノズルに手にしようとした時、直樹の手がスッとそれを奪った。

「それじゃ意味ねーだろ。お前を洗ってやるために一緒に入ったんだから――」






シャーーー

シャワーの細かい水滴が琴子の髪を濡らす。

「ほら 目、瞑って」
直樹に言われて琴子はきつく目を閉じる。それを合図に直樹は頭皮に向かってシャワーをかける。

「- 入江くん、痛い。もっと優しく洗って」

「- もう、毛先をそんなごしごし洗わないで」

「- トリートメントは毛先中心になのっ よく馴染むように揉みこんで―」



「…ったく、どんどん注文付けやがって……。これでいいか?お客さん」

「ふふっ そうね。気持ちいい」

そう言って琴子は目を閉じたまま幸せそうに笑う。それを見て直樹の表情も柔らかくなった。


今、直樹と琴子は向かい合って座っている。琴子の肌にはがっちりとバスタオルが巻かれていた。

「せっかく身体も気持ち良くお客さん気分にさせてやろうと思ったのに」
直樹がからかうと、琴子は顔を真っ赤にさせる。

「そ、それは無理!!今こうしてるのだって、本当はすっごく恥ずかしいんだから///」

「ふ~ん、そうなんだ。さ、そろそろ洗い流してもいいのか?」

「うん、そうね。お願いします」

「はいはい。もう喋るなよ」

そう言って直樹はまた琴子の髪にシャワーをかけ、トリートメントを洗い流していく。
こうして見ると、琴子の髪は本当に長い。もともと癖の無いストーレートだが、こうしていると水の重みで更に伸びていくような感覚がする。「しっかり流してね」とまた注文を付け、口に湯が入ってむせる琴子の額を、直樹は「バーカ」と言って小突いた。


「ふぅ……。湯船ってやっぱり気持ちいいよね~」

浴室の中で、琴子の声が微かに響く。

「まぁな」

直樹は自分に背中を向けている琴子を抱きかかえるようにする。

「///入江くん、くすぐったい…」

琴子は身を捩るが、直樹にしっかり身体を固定されているので動けない。
直樹はすっと琴子の腹部に手を添えた。

「すっげー。グルグル動いてるんだな」

「うん、いつもそうなの。お腹の中でも水に浮いてるから安心するのかなぁ?」

「さぁ、どうなんだろうな」

2人は同時にクスリと笑う。

「もう少しして、この子が生まれてきたら……、そしたらあたしたちのどっちかが交代で一緒に入るんだよね」

そう言いながら、琴子も胎動を感じる部分に手をあてる。さっきまではグルグル動いていたはずなのに、今度はトントンと規則正しく叩いているようだ。

「そうだな。お前、沈めるなよ」
直樹はその手を覆うように包んだ。

「だ、大丈夫よっ でも…なんか複雑……」

「なにが?」

「だって、入江くんがあたし以外と2人でお風呂に入るのって…変な気分」

「ぷっ 子供にヤキモチ?心狭い母親だな、お前」

「し、失礼ね。ふと思っただけよ!ほんとに焼いたりする訳ないでしょっ」

「さぁ、お前ならやりかねないからな。でも―」

直樹は湯船から手を出すと琴子の頬を挟んで自分の方に向ける。

「なんかその方がお前らしくて、おれは楽しいんだけど」
そう言ってニヤリと笑った。






ゴォォォォーーー

騒音と共に大容量の風吹き出し、琴子の髪がなびいている。

またもや琴子の煩い指示に従って、直樹はその長い髪を乾かしてやっていた。漸く水気がなくなり、いつもの指通り滑らかな髪質になったのを確認すると、直樹はそのスイッチを切った。


「ありがとう。びっくりしちゃった、髪まで乾かしてくれるなんて。一体どんな気まぐれ?」
鏡越しに琴子が笑顔で尋ねる。その無邪気さに直樹はふっと笑った。

「わかんない?」

直樹の質問に琴子は首を傾げる。そしてこくんと頷いた。

「おれはよーく分かったんだけどな」
直樹はドライヤーをドレッサーに置くと、今度はブラッシングを始めた。

「ねぇ、なんの事?」
やはり鏡の直樹に向かって質問する琴子に、直樹は髪をつんとひっぱった。

「これだよ」

「へ?」

「― 髪の事。こんな長い髪、洗うのも乾かすのも大変だろ。とくに今は」

直樹の言葉に琴子は驚いて目を丸くさせていたが、やがてふっと笑った。

「うん、確かに最近とくにきつかったんだ」

― やっぱり…。 直樹はふぅと溜息を吐く。

「なんで切らないんだ?」

直樹の問いに、琴子は少し恥ずかしそうな表情を浮かべる。そして

「だって… 入江くんに指で梳いてもらいらいんだもん」と微笑った。


「……。それが理由?」

「うん、そう。だって入江くん、この髪だけはよく褒めてくれるから…。入江くん、髪の長いのが好きなのかなぁって……///」

琴子は俯きながら自分の髪を指に巻きつける。



「…… バーカ」呆れたように直樹が低く呟いた。

「なっ! き、聞かれたから正直に答えたのにそんな言い方ないじゃないっ――」

琴子はバッと上を向いて直樹に食ってかかろうとする。するとそれを封じるように直樹の唇が下りて来た――。



「へ…?」
どうして?と言いたげに自分を見つめてくる琴子に、直樹は苦笑する。

「おれが好きなのは、長い髪じゃなくて、琴子の髪」

「あたしの、髪…?」

「そう、もっと正確にいうなら、琴子の髪じゃなくて琴子が好きなんだよ」


「― 入江くん……」
琴子はただ驚いて直樹を見つめる。

「なに、おれがこんな事いうと、そんなにおかしいか?」
「うん」

プッと直樹は吹きだす。

「そんな間髪なしに答えられたら寧ろ気持ちいーな」

「ご、ごめん」
申し訳なさそうにする琴子が面白くて直樹はさらにクスクス笑う。が、それを治めると掌を琴子の頭にそっと乗せた。

「いーよ。でも…これが本心だから。だから、迷ってないで切って来いよ」

「入江くん、気付いてたんだ……」

琴子の科白に直樹は苦笑する。

「そりゃ、な。最近お前、風呂入って髪乾かしたあといっつも疲弊していたから」

「…なるほど。確かにそうだったかも…」

琴子も最近の自分を振り返って苦笑した。


「入江くん、あたし明日、髪切ってくるよ」

「ああ。」

「似合ってなくても、笑わないでね」

「さぁ?それはどうかな」

「もうっ入江くんのイジワル――!」

2人の掛け合いはいつまでも続く―――




「… そうだ、入江くん」

「― 爪も切れってか?」

「わぁ!正解、よく分かったね?」

「…まぁね。ほら、新聞出して、そこに座れよ」

「うん!」

無邪気に足が差し出される。


「それじゃあ切らせていただきますか」

直樹はふっと笑うと、爪切りをその指先に近づけた。






chan-BBさん宅でもお風呂の話を投下してきたばかりなので、このタイミングでまた風呂絡み…と思われたかもしれないですが(^_^;)書きかけていたので(笑)お許しくださいm(__)m

それからあともう一つのキリリク、なかなか進まずにm様、本当に申し訳ありません(>_<)
どうかお待ち下さいますようお願い申し上げます・・・。




原作以降の妄想  コメント(7)  △ page top


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::拍手コメントありがとうございます
くーこ様

こんばんは!うんうんと頷くくーこ様のお姿が見えたような気がしました(^^♪
そうそう、入江君なら家族がいようがいまいが、その時の琴子に必要とあればお風呂くらい一緒に入って髪を洗ってあげたりするような気がしますよね!
なんだかんだ(笑)、私もそう思います(^m^)
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::拍手コメントありがとうございます!
繭様

こんばんは!そうなんです~、直樹の優しさ増幅です(^m^)らしくない気もしましたが、二次創作の世界なんでいいや~♪と書かせて頂きました(笑)
本当に優しい直樹。でも、繭さんの仰る通り、ただ一緒に入りたかったのもあると思います(^^)
繭さんにこのお話を要約して頂いて、ほんとに今回相当ラブラブだ!と改めて気が付きました~~。
赤ちゃんが生まれる前も生まれてからも2人にラブラブでいてほしいのは、イタキスファン皆の願いですよね!そしてその願いは間違いなく叶うと思います(^^♪

chan-BB様

こんばんは!
いえいえ、お忙しい中をコメントして下さってありがとうございます♪
そうなんですよ~、これがこの前話していた「お風呂」話です(^^)
直樹が態度でも言葉でも優しいという雪でも降るのでは!?というようなお話でしたが(笑)、「いいじゃない!」のお言葉ににんんまりです(^^♪そうですよね~、色々な直樹が見られるのがこの世界の醍醐味ですよね♪と、どんどん調子に乗る私(^_^;)
そして、「琴子の爪を切る直樹に萌え」に(笑)ww!!でも分かります!!これ、書きたかったんです(^m^)
ちなみにさっき私、自分でパチパチ切りました。そして物凄い深爪に・・・(T_T)不器用いや~~(涙)
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::拍手コメントありがとうございます!
まあち様

こんにちは!やったぁ~~まあちさんの可愛い笑い声が聞けました!!
今回の入江君は毒気まるでなしでひたすら優しく書いてみたので入江くんっぽくないかな?と心配していたのですが、素直な「琴子が好き」の台詞を喜んで頂けて嬉しいです(^^)
紀子ママ・・・絶対どこかにいますよ!!(笑)だって、・・・ねぇ(笑)?

chan-BBさん宅に寄贈したお話にまで触れていただいてありがとうございます。chan-BBさんのお力で、いつもと違う感じの作品が書けて楽しかったです~~♪

このあとお風呂で妄想三昧していただけましたでしょうか?またほかのお風呂も書いてみたいなぁ♪

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::コメントありがとうございます!
藤夏様

こんにちは!
そうなんですよ、私もアニメのイタキス24話で琴子がショートヘアになった事に驚いたんです。
ロングヘアって本当にお手入れ大変ですもんね。琴子はスーパーロングだから尚の事大変だろうし、こんなエピソードがあってもいいかなぁ・・・なんて思い書かせていただきました(^^)

今回、入江君をめちゃ優しく書いてしまったので皆様の反応どうだろう・・・と心配したのですが、藤夏さんのコメント読ませていただいてほっとしました♪ありがとうございました!!

りきまる様

こんにちは!
そうですよね、35週っていったら8ヶ月後半ですよね。この頃になると、妊婦さんは本当にひとつひとつの動作が大変になる時期ですよね。
アニメのイタキスで、入江君が妊婦体験をするしーんがありましたが、医者として妊婦の身体の負担は知っていただろうし、琴子の大変そうな姿を見たら優しくしてあげたんじゃないかなぁと思い、すっかりいい旦那さんっぽく書いちゃいました(^^)
りきまるさんにも喜んでいただけて嬉しいです♪

爪を切った後は腰のマッサージを・・・というコメントに「ほんとだぁ!させれば良かった~~」と思いました。ええ、きっとしてあげていると思います!!(笑)

makomama様

こんにちは!すいません、コメントいただいちゃって・・・!!お気遣いいただいてありがとうございます。なんと頑張りますので楽しみに待っていただけたら嬉しいです!!

そうでした、makomamaさん、紀子ママのファンでしたよね!こんな少しの登場でも喜んでいただけて嬉しいです!
紀子ママ、2人がお風呂入っている間大人しくしているわけないですよね~~。色々妄想してください(笑)私も妄想してますよ♪
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::こんばんは!
こんばんは!またまた素敵なお話をありがとうございました。ぴぐもんさんのお話はとても分かり易くて、思わず映像が頭に浮かんできます・・・。♪
そんでもって勝手に妄想~。(笑)それから私の大好きな紀子ママを登場させてくださり、めちゃめちゃ嬉しいです。やっぱ紀子ママはこうあって欲しいですよね!

キリリク、悩ませてしまっているようですみません。くれぐれもご無理をなさらないでくださいね。
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